GENKING、戸籍上も女性になって“世間の風潮”に感じた違和感「私はLGBTを卒業しました」
'15年からテレビで“ユニセックスキャラ”として活躍し、'18年に性適合手術を受け、体も戸籍も女性になったGENKING(現・田中沙奈)。現在は愛のある男性と同棲して4年目。主婦生活を送りながら今も芸能活動を続けている。昨今、世界的に「LGBTへの差別をやめよう」という動きが盛り上がっているが、彼女はこれに理解を示しつつも「そのワード自体がもう古い」と持論を語る。
過去や当時の想い、数年前に多くのクレームが寄せられた『とんねるずのみなさんのおかげでした』の「保毛尾田保毛男(ほもおだほもお)」問題についても直撃した。
GENKINGの出生名は田中元輝で、芸名のGENKINGは当時の本名に思いつきで「ING」を加えて付けられた。'13年、暇を持て余して始めたInstagramで話題に。“謎のセレブ男子”として脚光を集め、'15年『行列のできる法律相談所』でテレビ初出演。LGBTであることをカミングアウトし、それ以降テレビでも引っ張りだこの存在となった。
「その日は日曜日で大嵐。皆がテレビに集中していたのかもしれませんが、オンエアが始まるとスマートフォンの通知が鳴り止まなくて(笑)。Instagramのフォロワーが秒単位で何千と増え、1日で30万人増加しました」(GENKING/以下同)
LGBTを取り上げる人はたいてい“当事者じゃない”
当時彼女は親にも性同一性障害であることをカミングアウトしていなかった。友人にも限られた人にしか告げていなかったため、Instagramのコメント欄などで「オカマ野郎」などという誹謗中傷が来ることを恐れ、覚悟もしていた。だが結果、そうしたコメントは何度見返しても0件だったという。彼女は当時をこう振り返る。
「『あ、時代が変わってる!』と思いましたね。私は過去にオネエとかゲイとか、そうしたことでいじめられて育ってきました。ですが、どうしても芸能人になりたかった。そこで人生を賭けて、今まで生きてきたなかで最も勇気を出してカミングアウトをしたのですが意外にも世間は受け入れてたんです。そして芸能人に。これは、自分のなかで欠点やマイナスだと思っていたことが、長所へと変わった瞬間でもありました」
幼い頃から男の身体である自身にコンプレックスがあり「女性になりたい」と思っていたGENKING。そんなある日、知人からニューハーフのお店に連れて行ってもらう。彼女は衝撃を受けた。「顔もすごくキレイで、身体のラインもめちゃくちゃ細くて本当の女性みたい」。思わず「私もこうなりたい」という言葉が口をついて出た。すると「アンタなんか女性ホルモン始めたらすぐにキレイになるよ」と返される。
「女性ホルモンを打つと、顔も骨格も変わってくるんです。みるみる私のなかでやりたかった想いが溢れてきました。女になりたい、女に戻りたい! 当時、所属していた事務所に相談しましたが喧嘩になりました。もともとユニセックスキャラで売っていたので、本当に女になってしまったら困るんでしょうね。
でも私は結婚をしたかった。同性婚ではなく、きちんと戸籍も女性になって普通の結婚をしたかった。ですから事務所にも内緒で手術をしに行きました」
'18年、彼女は手術を受け、戸籍上も女性となる。現事務所に移り、現在の名前は田中沙奈。実は以前より「サナちゃん」とはいわれていた。「サナギだからサナちゃん」。要は“蝶にはなれない”という意味だ。
「手術が終わって、自分で自分を生んだ感覚でした。なのでこのあいだ出した本も『僕は私を生みました。』ってタイトル。病室に戻るときみんなが「おめでとう!」って言ってくれる。それって出産と似てないですか? あと不思議ですけど昔、男だったころにいじめられてた記憶、恋愛がうまく行かななかったこと、すべて嫌な思い出が消えたんです。昔の自分の写真見ると、双子のもう一人を見ている感覚になりました」
昨今、日本のエンタメ業界ではLGBT要素を含んだドラマや映画が急増している傾向にある。ドラマ『5→9〜私に恋したお坊さん〜』('15年)では高田彪我が“女装趣味のある男性”を好演。'17年、志尊淳が“ヒロイン”役で出演したドラマ『女子的生活』では、心と体の性が一致しないトランスジェンダーの心情を丁寧に演じ大きな反響を呼んだ。'18年には『動物戦隊ジュウオウジャー』に出演の渡邉剣と『仮面ライダー剣』出演俳優の天野浩成主演でボーイズラブ(BL)を描いた映画『花は咲くか』が公開。朝ドラ『半分、青い』でも志尊淳が豊川悦司演じる漫画家のゲイのアシスタントを演じている。
この現状について大ヒットドラマ『おっさんずラブ』のファンでもある彼女は「いいと思う。実際にLGBTの方は多いですし」と笑顔を見せる。一方でLGBT差別撤廃の活動の盛り上がりについては、当事者ならではの違和感を唱えた。
「そういうテーマは浸透してきていますが、実際LGBT問題を示している人とか話題にしてる人って、実際にLGBTじゃない場合が多いじゃないですか? 悩みを共感したいが為に問題にしてくれている活動はいいと思います。ですが例えば私は、カミングアウトなんて無理にする必要がない。安易にカミングアウトしやすい文化にって言ってるのは、嘘! それカミングアウトしたい人じゃないよね? 当事者じゃないから言えるよね? って。
カミングアウトはするときはします。でもそれ以前にそういった方々は恋愛でも、皆が思っている以上の辛い想いをしています。私は芸能人で、カミングアウトした代償として大きな見返りを得ています。でも、もしこれが普通のOLだったら……放っておいてほしいんじゃないですかね」
'17年には『とんねるずの〜』で80〜90年代に流行ったキャラクター「保毛尾田保毛男」を復活させたが、これがテレビにおけるゲイ差別の象徴であると多くの人が抗議。フジテレビが謝罪する騒動となった。当時、大きなニュースとなったが彼女は「個人的にほとんど気にしてなかった」と明かす。
「ただ、過去の差別体験もあり、ホモとかゲイという言葉には蔑視を感じますので、その言葉自体は個人的に嫌いです。あとLGBTについて語りましょう、ということ自体がもう古いかな。『またそのワード?』みたいな。それが話題に自然に流れ込むのが旬というか。『LGBTについてどう思いますか?』、『LGBTとして生きてどうですか?』みたいなのじゃなくて、人生を生きていくなかにLGBTがあるんです。“生きにくい世の中に”とかそういう風にも思われたくないですね。私もLGBTを売り物にしたくないですし、自分はLGBTを“卒業”したと考えています」
彼女はまっすぐ前を見つめて人生を歩いている。
「芸能人になり女性になり、その段階を全部見せられた人生。私はこれを見せるために生まれて来たんだと思いました。だって、芸能人になってなかったら高額な手術代も払えませんでしたから(笑)。この記事を読んで、こんな考え方もあるんだって感じてもらえたらうれしいですね」
今後は美容に関するビジネス展開にも目を向けているという。そんな彼女の動向から今後も目が離せない。
(構成・文/衣輪晋一)