"ゲームをするとバカになる"は本当なのか
■「脳を若く保つ」ということがわかってきた
一昔前は、「ゲームをするとバカになる」「勉強の時間を奪う」と悪者にされてばかりの存在だったゲーム。ですが、最新の脳科学の研究によればネガティブなだけではなく、脳を若く保つ影響もあるのです。
これまでも、ゲームを継続的に遊んでいる人は、視覚、指の動きに関連した能力、記憶力、論理的に考える力などが高くなることが知られていました。そして、近年では脳の働きを可視化する技術が普及したことで、ゲームの脳への影響がより正確にわかってきたのです。
このような技術によれば、人がどんな活動をしているときやその後に、脳がどんな具体的な影響を受けるのか、つぶさに知ることができます。
■「スーパーマリオ64」で空間認知、記憶、戦略が増大
結果として、ゲームをしているときには、特に海馬や前頭前野の働きが活発になることがわかりました。海馬は、記憶を司る部位。また、前頭前野は社会性や計画性、戦略を司っています。すなわちゲームには、記憶力や計画性、戦略性を高める効果が期待できるというわけです。
さらに、小脳で神経細胞やそのまわりの組織の層が厚くなっていることもわかりました。小脳は身体の運動を司る脳部位なので、ゲームをすることで身体のいずれかの運動機能にいい影響を与えるといえそうです。
「ゲームでボケ予防」という取り組みもあります。例えば、同時並行で物事を進める料理のような作業では、記憶や認知、戦略性などの高い情報処理を行っています。認知症を患うとそれが難しくなるわけですが、ゲームは関連する脳の機能を高めてくれる。「ボケ予防にゲーム」は一理あるというわけです。
さらに、ゲームと脳の関係で注目すべきなのが、ドイツのマックスプランク研究所が行った実験です。日本でもブームになった「スーパーマリオ64」を2カ月にわたり一日30分プレイした人について、空間認知、記憶、戦略、手の運動技能を司る脳の海馬、前頭前野皮質、小脳において、神経細胞等が集まる部分が増大していることが明らかとなりました。
■ただし「ゲーム依存症」という病気になる恐れも
VR技術の発達でゲームはますます現実に近づいていますから、なおさら認知の力は鍛えられるでしょう。ソーシャルゲームも、パズルやアクションの要素で戦略性や動体視力、瞬時の判断力が鍛えられますし、キャラクターを組み合わせて戦えば社会性も高まりそうです。またゲームを完遂することは企業でプロジェクトを達成することと似ています。
ただし、複雑な情報による負荷があまりに続くとストレスになります。脳が過度にストレスホルモンに晒されると、神経細胞の機能が低下したり死んでしまうこともあります。1〜2時間程度で済んでいるならいいですが、ゲームの中で困難も楽しさも完結するようになって、「もっと、もっと」ととらわれると「依存」の状態になる恐れもあります。
WHO(世界保健機関)は2018年1月に「ゲーム依存症」を病気として認定しました。ギャンブルやタバコ、アルコール依存と同じように、あなたのQOL(生活の質)を著しく下げる可能性もあるので、注意しながら楽しみましょう。
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脳神経科学者
早稲田大学研究戦略センター教授。東京大学大学院薬学系研究科博士課程修了。早稲田大学ビジネススクールでMBA取得。
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(早稲田大学リサーチイノベーションセンター教授 枝川 義邦 構成=伊藤達也 写真=iStock.com)