「痴漢防止用かと…」 エレベーター内の“鏡”の理由を説いたイラスト話題に、国に聞く
エレベーターに乗ると、鏡の前で身だしなみを整えている人や鏡に寄りかかっている人を見かけることがありますが、そうした行為は他の乗客の迷惑となる可能性があるようです。SNS上で先日、鏡が取り付けられている理由をイラストで説明した投稿が話題となり、「知らなかった」「痴漢防止用かと思った」などの声が上がりました。エレベーター内の鏡について、国土交通省住宅局建築指導課の飯田和哉課長補佐に聞きました。
ハートビル法制定と同時に明記
Q.エレベーターの内側に鏡を取り付けている理由を教えてください。
飯田さん「車いす使用者が(エレベーターの)かごの中で転回しなくても、戸の開閉状況などを確認できるようにするためです。国土交通省のバリアフリー設計ガイドライン『高齢者、障害者等の円滑な移動等に配慮した建築設計標準』で、かご入り口の正面壁面に、出入り口状況確認用の鏡を設置することが明記されています。正面に壁面がなかったり、出入り口が2つある場合は、かご内の上部に凸面鏡を設置することもあります。
鏡の取り付けが始まった時期は不明ですが、1994年のハートビル法制定と同時に、先述の建築設計標準に取り付けが新たに明記されました」
Q.鏡を取り付けている目的をPRする啓発活動は行っていますか。
飯田さん「一般向けには、特に啓発活動は行っていません。あくまで、車いすを使用する人のためのものであり、一般の人にご迷惑をおかけするものではないというのが、その理由です。車いす使用者はその役割をご存じかと思います。一方で、建築士や建築主向けには先述の建築設計標準を配布するなど、啓発活動を行っています」
Q.鏡が取り付けられていないエレベーターもあります。義務ではないのですか。
飯田さん「駅などの公共交通機関については、新設する際に鏡を設置することを省令で義務付けていますが、通常の建築物に関しては法律や省令では定めていません。
バリアフリー法では、床面積2000平方メートル以上で、不特定かつ多数の人が利用し、または高齢者や障害者などが利用する建築物にエレベーターを設ける場合、『車いす使用者が円滑に移動できるエレベーターを1つ以上設置する』ことを義務付けてはいますが、『車いす使用者が利用するエレベーター』のかご内仕様について、鏡の設置を義務付けているわけではありません。
ただし、地方公共団体によっては、条例でバリアフリー法の対象規模を引き下げたり、車いすの人が使用するエレベーターに鏡を設置するよう義務付けたりしている場合もあります」
Q.鏡のほかに、体が不自由な人でもエレベーターを安全に使えるよう工夫していることはありますか。
飯田さん「バリアフリー法施行令で『かご内および乗降ロビーに車いす使用者が利用しやすい制御装置を設ける』『かご内に停止予定階・現在位置を表示する装置を設ける』ことなどを定めています。視覚障害者が利用するエレベーターの場合、『かご内に到着階・戸の開閉を知らせる音声装置を設ける』『かご内および乗降ロビーに点字その他の方法(文字等の浮き彫りまたは音による案内)により視覚障害者が利用しやすい制御装置を設ける』ことなどを求めています」
Q.エレベーター内の、車いすマークのそばにあるボタン(低い位置にあるボタン)を押した場合、高い位置にあるボタンとどう違うのでしょうか。
飯田さん「『車いす用副操作盤』のことですね。日本エレベーター協会によると、車いす用副操作盤のボタンを押すと、開放時間が通常より10秒程度長くなるよう設定することが望ましいとされています。実際にメーカーからは、通常のボタンより開放時間を長くしていると聞いています」