研究の概要イラスト。(illustration by panoji.com)

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 夢というのは難しい研究テーマである。基本的に主観の中にしか存在しないものだからだ。ただ、客観的な事実として、夢の内容は記憶されにくい(悪夢など、特殊な条件が揃う場合は例外もあるが)という要素がある。今回紹介する研究は、この「夢の内容を忘れてしまいやすい」ことの理由の神経科学的基盤が発見された、というものである。

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 研究に参加しているのは、名古屋大学環境医学研究所の山中章弘教授らの研究グループ、北海道大学の木村和弘教授、寺尾晶准教授(現 東海大学 教授)、吉岡充弘教授、大村優講師、SRIインターナショナルのキルドフ博士ら。

 基礎的なところから解説すると、夢を見るのはレム睡眠という睡眠状態のときである。レム睡眠とは、いわゆる浅い眠りのことだ。人間の眠りは浅くなったり深くなったりを繰り返すことで成り立っているのである。

 結論を述べてしまうと、このレム睡眠の最中に、脳のメラニン凝集ホルモン産生神経(MCH神経)が活動を亢進させ、夢を記憶から消去している、というのが今回の研究の眼目である。

 研究では超小型顕微鏡を使ってマウスの神経活動を記憶し、MCH神経にはレム睡眠中に活動するものと、覚醒中に活動するもの、両方で活動するものの3種類があることを解明した。また、光遺伝学や化学遺伝学の手法によって特定の神経の活動を操作し、MCHの神経活動が記憶回路である海馬の神経活動を抑制、レム睡眠中に活動するMCH神経が記憶を消去していることを明らかにした。

 今回の研究の応用としては、心的外傷後ストレス障害(PTSD)における恐怖記憶の消去の治療に知見を応用できるのではないかという。

 研究の詳細は、米国科学誌「Science」のオンライン版で公開されている。