ソフトバンク携帯販売店が受ける「過酷な評価」
内部資料からソフトバンクの携帯電話を扱う販売店の詳細な評価基準がわかった(編集部撮影)
これで販売店は顧客のニーズに沿った契約を提案できるのだろうか。東洋経済が入手した内部資料や関係者の話から、ソフトバンクの販売店に対する詳細な評価基準がわかった。
ソフトバンクの販売店はさまざまな評価項目で採点され5段階(S、A、B、C、D)にランク分けされている。各店舗が強く意識する項目の1つが、大容量プランや有料オプションなどへの高水準の加入率を求める「重点項目評価」だ。
この評価による満点は110点で、原則100点以上だとランクが1つ上がり、65点未満だとランクが1つ下がる。ソフトバンクはこのランクごとに販売店に支払うインセンティブ(通信契約や機種変更手続きに対する報奨金や手数料)に大きな差をつけており、評価は販売店の経営に直結する。
ある販売店関係者は「重点項目評価の中でも配点が高い大容量プランや有料オプションを取りこぼすと(ランクの維持が)厳しい。利用者のことを第一に考える余裕はない」と打ち明ける。
加入率75%未満だと評価はゼロ点
「大容量プラン」とは、新規契約の場合、データ通信が月50GBまでで動画SNS見放題の「ウルトラギガモンスター+」(通話の基本料金込みで月額税別7480円)を指す。機種変更の場合は、「ウルトラギガモンスター+」に加えて、旧プランでデータ通信が月50GBまでの「ウルトラギガモンスター」、月20GBまでの「ギガモンスター」も大容量プランとみなされる。具体的な評価点は以下の通りだ。
データ通信の大容量プランの場合、新規・機種変更ともに1カ月で獲得した契約のうち「加入率」が80%以上であれば最高点の4点となる(合計8点)。だが、75%未満だとゼロだ。
もうひとつの「歩留まり」とは一定期間後の継続度合いで評価する。たとえば2020年2月だと、2019年10月に獲得した契約の加入率が2019年12月末時点でどれだけ維持されているかで点数が決まる。新規・機種変更ともに加入率が70%以上ならば4点(合計8点)だが、65%未満だとゼロだ。
つまり、加入率や歩留まりが低いと点数が最大で16点も違ってくる。別の販売店関係者は、「うちの大容量プランの利用者の少なくとも何割かは低容量プランに向いており、それを選べば料金も安くなる。ただ、そういう案内をすると評価に逆行する(重点項目の点数が低くなる)のでできない」と言う。
大容量の「ウルトラギガモンスター+」は7480円(通話の基本料込みで月額税別)だが、低容量の利用者向けで月間のデータ使用量に応じて料金が変わる「ミニモンスター」の料金(通話の基本料金込みで月額税別)を比較すると、データ使用量が2GB未満の場合はミニモンスターのほうが割安になる(1GB未満だと3980円、1GB以上2GB未満なら5980円)。
しかし、ミニモンスターをユーザーに案内すると販売店の”得点”に寄与しない。前出の販売店関係者が「利用者のことを第一に考えられない」と口にするのはそのためだろう。
総務省の直近の調査によると、スマートフォン利用者の約5割は月間のデータ使用量が2GB未満の小容量ユーザーだが、2GB以下のプランに入っているユーザーは全体の2割にとどまるという。
「当たり前感マックス」で案内
重点項目評価の中で、端末の故障時に保証が効く有料オプションの「あんしん保証パック」は大容量プランよりもハードルがさらに高い。最高点の3点を得るのに新規・機種変更とも90%以上の加入率が必要で、85%未満だとゼロだ。
ある販売店のスタッフは、こうした有料オプションについて、「当たり前感マックスで、『入るのが普通ですから付けておきますね』という感じで案内している。そうしなければ(重点項目の)点数は取れない」と営業現場の実態を明かす。
ソフトバンクの宮内謙社長は「スマホはまだまだ伸びていく」と言うが……(写真は2019年5月の決算説明会。撮影:梅谷秀司)
総務省の情報通信審議会で委員を務め、通信業界に詳しい野村総合研究所パートナーの北俊一氏は、「ソフトバンクが(販売店に)求める加入率の測定水準がここまで高いことに驚いた。このやり方ではショップスタッフは『適合性の原則』に基づいてユーザーに適正なプランやオプションを紹介することができないのではないか」と指摘する。
総務省は「電気通信事業法の消費者保護ルールに関するガイドライン」の適合性の原則の中で、料金プランやオプションについて利用実態に合った適切な説明をすることを求めている。そして「利用者のニーズを踏まえずに特定の料金プランの推奨を行うことは不適切である」と明記している。
現在の評価体系ではユーザーのニーズに沿わない勧誘につながるのではないかとソフトバンクに尋ねると、「店舗において、当社がお勧めするプラン・サービスのメリットをご案内し、お客さまにご理解いただいたうえで継続的に利用していただくことを目指し、当社が適切と考える基準値を店舗に設定している」(広報室)との回答だった。