『蜜蜂と遠雷』松岡茉優×松坂桃李インタビュー|2つの音が同時に聴こえてくる“倍音”のような芝居── 実力派俳優の2人が初共演で魅せるハーモニー
『蜜蜂と遠雷』
松岡茉優×松坂桃李インタビュー
作家・恩田陸が、国際ピアノコンクールを舞台に世界を目指す若き4人のピアニストたちの挑戦を描き、史上初の直木賞(第156回)&本屋大賞(2017年)のW受賞を果たした同名小説を、『愚行録』などで知られる石川慶監督が映画化した『蜜蜂と遠雷』が10月4日(金)より全国公開。ピアニストの亜夜と明石を演じた松岡茉優と松坂桃李の2人に、互いの芝居の印象や、嫉妬・ライバル心を越えた役者同士のつながり、プロモーションに対する考え方など率直に語ってもらった(取材・文:渡邊玲子/撮影:ナカムラヨシノーブ)。
──今回が初共演ですが、お互いの芝居に触発された部分はありますか?
松坂:そうですねぇ。松岡さんは“空間把握認識能力”がめちゃくちゃ高いと言いますか…。
松岡:なにそれ、カッコいい(笑)!
──「空間把握認識能力」とは…?
松坂:監督の演出を踏まえた上で、現場の空間を最大限に活かすことが出来るというか。映画の中に、コンクール会場で亜夜がピアノを弾ける部屋を探し回る場面があるんです。現場の部屋の中には誰も居ないのに、あたかもそこにちゃんと人がいるかのように松岡さんが演じている姿を目にして、『すごいなぁ』と素直に思いました。
松岡:お褒めいただき、ありがとうございます(笑)。私も、まさに明石が「僕、ピアノがあるところを知ってますよ」と声を掛けてくるシーンが印象に残っていて。一見、優しい行為ではあるんだけど、明石の中にある「相反する感情」が伝わってくるような気がしたんです。亜夜に対する野次馬心みたいなものが見え隠れするというか。松坂さんは、2つの音が同時に聴こえてくる“倍音”のようなすごいお芝居をされる方だなぁと思って。きっとこの作品をご覧になった皆さんも、そのシーンにはすごく惹かれると思います。
──いわゆる“天才”と呼ばれる音楽家たちは、嫉妬やライバル心といったものを超越した美しい関係を築くことができる、ということに驚かされたのですが、そういった関係性は役者さん同士の間柄でも成立すると思われますか?
松坂:悔しさや嫉妬のような感情もありますが、そういう気持ちとはちょっと違う「おぉ、よくやった!」「さすがだね!」と、お互い気持ちよく言い合える瞬間の方が多いですね。
──現場でも、そういった瞬間はありましたか?
松岡:やっぱり、今回は鈴鹿央士くんじゃないでしょうか。彼という“発光体”に、勝手に皆が集まって行きましたから。
松坂:ホントに眩しい子ですね。大いに刺激をもらいました。
──今回の現場ではどんな発見がありましたか?
松坂:僕にピアノを教えてくださった先生が、「僕はこう思うんです」と、明石のプロフィールを作ってきてくださったんです。僕はこれまでそういう役作りをしたことがなかったので、すごく刺激的でした。明石のカバンの中身まですごく細かく書いてある。普段はなかなか監督以外からそういう演出は受けないので、「これが2人で一つの役柄を作っていく感覚なのか!」と感じました。
松岡:実は途中から私たちも、松坂さんの先生に教えてもらったんです。
松坂:えー!全然知らなかった!まずは身体の構造の説明からしていただいて、「背骨からお尻まで筋肉がこういう風に繋がっていて……」みたいな。「あれ?これピアノの話じゃなかったっけ?」って(笑)。
松岡:私の場合、亜夜の髪型とか、原作に細かくディテールが書いてある部分については、出来るだけそのままやりたいなと思っていて。ピアニストの方によると、髪で鍵盤が隠れるとミスが出るらしいのですが、さすがに亜夜クラスになると、たとえ髪が顔にかかったとしても弾けるだろうなぁと。でもそれは、ある意味では監督が私の表情だけでなく、全体を捉えてくださったから実現できたことだと思っています。私が全身で表現するものをきちんと拾ってくださったんです。ピアノを弾いているシーンも、それぞれまったく違う角度から撮ってくださいました。
──実際の奏者が奏でる音から影響を受けた部分はありますか?
松岡:プロコフィエフのピアノ協奏曲第3番という曲を弾くときに、孤独な「元・天才少女」が“エンターテイナー”になる瞬間を表現したいと思っていました。弾いている途中で、花がブワっと咲くようなイメージが伝わればいいなと思っていて。亜夜の演奏シーンを担当してくださった河村尚子先生の演奏は、本当に音の粒が大きくて。それこそ音が雨みたいに降ってくる感じがするんです。世界中のピアニストが弾いているいろんな音源を聴いたのですが、あんなに眩しい“閃光のような”プロコの3番は、河村さん特有なんじゃないかなと素人耳ですが思っていて。河村さんが弾くプロコの3番は、一音一音が光り輝いていました。
松坂:明石の場合はできるだけ自然体といいますか、“生活に根付いた音楽”ということだったので、いわゆる彼の普通の部分から滲み出るナチュラルな音を意識しながら演じましたね。
──実は以前、松岡さんが「ボクらの時代」という番組で、取材でいつも同じ質問をされることについてコメントされているのを拝見して、「松岡さんにどんな質問をしたらいいんだろう?」と悩みました(笑)。
松岡:「パッケージを何度も擦ってる」話ですよね(笑)。いや、あの時は本当にすみません。だって私、いま若い子にうっかり同じ質問してるもの(笑)。この前16歳の子と現場で一緒になったことがあって、思わず「どんな女優さん目指してるの?」とか、「いま学校で何が流行ってるの?」って、当時自分が聞かれて「そんなの知らないよ〜」って思っていたことを全部聞いちゃって。やっとライターさんの気持ちがわかりました(笑)。
松坂:僕はたとえ同じ質問でも、できるだけ違ったニュアンスで答えたりすることも我々の仕事の1つなんじゃないかなって思います。劇場に来てくださるお客様が記事を読んだときに、「また同じこと言ってるよ」と思われないように気を付けています。
松岡:私もなるべく違うことを言うように努力はしたのですが、この前美容室で雑誌をめくっていたら、たまたま自分のインタビュー記事が載っていて。読んだら「うわ、こんなこと言ってたの!」って驚いて。ニュアンスを少しずつ変えようとしすぎた結果、箸にも棒にも掛からないようなコメントになっちゃっていたんですよね。人によってはA誌を開くかもしれないけど、B誌は開かないかもしれない。だったら、自分がベストだと思う答えを何回でもお話したほうがいいという結論にたどり着いたんです。『蜜蜂と遠雷』でも、私が既に160回はお話しているパッケージがありまして…。
松坂:「この作品の一番のウリはこれです!」っていうコメントね。
松岡:そう!
──では、思いの丈を「映画ランド」でもどうぞ!
松岡:あ、いいですか(笑)?では……。『蜜蜂と遠雷』は、クラシック映画ということで、一見、敷居が高そうに見えますけれども、演奏シーンはバトルアクションさながらで、かなりアグレッシブなカット割りになっております。2時間ポッキリの映画ですので、デート中ですとか、仕事帰りにふらっと最高の音楽ライブを聴きに来てくださるつもりで、劇場に足を運んでいただけたら嬉しいです!
──松坂さんはどうですか?
松坂:右に同じ(笑)!
──本当に(笑)?
松坂:大丈夫です!間違いなく、劇場の座席でちょっと前のめりになる映画だと思います!
──確かにコンクールの客席にいるかのような気分を味わえました。原作の中に「一度『あの瞬間』を味わってしまうと、もうやめられない」という言葉が出てきてとても印象的だったのですが、松坂さんや松岡さんにとっての“あの瞬間”とは?
松坂:たまに全ての歯車がバシッとハマッた瞬間を味わってしまうと、「次の現場が怖い」と思ってしまうことがあるんです。「この空気感、最高だな」と思いつつ、「次の現場でもこの感覚が味わえるのだろうか……」と思うと、ちょっと怖くなりますね。
松岡:私は上映後の舞台挨拶が一番好きなお仕事なんです。あの瞬間は堪らないですね。舞台のカーテンコールに近いのかもしれない。もちろん、良い作品に携わらせていただいた証でもあるんですけど、それこそ『万引き家族』の時は、映画の中でバラバラになってしまった家族がまた一緒に出てくるわけですから、お客様も温かく迎えてくださったりして。まさに今日(9月23日)これから『蜜蜂と遠雷』の試写会があって、上映後に舞台挨拶をやるんですよ!
──“あの瞬間”が味わえるわけですね!素敵なお話をありがとうございました!
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— 映画ランド (@eigaland) 2019年10月3日
映画『蜜蜂と遠雷』は10月4日(金)より全国公開
(C)2019 映画「蜜蜂と遠雷」製作委員会
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