■平均支給額は67万9100円

多くのビジネスパーソンが心待ちにしていた夏のボーナスが大半の企業で支給された。日本経済新聞社の調査(上場企業など580社が対象)では、全産業の平均支給額は83万9844円。前年比0.4%減となり、7年ぶりにマイナスとなったという。米中貿易戦争などの影響で企業業績が頭打ちになっていることを背景に、電機や鉄鋼、繊維などの業界で比較的大幅な減額になり、全体を押し下げた、という。

そんな中で、6月28日に支給された国家公務員のボーナスは大きく増えた。内閣人事局の発表によると、「6月期末・勤勉手当」の平均支給額は67万9100円。前年に比べて4.1%増加し、7年連続のプラスになった。

2018年8月の人事院勧告に基づいて法律が改正され、「期末手当」の支給月数が0.1カ月分増加したことが大きい。また、「勤勉手当」の支給月数も0.87カ月から0.895カ月に増えた。

霞が関では公文書改ざんや統計データの不備、障がい者雇用率の誤魔化しなど、不祥事が相次いでいる。ところが、成果評価であるはずの「勤勉手当」だけはちゃっかり増えているのだ。何とも皮肉ではないか。民間企業で不祥事が起きて大幅赤字にでもなれば、ボーナスカットどころか、ボーナスゼロになることすらある。

2018年08月10日、人事院の一宮なほみ総裁(左端)から勧告を受け取る安倍晋三首相(左から2人目)。(写真=時事通信フォト)

不祥事を起こしたのは一部の職員で、大半の公務員には関係ない、というかもしれないが、それは民間とて同じ。会社が傾けば、自分に非が無くても報酬は減る。そんな「民間の常識」からかけ離れた公務員のボーナスは、国民感情からすれば納得いかないに違いない。

■事務次官は約323万円、局長クラスは約246万円

今回の国家公務員ボーナスの4.1%増という高い伸びについては、特殊事情があると内閣人事局は言う。これまで冬に厚めに支給していた期末手当を、今年から夏冬均等に変えた結果、今回の平均支給額が大きく増えたように見えているというのだ。その影響を除いた実質の増加率は平均額(成績標準者)で0.9%の増加だとしている。もちろん、0.9%の増加にしても民間のマイナスからみれば天国だ。

官民どちらのボーナスの方が高いのか低いのか、なかなか簡単には比較できない。平均支給額だけを比べると、公務員の67万円は民間の83万円に比べてかなり低いようにみえる。だが、公務員の集計対象は管理職を除いた一般行政職(平均35.5歳)だけで、管理職を含んでいる民間企業や地方自治体の平均支給額に比べて低くなる。金額ベースでは単純比較できないのだ。実際、公務員でも、事務次官は約323万円、局長クラスは約246万円と高額のボーナスを手にしている。

■「民間並み」の実態は「民間大企業並み」

国家公務員のボーナスが7年連続で増え続けている背景には、公務員給与・ボーナスを「民間並みに引き上げる」という政府の方針がある。毎年8月に公務員の給与見直しについて勧告する人事院勧告でも、あくまで前提は「民間並み」ということになっている。

「いや、うちの会社では社員に平均67万円なんて払われていない」「そもそもボーナスなんて雀の涙」といった中小企業で働く人の声も多いに違いない。実は、人事院の言う「民間並み」というのは「民間大企業並み」というのが実態なのだ。

人事院の調査は、事業所従業員数50人以上の企業を対象にすることになっているが、実際に調査する1万社のうち約4000社は500人以上の大企業、さらに4000社は100〜500人の企業になっている。50〜100人の企業は2000社程度になっているのだ。つまり、圧倒的に大企業のウエートが高く、その分、比較対象とされる民間給与・ボーナスの水準が高くなる仕掛けだ。

■「民間は公務員より高い」と主張し続けるのか

厚生労働省が9日発表した5月の毎月勤労統計(速報)によると、基本給や残業代などを合わせた1人当たりの現金給与総額(名目賃金)は27万5597円と前年同月比0.2%減った。物価の影響を加味した実質賃金も1.0%減で、名目、実質ともに5カ月連続でマイナスになった。

毎月勤労統計は調査方法の不備や、対象の入れ替えなどで政権への「忖度(そんたく)」があったのではないかといった問題が指摘され、統計としての信頼が大きく揺らいでいる。それでも5カ月連続のマイナスというのは無視できない「傾向」だろう。

民間ボーナスの7年ぶりの減少や、毎月の給与の減少を、8月の人事院勧告がどう捉え、どんな公務員給与の見直し勧告を出すのか。よもや、それでも公務員の給与は安いといって引き上げ勧告を出すことはないだろうが、またしても詭弁を弄して、民間は公務員より高いので、それに合わせると言い続けるのだろうか。

■「国の借金」は1100兆円を超えている

周知の通り、日本政府は慢性的な赤字体質を続けている。国債の返済や利払いなどを除いた通常ベースの歳出が、税収で賄えているかを示す「プライマリーバランス(PB)」は、いまだに赤字が続いている。国債発行残高など「国の借金」は1100兆円を超えた。

安倍晋三内閣は当初、2020年度にPBを黒字化することを目標としてコミットしてきたが、事実上、これを断念している。一方で、2018年度の一般会計税収は60兆4000億円と、これまで最多だったバブル期の1990年度(60兆1000億円)を超え、過去最高になった。10月には消費増税も控えており、2019年度の税収も大きく増える見込みだ。

にもかかわらずPBが黒字化しないのは、ひとえに歳出を抑える努力をしていないからだ。景気対策を優先して公共事業などを大幅に増やしていることもあるが、霞が関の人件費や、霞が関が行う政策経費を削減しようという動きにならない。

■政府が「スリム化」する方向性はまったく見えない

2019年度の公務員人件費(予算)は5兆2826億円と、前の年度に比べて349億円増加する見込みだ。国家公務員の人数も57万8000人と1000人増える。まったくスリム化する方向性は見えないのだ。一時、自民党も野党も、公務員人件費の2割削減を掲げ、マニフェストなどに盛り込んでいた。最近ではすっかりそうした主張も下火になっている。税収が増える中で、リストラ機運が失われているのだ。

6月、自民党の行政改革推進本部(本部長・塩崎恭久衆院議員)が、霞が関の政策立案に関わる部署の「業務量調査」を行った。「国会答弁回数」や「所管委員会への出席時間」、「質問主意書への答弁書数」「審議会開催回数」「訴訟での被告件数」を調べ、定員1000人当たりの「業務量」で集計した。結果、圧倒的に厚生労働省の業務量が多いことが判明した。

■赤字を垂れ流しながら給与を増やす会社と同じ

自民党がそんな前代未聞の調査をしたのは、官僚任せにしておくと業務がどんどん膨らんでいく傾向があるため。予算を取って来る課長は評価されても、事業を止めて予算を圧縮しても誰からも褒められない。そうした「構造上」の肥大化にストップをかけようという狙いがある。

提言を受けて政府は「業務の抜本見直し推進チーム」を官邸に設置する方向だ。

赤字を垂れ流している会社がリストラも行わず、業務見直しもしないで、毎年ボーナスや給料を増やしていたらどうなるか。民間ならば早晩、倒産を免れない。「民間並み」のボーナスや給与をもらうのが当たり前だと思うのならば、民間並みの危機感を持ち、「働き方改革」を行っていくべきだろう。

国家公務員でも優秀な人材には高いボーナスを支払うことに誰も異論はないだろう。だが、そのためには、全体の仕事の仕方を見直し、本当に必要な事業に絞り込んだうえで、優秀な人材を確保するために、高い給料やボーナスを支払う。そうした仕組みを、国が破綻する前に作る必要がある。

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磯山 友幸(いそやま・ともゆき)
経済ジャーナリスト
1962年生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業。日本経済新聞で証券部記者、同部次長、チューリヒ支局長、フランクフルト支局長、「日経ビジネス」副編集長・編集委員などを務め、2011年に退社、独立。著書に『国際会計基準戦争 完結編』(日経BP社)、共著に『株主の反乱』(日本経済新聞社)などがある。

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(経済ジャーナリスト 磯山 友幸 写真=時事通信フォト)