競技の現場では試合が終わると、選手や監督が報道陣を前に話をする。サッカーの場合なら、日本代表戦でもJリーグでも監督は会見場のひな壇に座り、質問を受ける。選手はミックスジーンと名付けられた通路で立ち止まり、囲み取材を受ける。

 選手、監督は何を話すか。そこでの一言が伝播しやすいネット全盛のいま、とりわけ注目される時代を迎えている。見出しになりやすいコメントを吐いてくれる監督、選手は当然、メディアから歓迎される。

 日曜日、女子ゴルフのエリエールレディスで鈴木愛とデッドヒートを展開し優勝を飾った渋野日向子は、その一番手かもしれない。成績のみならず、何か面白い話をしてくれそうな期待感が持てる選手という意味で、彼女に並ぶ選手はいない。

 その優勝後の会見でも報道陣の笑いを誘う場面があった。4つある国内女子ツアーのメジャー戦で、ツアーの最終戦となる次戦(LPGAツアーチャンピオンシップリコーカップ)の抱負を訊ねられた彼女は「リコーカップってメジャーなんですかと?」と、目を白黒させながら訊ね返したのだ。メジャー戦は通常の試合より、東京五輪の出場枠を巡る世界ランキングに大きな影響を与える試合だ。その渦中にいる渋野がそうした事実を認識していないとは。初々しいというか、大らかというか、その天然とも言える悠揚迫らざる態度で、彼女は報道陣をどっと湧かせたのだった。
 
 21歳になったばかり。世間的にはお年頃の女の子だ。オヤジ臭漂う(?)記者とのやりとりは、できたら避けたいと思ったとしても不思議はない。だが、さっさと終えて帰りたがろうとする様子は一切ない。記者という独得の雰囲気を持つオヤジたちに対してもフレンドリーに振る舞う。無意識に会話を弾ませようとするサービス精神旺盛が見て取れる。

 渋野に限った話ではない。このところ月1回ぐらいで女子ゴルフトーナメントの現場に行くが、俗に言う「黄金世代」の選手(1998年生まれ)、あるいはまだ高校を卒業したばかりの「プラチナ世代」(2000年生まれ)の選手は、オヤジを前によく話してくれる。

 オヤジとコミュニケーションを図ることに慣れている感じなのだ。こう言ってはなんだが、同じ年代のサッカー選手よりも。

 それは育ってきた過程に由来するのだと思う。サッカー選手は部活動なら高校1年と3年の関係なので、年齢の幅は2年だ。クラブチームでもU-17、U-19などだいたい2年刻みだ。関係する年上の相手は監督、コーチ中心で、それも1チームに20人ぐらいに対して1人か2人程度しかいない。

 一方ゴルフは、子供の頃からいろんな人とラウンドする。コーチ以外にも大人と触れ合う機会が多数用意されている。多くの大人の世話になりながらプロ選手になる。免疫ができているのだ。ほぼオヤジたちで構成される報道陣を前にしても「わっ、変な人たち」と引く選手が少ない理由だ。

 しかし、サッカーも外国に行くと事情は変わる。学校の部活動がほぼ存在しないことがまずひとつ。クラブも育成型が大半を占める日本と異なり、同じクラブには大人もいる。プロを目指そうかという若手選手だけではなく、趣味でプレーを続けるシニアもいる。

 前にも述べたが、オランダのあるクラブは1軍から10軍まであって、各チームにはいろんな年代の選手が入り乱れてプレーしていた。たとえば3軍には15歳の選手もいれば40歳の選手もいた。

 面白い例は、今季の途中までヴィッセル神戸の監督を務めていたフアン・マヌエル・リージョだ。15歳の時、技量的にもう上は望めないので時の監督から、俺の下でコーチにならないかと言われたそうだ。「プレーは巧くなかったが、戦術理解度には優れていた」とは、リージョ本人の言葉だが、その誘いに従いコーチになると、それから1年ほど経つと監督が家庭の事情でチームを離れることになった。リージョはその監督の推薦もあり、16歳の時、コーチから監督に昇格したのだという。そのカテゴリーの選手のほとんどは自分より年上で、中には、かつてスペイン代表を務めたこともある37歳の選手も含まれていたという。