南野拓実の電撃移籍の裏にある目論見、ハッセンヒュッテル監督の存在と両クラブが考える「Win-Win」の取引

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冬の移籍最終日に電撃的に移籍を果たした日本代表FW南野拓実。その裏側には、それぞれのクラブの思惑が大きく働いていた。

南野は5日、リバプールから今シーズン終了までのレンタル移籍でサウサンプトンへと加入した。

かつては、京都サンガF.C.に所属する元日本代表FW李忠成が所属し、現在はサンプドリアでプレーする日本代表DF吉田麻也が中心選手として長らく在籍したクラブであり、日本人にとっても馴染み深いクラブの1つだろう。

南野は2020年1月にザルツブルクからリバプールに加入。難しい時期の入団であり出場機会も限られた中、今シーズンはプレミアリーグ開幕前のコミュニティ・シールドでいきなりゴールを記録。さらに、カップ戦でもゴールを記録すると、12月にはプレミアリーグ初ゴールを記録するなど、控えが中心でありながら着実に結果を残していた。

一方で、チーム内での競争ではなかなか勝てず、起用される時間も限られていた状態の中、初ゴール以降は1試合6分しかピッチに立てていなかった。

◆手放したくなかったクロップの“本音”

南野の起用法についてはユルゲン・クロップ監督も「タクミは信じられないぐらい良い選手で、我々が十分にチャンスを与えてあげられなかった」と自身が起用できなかったことを告白。その理由としてはディフェンス面でのサイズをあげ、「タクミがピッチに入ると、背の高さが足りず、どうすれば良いんだ?という感じでね」と語り、能力以外の部分で起用が難しかったを告白していた。

一方で、獲得に動いたサウサンプトンだが、本来欲しかった選手はサイドバックの選手だった。冬の移籍市場での補強を目指した中でなかなか候補が見つからず。最終的にはサイドバックではない南野を獲得したが、本来はリバプールのサイドバックを狙っていたようだ。

『アスレティック』によると、サウサンプトンはウェールズ代表DFネコ・ウィリアムズに興味を持っていたとのこと。しかし、取引が成立するまでに時間がなかったこと、さらにはセンターバックにケガ人が続出している今季のリバプールとして、最終ラインのメンバーを削ることをしたくなかったこともあり、この移籍は実現しなかった。

そんな中、突如として名前が挙がったのが南野だった。サウサンプトンは最終日になっても南野のことは頭になかったとのこと。しかし、サイドバックの補強を諦めた結果、一気に南野の獲得にこぎ着けた。この移籍はリバプールにとっても、サウサンプトンにとっても「Win-Win」の取引となった。

クロップ監督は「サウサンプトンから名乗りを上げるまで、彼を手放す意味を感じるクラブがなかった」とハッキリとコメント。しかし「サウサンプトンは理にかなっていると感じた」とし、「タクミのフィット具合で17試合にプレーできる可能性が十分にあり、それがみんなの助けとなる」と語り、南野が十分な出場機会を得られると考えたようだ。

なぜこの移籍が「Win-Win」になるのか。それは、サウサンプトンを率いるラルフ・ハッセンヒュッテル監督にある。

南野拓実がサウサンプトンにフィットする理由

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2018年12月にサウサンプトンの指揮官に就任したハッセンヒュッテル監督だが、それまで率いていたのはドイツのRBライプツィヒだった。

レッドブルグループの1つであるライプツィヒで指揮を執っていたハッセンヒュッテル監督が南野を受け入れた理由は1つ。ザルツブルクでのキャリアだった。

南野はザルツブルクでキャリアを積み、5年間で199試合に出場し64ゴール44アシストを記録していた。そこでの活躍を経て、リバプールへの移籍を掴み取ったが、サウサンプトンでプレーすることはプラスに働く。

レッドブルグループは一貫した方針を掲げており、ザルツブルクで活躍した選手がライプツィヒに移籍するケースも多い。ハッセンヒュッテル監督としては、ザルツブルクで5シーズンにわたってレギュラーとしてプレーした南野が、自身が掲げるサッカー、特に守備面での貢献などで計算が立つと判断したのだろう。また、同胞であるクロップ監督が才能を買っているという点も、大きな後押しとなっただろう。

そしてもう1つがサウサンプトンの攻撃陣にケガ人が出ているということだ。

9-0というマンチェスター・ユナイテッド戦の大敗が記憶に新しいが、サウサンプトンはMFイブラヒム・ディアロ、MFオリオル・ロメウ、FWセオ・ウォルコットを欠いていた。

3選手は1月30日に行われたプレミアリーグ第21節のアストン・ビラ戦で負傷。チームは攻撃のカードを失っている状況であり、サイドバックを補強したかったものの南野を提案されて断る理由がなかったのだ。

一定のクオリティを確保できること、そして自身が掲げるサッカーに適応する速度を考えれば、南野はサウサンプトン、そしてハッセンヒュッテル監督にとっては願っても無い補強となった。

◆異例の契約形態、出場すればレンタル料が減額

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現に南野の移籍は短時間で成立しており、リバプールとサウサンプトンの思惑が一致したことを示している。『アスレティック』によれば、代理人を介さず、クラブ間で話をまとめ、南野に意思を確認して合意したようだ。

出場機会を与えたかったリバプールと攻撃のクオリティを求めていたサウサンプトン。まさに「Win-Win」の取引となったが、さらに続きがある。

『アスレティック』によれば、南野のレンタル移籍には50万ポンド(約7200万円)が動いたという。しかし、この金額は最大のものであり、サウサンプトンには支払額を下げられる方法がある。それが南野の出場時間だ。

従来よくある契約では、出場時間が一定数を超えると買い取り義務が発生したり、移籍金が増額するというものだが、この南野の契約は出場すればするだけ移籍金が下がるというもののようだ。

つまり、プレミアリーグでの出場機会を与えたかったリバプールにとっては、レンタル料か南野の経験値が手に入る仕組み。サウサンプトンとしても、起用することでレンタル料が下がり、南野が戦力に計算できれば存分に起用できることになる。

まさに「Win-Win」の取引となった南野拓実の電撃移籍。それが本当の意味で「Win-Win」になるには、やはり数字で結果を残すことしかない。サウサンプトンは6日にニューカッスルと対戦。南野が早速デビューする可能性がありそうだ。