お気に入りの店が閉店してしまうというのはとても寂しいものである。仮にそんなお店から、

「完全閉店のお知らせ」

と書かれた紙を配布されたら...。もちろん強いショックを受けるはずだ。

だが世の中には、常連客でも思わず笑ってしまうような「閉店のお知らせ」もあるようだ。


2050年...!?(画像はおっちー@occhi1976さん提供)

これは2020年10月11日、ツイッターユーザーのおっちー(@occhi1976)さんが

「やばい行きつけのコーヒー豆屋さんがあと30年で閉まっちゃう」

として投稿した写真。いったいどういうことなのか...?

写真にうつっているチラシをよく見てみると、まず目に付くのが、上部に大きく書かれた「完全閉店のお知らせ!!」という文字。そして、

「東川口でスタートして早10年が過ぎ、皆様には大変お世話になりました。
年齢的に限界を感じる年となるため閉店する運びとなりました。
長い間ありがとうございました」

としんみりとしてしまう閉店のあいさつが続いている。

しかし、その下の閉店の日付に注目してほしい。

「2050年9月4日(日)」

30年後である。理由としては

「年齢(90歳)による閉店」

とのこと。

今から30年後、ずいぶんと先の「完全閉店」のお知らせだったというわけだ。

チラシの下部には、5年ごとに週休日が増えていくといったお知らせも記されている。どうやら綿密な計画が練られている様子。なんともユニークなチラシである。

それにしても、どうしてこのようなチラシを配布したのだろうか。

Jタウンネットは、このチラシを作ったさいたま市のコーヒー専門店「なごみや」の高野央司(「高」ははしごだか)オーナーを取材した。

チラシの渡し方にも工夫が...

9月の中旬から配布しているというこのチラシ。

16日の取材に応じた高野さんによれば、現在「なごみや」は木曜日のみの週休1日で営業している。9月4日に60歳を迎えたため、体力的にも休みの数を増やそうと考えていたという。

今回のチラシを作成した理由を尋ねると、

「半分は本気、もう半分はお客様とのコミュニケーションツールとしてですね」

とのこと。チラシを渡す際も、半分に折って、「完全閉店」の部分しか見えないようにしているらしい。

「そうすると、お客さんは、えっ! 閉店しちゃうの! と驚かれますね。だから日付見てもらって、そしたら安心してもらったり笑ってもらったりします。
普段からたまにお客さんから『突拍子もないことを言うね』みたいなことを言われたりするので、今回のチラシもあなたらしいね、など、好意的なお声をたくさん頂けていて有難いです」

と、高野さんは話す。

実際、今回のチラシをツイッターに投稿したおっちーさんも、

「最初渡されて『あーなくなっちゃうんですねお店...いやめっちゃ先じゃないですか!』と答えました」

と受け取ったときの感想を話していた。

「突然なくなるよりは...」

そして、今回のチラシを配布した理由はもう1つある。

なごみやのオーナーとなる前は中学校の教員だったという高野さんは、実は元々「なごみや」の常連だったそう。しかしある日突然、お店が閉店することになったというはがきが届いた。

「とても衝撃で、喪失感がすごかったです」

と振り返る。そのときの経験から、

「突然なくなるよりは、ここまで頑張りたいっていうのをお客様に言っておいた方がいいかなと思いました」

と話す。

また、オーナーとなった経緯については、

「なくなってしまうのが寂しいというのと、当時は体調面でもあまりよくなくて、少しのんびりした仕事がしたいというのもありました。退職したらコーヒー屋をやろうとは決めていたので、そういう導きなのかなと思って引き継ぐことに決めました」

という。

ちなみに、年齢と共に増えていく予定の定休日だが、その曜日はお客さんの来店数が少ない順に決めたそう。高野さんは、

「一番お客さんが多いのは日曜日なので、最後は日曜にできたらいいなと思います。結局はこの予定通りにいけないかもしれませんが、僕がオーナーになるより前から通ってくださってるお客様もいらっしゃいますし、なるべく頑張りたいですね」

としていた。