2月前半に出そろったテレビ局の第3四半期決算で見えた、視聴率と番組CM収入の不都合な真実とは?(写真:sutiporn/PIXTA)

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テレビ局の第3四半期決算が2月前半に出そろった。昨年11月に発表された上期(2020年4〜9月)決算では、新型コロナの感染拡大により、関連会社を除いた単体の営業利益で、テレビ朝日が9億2600万円の赤字、TBSが3億6100万円の赤字、フジテレビはわずか1億円の黒字と、かつて例のない厳しい状況だった。

それがどうなるのか注目していたが結果は、4〜12月の第3四半期で急回復。テレビ朝日とTBSはともに30億円以上の営業利益となり赤字は解消された。しかしそれでも前年比で見ると、売り上げ・利益ともに大きくへこんでいる。

(外部配信先ではグラフを全部閲覧できない場合があります。その際は東洋経済オンライン内でお読みください)


注:営業利益の単位は百万円 (決算資料より筆者作成)

急回復の要因はスポット収入だ。テレビCMには、タイムCMとスポットCMがあるが、タイムCMは番組の提供社が番組の中で出すCMで契約期間は半年間。かなり前から戦略的に予算を組む。一方、スポットCMは番組とは関係なくテレビ局が定めたCM枠で流す広告で番組の指定はできないが、CMを流す大体の時間帯と期間を設定できるため広告主は機動的に広告を打てる。

景気の動向の影響を大きく受けるスポット収入

景気が悪くなると最初に削られるのが広告費だと言われているが、とくに機動的に広告出稿できるスポットCMは直近の景気に大きく左右される。

在京キー局5社の、このスポットCMによる収入が、四半期ごとにどう推移しているかをグラフにした。


(決算資料より筆者作成)

前年比で100%以上なら前年のスポット収入より増え、以下なら減っていることになる。2018年度から見てみると、前年より増えたのはわずかな期間しかなく、ほとんどが前年より減っている。つまり、コロナ前からスポット収入は緩やかに下降線を描いていたことがわかる。

ただ、今年度1Qのマイナス30%以上という減り方はあまりに急激で、2Qでも回復せず上期の決算が最悪だったのも、四半期推移を見るとよく理解できるだろう。

3Q(2020年10〜12月)は大きく改善し、日本テレビ、TBS、フジテレビは100%超え、つまり前年より増えている。コロナ禍の自粛から解放され経済が戻ってきたからだろう。もっとも経済が回復し人の移動が急に盛んになった影響で感染者が急増し、1月以降は非常事態宣言が出されているので、おそらく4Qはまた大幅に下がることが予想される。

各社の第3四半期決算資料を分析していて気になったのがテレビ朝日だ。

決算資料を基に、2018年度からの局別プライムタイム(19時〜23時)平均世帯視聴率の推移をグラフにした。


(決算資料より筆者作成)

テレビ朝日のプライムタイム平均世帯視聴率は3年連続で上昇、今年度の3Qまでの平均では王者日テレと同率1位に並ぶ絶好ぶりだ。またグラフにすると、10年前までは圧倒的に強かったフジテレビの凋落ぶりにも改めて驚く。

ここで、この期間の四半期ごとの局別タイムCMの収入額推移を見てみると、まったく異なる光景が見えてくる。


(決算資料より筆者作成)

タイム収入も新型コロナ感染拡大の影響を受け、全局とも今年度1Qでガクッと下がっている。ただタイム収入は、スポット収入のように急回復の様子は見えない。これは3Q、4QのCM枠が売られた今年度前半は、まだ自粛の空気が強く、広告主も積極的に広告に投資するマインドではなかったためだろう。

それより不思議なのはテレビ朝日だ。視聴率で王者日テレに迫り、ついに同率1位に並んだはずだが、この3年ほどの間のほとんどの期間、タイム収入の金額ではフジテレビやTBSより下の4位に甘んじている。

この理由を解き明かすデータも、決算資料の中にある。「個人視聴率」だ。

視聴率は50年以上もの間、「世帯視聴率」という指標が使われてきた。世帯視聴率は、モニターとなった全世帯の中で番組を見た世帯の割合を示したものだ。その世帯で何人が見ているかはまったく関係ない。

一方、個人視聴率は昨年4月に新たに導入された。モニターとなった全世帯に住むすべての人数のうち、何人が番組を見たかの割合を示すものだ。

昔は、テレビは一家団欒の場で、家族みんなで見るものという考え方が根本にあった。もちろん、技術的に家族の中の誰が見たのかを調査する方法がなかったせいもある。しかし核家族化や1人世帯の増加で、テレビは自室で、1人で見るなど人々の生活パターンが変わった。またテクノロジーの発達によって調査方法も進化し、調査対象の世帯の誰が見たのかという個人視聴率というデータを取れるようになった。

個人視聴率で4位転落のテレ朝

ある局の決算資料として公表されている「13〜49歳の男女」の個人視聴率の、2018年度から2020年度3Qまでの推移を見てみよう。世帯視聴率とはだいぶ異なる様相なのが見て取れる。


(決算資料より筆者作成)

日テレがダントツに強い1強となり、世帯視聴率では日テレに並んでいたテレビ朝日が4位に落ちてしまう。そして4位だったフジテレビが2位に浮上、これにTBSが迫るという形になる。

世帯視聴率との差異の原因は年齢だ。人口ピラミッドで見ると50代以上の中高年層より、「13〜49歳」という層は少ない。(ちなみに個人視聴率は世帯視聴率より数字の上では4割ほど低くなるといわれている。つまり個人視聴率で6%なら世帯視聴率では10%に相当するということだ。)


(筆者提供)

この限られた年齢層のテレビ視聴データの面白いところは、視聴傾向とタイム収入の傾向がほぼ一致することだ。

下のグラフは2018年度から2020年度3Qまでの、年度別のタイム収入の四半期ごとの平均を比較したものだ。日テレが圧倒的に強く、それに続くのがフジテレビ、テレ朝はTBSより下など、男女13〜49歳の個人視聴率グラフの傾向とほぼ一致する。


(決算資料より筆者作成)

つまり番組提供によるタイムCMという、1本1億円超の巨額の広告費を投資する広告主は、主にこの男女13〜49歳の視聴者層を狙っているということになる。また、テレビ局としては、この個人視聴率という指標で各番組の視聴率を上げれば、タイム収入が増えるということになるのだ。

世帯視聴率は高くてもタイム収入は低い

世帯視聴率では日テレと同率1位だが、13〜49歳の個人視聴率では4位、タイム収入でも4位に甘んじているテレビ朝日。視聴者に高齢者が多いというのは以前からいわれていたが、個人視聴率が用いられるようになり50歳以上の視聴者が多いということが実証された形となった。

多くの広告主は10〜40代の年齢層に訴求したいと考えている。もちろん健康食品や健康器具、高齢者向け保険など高齢者をターゲットとする企業もある。しかしそれは広告費の額としては多くはない。だからテレビ朝日は世帯視聴率が高いにもかかわらず、タイム収入が低いのだ。

広告主は今や視聴者がどんな属性かを分析し、自社のターゲットになるかどうかを見極めて広告出稿を判断している。これは、ネット広告で重ねた経験値によるものだ。ネット広告は、ユーザーの居住地、性別、年齢、購買履歴など非常に詳細な属性がわかるうえ、広告を見てほしいユーザーを狙い撃ちするターゲティング広告を打てる。

さらに広告が購買につながっているのか、どれだけ広告に投資すればどれだけの効果が上がるのかなどが容易にわかる。この便利さを経験してしまった広告主は、テレビ広告の曖昧さに不満を抱くようになった。昨年4月からの個人視聴率導入はテレビ局側がその不満に応えたものだ。

また今では、1社が独占的に提供するいわゆる「視聴率」だけでなく、いくつものマーケティング会社がさまざまな指標を提供し、分析し、広告主は多面的に広告効果を測定できるようになった。

これまでは視聴データを生かして機動的にスポット広告枠を購入しようとしても、テレビ局が出してくるのは大雑把な広告枠だけだった。しかしそこにも新しい潮流が生まれようとしている。スポット広告を「何月何日のこの番組の前に打つ」などというピンポイントの購入がネット上でできるシステムが生まれた。

高齢者向け番組量産では生まれない価値

実は個人視聴率も、13〜49歳の視聴率も、ピンポイントでの広告枠販売も仕掛けたのは日本テレビだ。1強のポジションだからできるともいえるし、こんなことができるからダントツの1強でいられるともいえる。

テレビ広告費がネット広告費に逆転されたことを過大にとらえ、「テレビ広告はもうダメだ」などという論調をよく耳にするが、ネットとは比べようもない圧倒的なリーチ力がテレビにはまだある。

テレビ広告は高額だというイメージがあるが、広告が1人当たりに到達するコストでみると、テレビはネットの2分の1〜3分の1程度と、はるかに割安。アメリカと比べても、日本のテレビ広告はかなり安いといわれている。

今、テレビ局に必要なのは、世帯視聴率に引きずられ高齢者向け番組を量産することではなく、若い世代に見てもらえる番組を作ること。そしてテレビ広告の価値を高める努力だ。この点では日テレが大きく一歩、抜きん出ている。

テレビ広告にはまだ成長の可能性があるし、テレビ局にはまだまだやれることはたくさんある。やらなければ自滅していくだけ。そんなテレビの未来が垣間見えた2020年度第3四半期決算だった。