1月25日、ヘタフェは敵地でアスレティック・ビルバオと戦い、5−1と大敗を喫している。

 スペインスーパーカップでレアル・マドリード、バルセロナを撃破して戴冠したアスレティックは、屈強さで上回った。まるで押し太鼓に背中を後押しされるような苛烈さで前にボールを入れ、カウンターで突っ込む。勢いのまま敵陣でファウルを誘うと、イケル・ムニアインが精度の高いボールを入れ、空中戦にめっぽう強い選手たちが雪崩れ込んだ。

 もともと、ゴール前の強度はリーガ・エスパニョーラでも屈指。先制を許した後に同点弾をジャンピングボレーで決めたラウル・ガルシアは「空飛ぶ猛牛」とも言われる。クロスに入る迫力は満点で、3点目のヘディングシュートも見事だった。

 久保建英は、"獅子"の異名を取るアスレティックを相手にどう戦ったのか――。


アスレティック・ビルバオ戦に先発、68分までプレーした久保建英(ヘタフェ)

 試合開始数秒でヘタフェは先制したが、そのシーンで久保はチームプレーヤーとしての仕事をやり遂げている。

 敵陣へいっせいに入って味方全員で相手をはめ込む中、久保はクリアに似たパスに対し、感覚的に足を出して引っ掛けている。そこで間髪入れず、ペナルティエリア内で動き出したハイメ・マタへパス。これを一度、外側に戻したボールをカルレス・アレニャが左足でファーに入れると、マルク・ククレジャがヘディングで仕留めた。

「久保はわずか20秒で、テクニックの選手だけではないことを証明した!」

 スペイン大手スポーツ紙『アス』は、相手パスをインターセプトしたプレーを絶賛している。

 ビジャレアルから移籍して以来、久保はアレニャ、ククレジャというラ・マシア(バルサの下部組織)出身選手と息の合ったプレーを見せている。いつ動き出し、どこでボールを動かすか。そのリズムに手ごたえがあるからか、守備でも迷いがない。

 リードしたヘタフェは自然とラインが下がり、アスレティックにパワーで押されたこともあって、久保も守備での消耗を余儀なくされることになった。小さい体をぶつけてヘディングを競り合い、右サイドバックのダミアン・スアレスを堅実にサポート。ヘタフェのサイドプレーヤーとして、改めて及第点を付けられた。

 だが、ヘタフェは12分に追いつかれた後、劣勢を挽回できず、29分に得たPKもGKウナイ・シモンに止められる状況で、攻撃の選手に求められる役目はあった。

「今日のタケ(久保)は、あまりプレーに関与できなかった。その理由は相手のディフェンスが極めて謹直で強力だったからだ」

 ヘタフェの指揮官であるホセ・ボルダラスは、試合後にそう語っている。

「ハーフタイムには、タケに『サイドに張るのではなくて、もっと中でプレーしろ』と伝えた。(ミケル・)バレンシアガ(アスレティックの左サイドバック)に張り付かれていたからね。その点、後半は改善面があって、少ない中でも攻撃関与は良かったと思う。もっとも、相手のゴールラッシュによって、その印象まで消えてしまったが......」

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 後半になると、攻撃面で物足りなさがあった久保の動きは活発になった。

 右サイドでボールを受けると、巧妙にマイボールにし、何度かセットプレーで活路を開こうとした。また、自陣まで下がって相手を1人外して前に運び、リターンを受けた時にファウルを受け、カードを誘い、相手選手に守備の制約を与えている。あるいは左サイドに流れ、突破から左足で鋭いクロスを入れるシーンもあったが、惜しくもクリアされた。

 久保は68分、交代でピッチを去っている。

 この時点で、チームは3−1とリードされていた。その後、さらに2失点。守備が瓦解したことで大敗となった。

「今日はチームの攻撃を語るような内容ではなかった。完敗だったからね。我々はタケに満足している。彼はチームにたくさんのことをもたらしてくれるから。次の試合のことを考えるべきだ」

 ボルダラス監督の発言は本音だろう。それだけ、この日のヘタフェは低調だった。あえて戦犯を探すなら、バックラインの脆さだろう。

 しかしながら、久保は決定的仕事をする"助っ人"としてチームに迎えられている。各スポーツ紙も、星は1つ(0〜3の4段階)。落第ではないが、守備タスクだけなら代わりがいないわけではない、といったところか。

 移籍後、エルチェ、ウエスカという昇格したチームを相手には違いを示したが、今後はアスレティックのような戦闘力を誇る相手を崩し切れるか――。それが存在証明となる。

 次節は1月31日、アスレティックと同じく「闘争」を持ち味とするアラベス戦だ。