米中貿易戦争やサウジアラビアの反政府記者の殺害、さらにEU内にくすぶるさまざまな問題により、見通しがつかない状況が続く世界経済。囁かれる世界規模の大きな景気後退や社会的混乱が近づいているのでしょうか。今回のメルマガ『国際戦略コラム有料版』では著者の津田慶治さんが、上記すべての問題が世界経済にもたらす影響を考察しつつ、日本が取るべき政策を記しています。

世界混乱時代の幕開けか?

10月第3週は、米国の景気が踊り場を形成して、レンジ相場化してきたが、そこにサウジ問題が発生した。今後の見通しを見よう。

日米株はレンジ相場化

NY株は、10月3日に2万6,651ドルと過去最高値を付けて、10月11日に2万4,899ドルまで下落した。10月16日に2万5,817ドルまで戻して、10月18日に2万5,236ドルと反落し、19日は2万5,444ドル反発。200日移動平均線の近くを上下する相場になっている。暴落する状況ではないが、上昇することもない。レンジ相場化したようである。

一方、上海総合指数は9月28日2,821ポイントで、10月18日2,486ポイントまで下がった。こちらは2014年以来の安値圏になっている。中国企業収入が米中貿易摩擦で落ち込み始めた可能性がある。しかし、中国のGDP成長率は6.5%となり、10月19日は2,500ポイントを復活している。しかし、暴落継続の可能性もある。

日本も10月2日に2万4,448.07円と6年ぶりの高値を付けたが、10月12日に2万2,323円まで下げて、10月19日2万2,532円になり、こちらもレンジ相場入りになっている。レンジは、2万2,000〜2万3,000円であろうか?

このレンジ相場化は、米国企業業績は維持しているが、10年米国債の金利が3%内外に上下することと世界的なリスク要因が多いことで、暴落も上昇もない相場観になっていることが原因である。

しかし、ペンス副大統領の宣戦布告で、中国との間で本格的な全面対立が起きていることを確認し、かつ、中国企業の輸出が落ち込み始めたことで上海総合指数が暴落している。

米国金利動向

FRBは、NY株は下落したが見直しはないことを宣言して、12月利上げを行い2019年前半まで利上げを続行するとした。この発表で、再度10年国債金利が上昇して3%以上になり株は下落したが、すぐに3%を割ることで株価は戻した。弱気相場には入ったが、崩れない。バブルが延命している。

ということで、今は大丈夫である。バブル崩壊時には、先行指標として先にジャンク債の暴落が起きるが、起きていないし、バブル時最後に石油などコモディティ価格の上昇が起きるが、それもまだない。

そして、暴落時にはすべてのものが売られるが、まだ起きていない。これらのことから、まだバブル崩壊にはなっていない。今の相場は1987年ブラックマンデーのパターンと似ているが、2014年の続伸したパターンとも似ている。よって、現時点では、近々のバブル崩壊は半々ということになる。まだ1年程度は崩壊しない可能性もある。

しかし、なぜ、米国長期金利が上がらないかというと、中国など新興国や日本などから資金を引き上げて、米国にドル資金が還流しているからである。このため、中国の人民元は1ドル=7元まで下がる可能性があり、緩いキャピタルフライが起きているようだ。

そして、米国金利が上昇しても、円安にもならない。円安で日本の株価は上がるというが、残念ながらそうはなっていない。年末には日本株価は2万5,000円以上になると証券会社は言うがそうはならない。

それより、暴落の危険性もあり、かつ景気上昇期から下降期への転換点であり、量的緩和をしている日本は、今以上の量的緩和ができないことを見越しているようでもある。

サウジの動向

サウジアラビアのトルコ総領事館で、サウジの反政府記者ジャマル・カショギ氏が殺害された。カショギ氏は、アップルウオッチを装着して大使館に入り、殺害時の音を録音していた。このため、当初殺害を否定していたサウジ当局は、同氏に取り調べを行ったところ誤って死亡させたという見解に変更し、ムハンマド・ビン・サルマン皇太子は関係していないとした。

しかし、米国議会やペンス副大統領は、サウジの関与が明らかになり次第、サウジに対して制裁を行うという。トランプ大統領は、当初制裁をほのめかしたが、その後、サウジとの関係を維持する方向に方向転換した。

しかし、サルマン皇太子の護衛部隊が殺害に関与していることで、サルマン皇太子が指示した可能性があり、擁護できなくなっている。サルマン皇太子の失脚も想定できる事態になった。

このことで、サウジで開催する「砂漠のダボス会議」とも言われる国際会議には既に民間企業関係者たちが相次いで欠席を表明していたが、とうとうムニューシン財務長官も欠席することになった。米国のサウジ制裁が起きるとNY株価も下落した。

もし、サルマン皇太子が健在のまま米国がサウジに制裁するなら、それに対してサウジ政府は、制裁には対抗処置を取ると発言している。石油を政治的武器化してくる可能性が出てきて、石油価格が上昇するはずが、まだ大きく上昇はしていない。

しかし、今後、この石油供給不足と相まって、バブル時最後に上がる石油などコモディティ価格が上昇する可能性がある。

もう1つ、大きな問題は、ドル基軸通貨の崩壊になる可能性で、サウジはドルでしか原油を売らないことで、ドル基軸通貨制度を維持して、米国との関係を緊密して、独裁王制を維持していた。

この関係が崩れることは、米国にとっては、ドル基軸通貨体制崩壊になり、サウジによっては王政の体制保証が無くなることになる。

もう1つ中東情勢を考え上で重要なことが、イスラエルの味方が近傍にいなくなることだ。シーア派イランに対抗するサウジとイスラエルは友好的な関係を維持しているが、米国とサウジが離れると、当然サウジは、ロシアと中国に接近して、イスラエルから離れることになり、中東地域のパワーバランスが崩れることになる。このことは、味方のいないイスラエルの崩壊に近づくことになる。イランは喜んでいるはず。

日本や世界への影響

また、もしイラン制裁でイラン原油を止めている上に、サウジの原油も供給されないと、世界的な原油不足が起き原油高騰で世界的なインフレが起きることになる。

特に影響の大きい日本は、原油価格高騰で、経常収支の大幅な赤字になり、かつ石油に起因するインフレが起きて、そのことで円安になり、より一層の円安インフレが起きることになる。

そして、2%以上のインフレが起きると、量的緩和を止め利上げを行うなどのインフレ防止の金融引き締め政策が必要になり、金融緩和をしなければならない景気悪化時に逆の政策となり、景気悪化の速度を早めることになる。これによりスタグフレーションになる。

このように、日本の脆弱なポントが出てしまいかねない事態になっている。量的緩和継続が、日本の大きな問題点になってきたように感じる。

そして、原油価格の上昇は、新興国経済に大きな打撃になる。このことで、世界全体の景気が悪化することも考えられる。米中貿易戦争の上に、原油価格の上昇となると、世界の景気後退が明確化して株価の暴落を引き起こすことにもなる。当然、この面でも日本は影響される。

対策としては、欧州のドル以外の国際通貨決済システムを利用して、日本も原油不足にならないように、イラン原油を買い続けることである。しかし、これは、ボルトン補佐官が推進する米国のイラン政策を無視することになるので、米国から仕返しを受ける可能性もあるが、日本としては次善の策を取るしかない。

この件では、官邸内でケリー主席補佐官とボルトン補佐官の対立が起きているようである。サウジを取るか両方ともに捨てるか米国の政策は、米国の岐路と同時に世界の岐路も決定しかねない。

その他のリスク

イタリアの国家予算案の赤字幅が、欧州委員会の制限値以上の赤字になり、EU委員会もECBも認めないとした。しかし、イタリア政府は予算を執行するという。イタリアがEU離脱へ進むのかの岐路にある。

その上に、ドイツのメルケル政権も、地方選挙で負けているので、基盤がもろくなってきた。Afdと緑の党の左右の政党に支持が割れている。EUの面倒より、ドイツ国内での政治闘争が激化するようである。

また、英国のブレクジットも交渉最後の段階でもめている。こちらもハードブレクジットかソフトかの岐路にある。

米中経済戦争で、中国が経済崩壊に進むのかどうかも問題であり、世界的に経済基盤がもろくなり、いろいろな問題が出て、世界的な大混乱への時代になる予兆が出てきたようだ。

世界の中央銀行の量的緩和による大借金時代の閉幕が迫り、世界の中央銀行の引き締めにより、社会混乱時代が幕を開けたようである。しかし、日本の個人も企業も借金をしなかったことで、混乱時代はチャンス到来になるような気がする。

そして、日本政府や日銀も、この世界的な大混乱の時代への準備をする必要になってきたようである。

さあ、どうなりますか?

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