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世界1200都市を訪れ、1万冊超を読破した“現代の知の巨人”、稀代の読書家として知られる出口治明APU(立命館アジア太平洋大学)学長。歴史への造詣が深いことから、京都大学の「国際人のグローバル・リテラシー」特別講義では世界史の講義を受け持った。
その出口学長が、3年をかけて書き上げた大著が、なんと大手書店のベストセラーとなり、話題となっている。BC1000年前後に生まれた世界最古の宗教家・ゾロアスター、BC624年頃に生まれた世界最古の哲学者・タレスから現代のレヴィ=ストロースまで、哲学者・宗教家の肖像100点以上を用いて、世界史を背骨に、日本人が最も苦手とする「哲学と宗教」の全史を初めて体系的に解説した本だ。なぜ、今、哲学だけではなく、宗教を同時に学ぶ必要があるのか?
脳研究者で東京大学教授の池谷裕二氏が絶賛、小説家の宮部みゆき氏が推薦、某有名書店員が激賞する『哲学と宗教全史』が、発売後たちまち第3刷が決まり、「日経新聞」にも大きく掲載された。
9月7日土曜14時、東京・八重洲ブックセンターに約80名が集結。満員御礼で行われた出版記念講演会の3回目を特別にお送りしよう。

産業革命が人間社会を
大きく変えた!:その1

 産業革命は、人間の生活を大きく変えた。
 その1つは長時間労働が要請されるようになったことです。

 機械と人間の一番の違いは、機械は疲れないということ。
 工場は24時間操業すれば、自動車もカラーテレビもいっぱいできる。となると、長時間労働が産業革命以降に要請されるようになってくるのです。

 産業革命が最初に起こったのは、「連合王国」です。

 連合王国では、長時間労働をやらせたい。でも、そうするとみんな疲れる。工場での労働は作業マニュアルがあるので、脳はあまり使わない。ひたすら体を使う。
 すると、一日10時間とか15時間とか働くと体もさすがに疲れてくるので、気つけ薬を大量に用意した。これが何かといえば、中国から輸入した紅茶に、アメリカから持ってきた砂糖をぶち込んで、甘い紅茶をガンガン飲ませた。
 そしたら糖分ですから元気になりますよね。
 統計的に見ると、産業革命が起こってからわずか100年間で、連合王国の紅茶輸入量は400倍になって、代金を払うのに困り、銀が払底した。そこで、中国に阿片(アヘン)を売り込んで「阿片戦争(1840−1842)」が起こったのはみなさんご存知の通りです。

 産業革命以降の長時間労働の中で、マルクスのいう「労働の疎外」という概念が生まれてきた。同時に、働くことがすべての付加価値の源泉だから、アダム・スミスに始まった「労働価値説(人間の労働が価値を生み、労働が商品の価値を決めるという理論)」をマルクスが完成させたのです。

 このように考えてみれば、マルクスの哲学は、産業革命初期の時代をきれいに反映したものであることがわかります。

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