東急目黒線、「8両化」に備えた新型車両の全貌
11月に運行を開始する東急目黒線の新型車両「3020系」(記者撮影)
横浜市北東部の日吉と、JR山手線に接続する目黒を結ぶ東急電鉄目黒線。かつて「目蒲線」と呼ばれた目黒―蒲田間の路線を2000年8月に分割して誕生した路線だ。
目蒲線時代は4両編成の電車がのんびり走る都会のローカル線の風情だったが、目黒線となってからは都営地下鉄三田線や東京メトロ南北線と直通する都心へのアクセス路線に変貌。2018年度の1日平均利用者数は約38万9000人で、10年前と比較して9万人近く増えた。
その目黒線に今年11月、約16年ぶりの新型車両「3020系」が登場する。ステンレスの車体に白と水色のラインを巻いた外観は、色の違い以外は田園都市線や大井町線の新型車両とほぼ同じだが、これから目黒線が迎える大きな変化に備えた車両だ。
8両で製造、しばらくは6両で
大きな変化とは「8両編成化」と「相鉄線直通」だ。東急は2022年度、自社で保有する目黒線用の全車両を6両編成から8両編成に増車する。そして同年度下期には日吉から新横浜を経て相鉄の羽沢横浜国大(今年11月開業)までを結ぶ東急・相鉄新横浜線が開通し、直通運転が始まる予定だ。
3020系は8両編成だが、2022年度までは6両で運行。中間の2両は車両基地内に留置してある(記者撮影)
3020系は一足早くこれらに対応した車両として造られた。今年11月の運行開始時には暫定的に6両編成で登場するが、当初から8両編成として製造されており、2022年度までは8両編成の4号車・5号車にあたるモーターなしの中間車両2両を外して運行する。切り離した2両はピカピカの状態のまま、車両基地でしばらく「お休み」だ。
3020系の導入本数は3編成で、すでに全編成が東急線に搬入済み。8両編成で製造するなら2022年度の8両化のタイミングに合わせて造ってもよさそうだが、やや早めの投入となったのは「今のうちに製造しておかないと8両化の時期に間に合わないため」(東急の広報担当者)という。田園都市線用の新車を続々投入している東急を含め、鉄道各社の車両新造が相次いでいることが背景にある。
車両の基本的な設計は、2018年に登場した田園都市線の新型車2020系、大井町線の6020系と同様。「インキュベーションホワイト」と呼ぶ白を基調としたデザインや、顔をイメージしたという丸みを帯びた先頭形状、そして背もたれの高いハイバックシートやフローリング調の床といった内装も同じだ。
だが「現場目線」では細かな違いがあるという。外観で異なるのは、非常時などにドアを開けるための「ドアコック」の位置だ。2020系・6020系は車体側面の腰の高さにあたる位置に付いているが、3020系は天井まで届く高いホームドアを設置している東京メトロ南北線に乗り入れるため、これまでの目黒線車両と同様に床下に設置している。
違いが大きいのは乗務員室の内部だ。目黒線はワンマン運転のため、運転台には運転士が駅ホームの様子を確認するための4画面のモニターを備えるほか、ドアの開閉用ボタンを運転士の手元に設置。南北線乗り入れ車両に必要という「非常停止スイッチ」も目立つ。また、セキュリティのために乗務員室と客室を仕切る扉を自動でロックする仕組みも備えている。
運転台には「相鉄」の文字が
そして、運転台にはすでに相鉄線直通への備えが見られる。ATC(自動列車制御装置)の切り換えスイッチや列車無線のスイッチには「相鉄」の文字が刻まれている。「実際の装置はまだ入っていない」(車両部車両計画課の担当者)というものの、いよいよ相鉄線との直通開始が近くに迫っていることを感じさせる部分だ。
東急が目黒線用車両の8両化を発表したのは今年3月。計画では2022年度の上期以降に順次8両編成の運行を始め、同年度下期の東急新横浜線開業時までに、3020系3本を含む目黒線の車両全26本を8両編成にする。目黒線はすでにほとんどの駅で8両分の長さのホームがあり、6両分の奥沢駅も工事が進んでいる。
同線の混雑率は年々上昇しており、今や東急全線で田園都市線に次いで高い174%(2018年度)に達している。現在はクーポン配布などの取り組みで時差出勤を促しているが、東急によると混雑緩和の効果は1%ほど。現在のダイヤに基づく想定では8両化によって輸送力が13%アップする見込みで、大きな効果が期待される。
目黒線と相互直通運転する都営地下鉄三田線、東京メトロ南北線、埼玉高速鉄道の各線も8両化に向けて動き出している。各線はもともと8両化を想定してスペースを確保してあるため、ホームドアなどを整備すれば8両編成の運行が可能だ。
直通各社は当面6両も残る
都営地下鉄を運行する東京都交通局は、2022年度から三田線車両の8両化を進める計画だ。すでに8両編成の新型車両を発注しており、同年度から三田線の車両全37本のうち13本を新型車両に置き換える。
ただ、残り24本の既存車両を増結して8両化するか、6両のまま使用するか、あるいは新車に置き換えるのかといった点は「需要などを踏まえて検討するため決定していない」(都交通局の担当者)という。
東京メトロも、2019年度の事業計画や中期経営計画で2022年度から南北線車両を8両化する方針を示している。同社は新型車両の投入ではなく、現在の車両に2両を増結する形で8両化する。2022年度の時点では8両編成は一部で、8両化する編成数については「具体的には未定」(広報担当者)という。
南北線から先の埼玉高速鉄道も今年春、2022年度上期からの8両編成運行に向け、ホームドアなどの工事に着手すると発表した。ただ、同社は他社局と異なり「自社の車両を8両化するかどうかはまだ検討中」(事業推進課の担当者)。当面、8両編成は東急や都営の乗り入れ車のみとなる見込みだ。
各線の8両化とあわせて気になるのは、相鉄との相互直通運転の範囲だ。現時点では、相鉄線と東急目黒線目黒方面、東横線渋谷方面との直通運転については公表されているものの、東急線と相互直通する他線との乗り入れについてははっきりしていない。
東京都交通局は2019年度の経営計画で、三田線と東急新横浜線との直通運転に向けて協議を進めるとしているが、その先の相鉄線直通については「決まっている話はない」(都交通局)。三田線の車両が相鉄に直通する場合、車両には相鉄線用信号システムなどが必要となるが、製造中の新型車両も含め、対応はまだ決まっていないという。
東京メトロも、相鉄線との直通については「関係各所と協議している段階」(同社広報)、埼玉高速鉄道は「今のところ協議などはしておらず、具体的なところはわからない」(同社事業推進課)とそれぞれ話す。
相鉄は2018年に、東急線乗り入れを想定した新型車両「20000系」の10両編成を1本導入した。同社によると20000系は全16編成を投入する予定だ。目黒線直通には8両編成が必要になるが、8両編成と10両編成をそれぞれ何本造るかは決まっていない。
さらなる大変化を迎える目黒線
現時点で運行形態は決まっていないものの、東急・相鉄新横浜線の開業により、相鉄沿線から東急線を経由して都心へ向かう新たなルートが生まれるのは確かだ。
相鉄の東急直通用車両20000系(撮影:尾形文繁)
今年11月末には相鉄のもう1つの都心直通ルートである「相鉄・JR直通線」が開業するが、同線の運行は1時間当たり最大4本で、利用者数は1日約7万人の見込み。対して東急直通はラッシュ時1時間当たり10〜14本を運行する予定で、利用者数の想定は1日約20万人だ。相鉄都心直通の「本命」は東急線乗り入れといえる。
8両化で輸送力のアップを果たす目黒線だが、2022年度以降も他社局の6両編成車両が混在するため、ラッシュ時の全列車が8両編成になるとは限らない。さらに、相鉄線からの利用者が流れ込めば、輸送量自体も現在より大幅に増えることになる。8両化後も混雑対策は引き続き課題となりそうだ。
「都会のローカル線」の風情だった目蒲線時代から約20年で大きく変貌した目黒線。2年ほど後には、神奈川県内から都心へのアクセスを担う路線としてさらなる大変化を迎えることになる。