話が「面白い人」と「つまらない人」は何が違うのでしょうか?(写真:xiangtao/PIXTA)

「話がつまらない人」というレッテルを貼られると、気がつかないうちに、せっかくのビジネスチャンスを逃す可能性がある一方、「話が面白い人」と思われると、活躍の舞台はどんどん広がっていく。

ただし、「話が面白い=笑いがとれる」というわけではない。元・カリスマ予備校講師の犬塚壮志氏によれば、人気講師になればなるほど、笑いをとりにいったり、ウケを狙ったりしないのに、話は抜群に面白いという。犬塚氏の新著『感動する説明「すぐできる」型』から面白く話すコツについて紹介する。

ネタは面白いのに伝わってこない

「もったいない……」

ある著名な方のスピーチを聴いたときに思ったことです。その方の話は、聴いている間は眠くなってしまって、何も頭に入ってきませんでした。ところが、取っていたメモを念のため見返してみると、話の内容そのものはとても面白かったのです。だからこそ「もったいない……」と、つい声が漏れてしまったのです。

現在、私は、教育コンテンツ・プロデューサーという肩書で、セミナーや研修の開発、さらには経営者やビジネスパーソンの話し方のトレーニングを行っています。

そういった仕事の中で、クライアントに実際に話をしてもらうと、話の中身に当たる素材(ネタ)は濃密なのに、その話の内容がまったく頭に入ってこないことがあります。伝わってこないのです。いわゆる「つまらない」と感じてしまう話です。

どんなに一生懸命に話しても、話の内容が聴き手の頭に入っていかなかったら、そこでおしまいです。コミュニケーションにおいて「話が相手に伝わらない」ということは、価値が伝わらなかったこととイコールになってしまう。つまり、聴き流されてしまうようなつまらない話は、しなかったも同然なのです。

そればかりか、聴き手に「時間を無駄にした」と感じさせてしまって、マイナスのイメージをもたれてしまう要因にもなりかねません。場合によっては、大きなチャンスを失ってしまうこともあるのです。

生徒から「時間を返してほしい」

「このままだと仕事がなくなってしまう……」。そんなことを毎日思って過ごしていました。予備校講師として駆け出しのころの話です。なぜか。私の話がつまらなかったからです。

通常、予備校講師は1年契約。人気が出なければ減俸。最悪の場合、クビです。人気講師になるためには、生徒が面白がる話をしなければならないことはわかっていました。

ただ、そんな私も、子供たちの成長を願う教育への情熱や、“化学”という教科に対する思い入れが人一倍強く、大学院を卒業すると、すぐに駿台予備学校という大学受験専門の予備校に就職。“説明”を本業とする講師として登壇することになったのです。

しかし、そこからがまた、悲劇の連続でした。周りの予備校講師陣は、びっくりするほど話術に長けているのです。説明が本当にわかりやすく、しかも面白い。そして、なぜだか、私の同期はイケメンぞろい……。

情熱しかない私は、空回り。器用に「笑い」をとれる人間ではなかったのですが、がむしゃらに「笑い」や「ジョーク」をものにしようと努めたこともありました。ところが、「わざとらしく、ウケとか狙わなくていいから!」先輩講師のK先生に、そう叱咤されてしまいました。

そして予備校講師2年目。生徒の授業アンケートでも、「つまらなかった」「意味がわからない」「無駄」と散々でした。「時間を返してほしい」というコメントすらありました。もちろん、アンケート結果は、同期の中でビリでした。このままでは、職を失ってしまう……。

追いつめられた私は、つまらないプライドをかなぐり捨て、人気講師たちの授業を見学させてもらうことにしました。そこで2つの気づきがありました。

1つは、「説明で人は感動する」ということでした。人気講師と呼ばれる人たちは、めちゃくちゃ説明が面白いのですが、それは笑いを取ったり、ウケを狙ったりというものではありませんでした。むしろ「笑い」なんて1ミリも起きない授業すらありました。

ただ、彼らの話は感動を呼ぶのです。いわゆる「目から鱗!」「慧眼(けいがん)です!」といった、多くの気づきを与えてくれるのです。「なるほど、そういうことだったのか!」授業見学をしている私は、面白い説明とは人を感動させることができるものだと知りました。

そして、もう1つの重要な気づきは、「感動する説明には『型』がある」ということでした。例えば、若手ナンバーワンの世界史講師は講義の冒頭で、こんな話をします。

「なぜ、四大文明が発祥したか、わかる? それはね、大きな河があったから。そもそも、人の体のおよそ60%が水でできてるでしょ。だから、つねに水分を補給できる河の畔で生活するのが人間にとってベストだよね。それに、農作物を育てるにも水分が必要。モノを運搬するには水路が便利。だから、大きな河の流域で文明が発達しやすいんだ」

私はこの説明を聴いて面白いと思ったと同時に、パターン化できる「型」のようなものが潜んでいることに気づいたのです。これなら、不器用な自分にも真似できるかもしれない!絶望の淵にいた私に、かすかな希望の光が射し込んだ瞬間でした。

そして実際に、講義内容を1つの「型」にはめて話してみると、生徒の反応がそれまでとは明らかに変わりました。“受験化学”という地味なネタにもかかわらず、熱心に聴いてくれるようになったのです。

その後、さまざまな「型」を見出し、使えるようになった結果、自分が担当する季節講習会では満員御礼が続出。季節講習会での化学の受講者数は、なんと日本一になったのです。

話が面白いと活躍の舞台が広がる

ここで、「いや、自分は話す仕事をしているわけではないから、説明に面白さなんて必要ない」「別に説明で感動させなくたって、クビになるわけじゃないし」こう思った方もいるかと思います。

ただ、それでも人の心を動かす話ができるというスキルは、予備校講師だけに求められているわけじゃないと、私は考えています。「話がつまらない人」というレッテルを貼られてしまうと、本人が気づかないうちに、せっかくのチャンスを逃してしまう可能性があります。一方、「この人の話、めちゃくちゃ面白い!」と思われると、あなたの活躍の舞台がどんどん広がっていくのです。

でも自分には人の心を動かすほどの説明なんて絶対ムリ……。そんな才能やセンスはない……。そう思った方も、諦めるのは早計です。すでにおわかりのとおり、かくいう私もそうでした。


だから、ご安心ください。才能もセンスも不要です。不器用でも大丈夫。なぜなら、「型」にはめるだけだから。相手を感動させる説明スキルを身に付けることは、「笑い」を取りにいくことより何倍も簡単なのです。

そして、感動する説明は知的好奇心をかき立てます。話が終盤に向かっていくほど感動の度合いは大きくなり、聴き手のワクワク感も高まります。話した内容が聴き手の脳内で、すでに持っている知識とネットワークを次々に形成し、気持ちが高揚していくのです。

聴き手を感動させられる説明スキルさえあれば、「笑い」を取りにいく必要はありません。ネタにかかわらず、聴き手に「目から鱗!」「慧眼です!」「面白い!」と思ってもらえるようになるのです。