Mリーグ最高顧問に就任した川淵三郎氏(左)。なぜ藤田晋氏(右)の要請に応じたのだろうか(撮影:ヒダキトモコ)

7月17日、国内初となる競技麻雀のプロリーグ「Mリーグ」の発足が発表され、話題を呼んだ。サイバーエージェント、電通、博報堂DYメディアパートナーズ、テレビ朝日、コナミアミューズメント、セガサミーHD、U-NEXTの7企業がチームを保有し、2018年10月1日開幕のリーグ戦に臨む。初年度の優勝賞金は5000万円。インターネット放送局「AbemaTV」で全試合が配信される。
仕掛けたのは、Mリーグの初代チェアマンに就任した藤田晋氏。サイバーエージェントの創業社長でありながら、2014年にはプロアマ含めた最強雀士を決める「麻雀最強戦2014」に出場し、見事日本一を勝ち得た。
さらに、初代Jリーグチェアマンを務めた川淵三郎氏が、Mリーグの最高顧問として藤田氏を支える。川淵氏はNBLとbjリーグに分裂したバスケットボールの国内男子リーグを2016年9月に「Bリーグ」として統一させた実績もあり、“プロリーグ請負人”として知られる。
藤田氏と川淵氏の2トップが、Mリーグに懸ける思いを存分に語った。

なぜ今、Mリーグなのか?

藤田:2014年に「麻雀最強戦」で優勝して以来4年間ほど麻雀界に身を置き、麻雀に付きまとう「賭け事」のイメージを払拭しなければならないと強く思いました。たとえば、トップレベルのプロであっても麻雀の大会だけではご飯が食べられない。最高位であっても、街の雀荘で、ゲストとしてお客さんのゲームに参加し、そこで得た報酬を生活の足しにしている。プロは誰もそんなことをしたいとは思っていないですし、そんな生活が続けられないということもわかっている。でも、どうにもならないという現状があります。


7月17日に行われたMリーグ発足会見の様子(写真:Mリーグ)

芸能界にも愛好家は多いのですが、みんな声を大にして言えない雰囲気がありますし、番組にもなかなか出ません。それは、やっぱり賭け事に対する後ろめたさがあるからです。そんなことでは、いつまでたっても健全な競技として発展できない。その文脈を一度、ガラリと変えないといけないということで、Mリーグを企画しました。

ちょうど今、対戦型ビデオゲームの競技大会「eスポーツ」のブームがきていますが、麻雀も本当に頭脳を使う競技ですし、見ていてもスポーツのように面白い。対戦時間が長いこともありテレビ中継には不向きでしたが、「AbemaTV」のような新しいメディアが育ち、全試合フルで放送できる環境も整ってきました。機は熟したというか、麻雀に対する古きイメージから決別するとしたら今しかない、と思っています。

川淵:僕も本当に心から大賛成です。世間的な認知や社会的な地位はそんなに高いものじゃないけれど、麻雀ほど面白いゲームはないし、ファン層も僕らが数十年前にやっていた時代に比べれば女性が増えていたりと、ずいぶんと変わってきたんじゃないかな。

藤田:そうなんです。実際に今、街の雀荘に行っても、ご高齢者がずらっといたり、あるいは若者だらけだったり、どっちかなんですよね。麻雀の女性向けスクールなんかも、いっぱいになっています。

背景として、「健康麻雀」の普及を頑張っていた人たちがいて、認知症の予防にいいということでご高齢者に広まったということもありますし、若者が増えたというのは、これは完全にオンラインゲームの影響です。昔は人がそろわないとできませんでしたが、今はネットですぐ相手が見つかって打てる。たくさんのデータを基に勝ち方を学べるので、将棋の藤井聡太七段のような早熟の若い子が増えてきました。

川淵:そうでしょう。だから古い人なんかは、ガード下の麻雀屋で、たばこの煙をモクモクさせながら賭けているイメージだと思うんだけれども、もはや今は健全麻雀、健康麻雀が当たり前になっている。特に今回、スポーツを志向したMリーグを立ち上げるなら、競技中にたばこなんか吸うのは断固許せない。「麻雀改革」じゃないけれど、完全にそういう古きイメージを変えようということだよね。

藤田:意識や認識を変えるという意味の「パーセプションチェンジ」という広告用語がありますが、まさにそれを狙っています。一流企業が参入していることも大きいのですが、やっぱり川淵さんに最高顧問になっていただいた衝撃が最も大きい。特に麻雀業界には激震が走りました。

いざ発表をしたら、世間の反響が全然違うんですね。たかが麻雀ってみんな思わなくなった。川淵キャプテンが名を連ねていると。何より麻雀界が驚いていて、業界の人から「川淵さんを連れてきた藤田さんがすごい!」って言われました(笑)。

ゴルフのラウンド後にオファー

藤田:もともと麻雀業界には、プロ団体がいくつかあって分裂していたんですね。しかも、各団体それぞれの価値観や利権みたいなものがあってあまり仲が良くない状況で、誰も統一できていなかった。利害関係がなく、業界全体のために動いてくれる人が誰かいないかと思っていた時に、ちょうど川淵さんの著書『独裁力』を読んで、川淵さんみたいな方がこの業界にいてくれたら、とずっと思っていたんです。

だけど、まさか川淵さんが麻雀のためにひと肌脱いでくれるとは思えないので、自分でやることにしたというか、僕がいちばん中立的な立場でまとめられるのではないかと思って動き始めた矢先に、神様が川淵さんに会わせてくれました。たまたま、知人が「川淵さんと一緒にゴルフをするけれど、1組空いているからどう?」と誘ってくれまして。川淵さんと18ホール回った後、最後にお茶を飲んだ時に「協力してくれませんか」と切り出したら、「いいよ」と言ってくれたという(笑)。

川淵:Mリーグの話は本当に事前に聞いていたわけじゃなくて、楽しくゴルフをやっている中で初めて知ったんだよね。ただ、藤田さんは麻雀がすごく強くてプロの中で優勝したなんていうから、すごいなとは思っていましたよ。それから、僕自身も麻雀が大好きですからね。

川淵麻雀は、Jリーグがスタートする前、30年くらい前に一切やめたんだけれど、3〜4年前から年寄りばっかりが集まる地域の麻雀大会に参加し始めたわけです。もちろん、賭けずに麻雀を純粋に楽しんで、年間集計をして暮れに表彰をする。毎週水曜日にだいたい10人ぐらい集まってやるんだけれど、「明日は麻雀だ!」ってすごく楽しみにしているくらい本当に楽しい。だから、藤田さんから話をいただいた時、僕としてはすごくうれしかったですね。


川淵氏(右)は毎週水曜、麻雀を楽しんでいる(写真:川淵氏提供)

それから、僕は知らなかったんだけれども、藤田さんから「麻雀が五輪の正式種目になるかもしれない」という話を聞いて、これは麻雀そのもののイメージが大きく変わるなと思うと同時に、そういうことなら、ますます競技麻雀の発展に携わりたいと思いました。やっぱり麻雀ほど飽きないゲームはないし、頭を使うゲームもない。やればやるほど、知的ゲームの要素が強いと感じるよね。(注:2022年の北京冬季五輪に向け国際麻雀連盟が室内競技の正式種目としてIOCに申請中)

藤田:僕も麻雀が世界最高の完成度のゲームだと思っています。麻雀って一見、運で決まるように見えますが、技術を磨き上げたプロたちが戦うと、長い目では実力差が本当にはっきりしてくるんですね。4人で打つので平均勝率は当然2割5分ですが、本当に強い麻雀プロだと3割以上になります。ただ、1回、2回の対局だと、アマチュアがぽっとトッププロに勝てたりするというのも、また麻雀の面白いところですが。

川淵:それはまあ、アマチュアがプロゴルファーと18ホールやって1ホール勝つことだってたまにはある(笑)。だけど、僕なんかも地域の人との麻雀で年間を通しての得点をつけているけれど、やっぱり実力のある人が上位にくるわけで、たまたまその日に勝ったって長続きはしない。

ところで、麻雀のプロは今、2000人くらいいるということだけれども、どういう食い扶持というか、仕組みになっているのかな?

食えるようにしたい

藤田:それがですね、トップリーグがAリーグで、その次にA2とかB、C、Dと続くのですが、その全員がプロリーグに参加するための参加料を毎月払っているんですね。それを運営資金にして賞金を捻出しているのですが、B〜Dリーグの選手は実質、持ち出しで、プロが2000人いると言っても、実際に職業として成立している人は100人もいないと思います。

川淵:Mリーグは、初年度は1チーム3人で7チームあるから21人。21人って、もう日本のプロ中のプロだから、せめてその人たちには、みんなから「目指したい」と思われるくらいの収入があるといいよね。

バスケットボールの「Bリーグ」に携わることになって、僕が初めに言ったのは、「1億円プレーヤーをともかく5年以内に出そうよ」と。来年くらいには出そうな感じがあるけれども、やっぱりMリーグも「これしかもらえないの?」という感じじゃなくて、夢を見られるくらいにしないと、つまらないと思うけれどね。

藤田:僕もそういう夢のある世界を目指したいと思っています。まず、Mリーグ選手の最低年俸は400万円としました。さらに、実績に応じて、チームとの年俸交渉や複数年契約、来年度以降は移籍に伴う年俸アップ等々が加わり、どんどん高くなればと思っています。1億円プレーヤーは難しいかもしれませんが、1人でもいいから数千万円クラスのインパクトのある選手が出ればいいなと。


「賭け麻雀は、Mリーグにとって最大のリスク」と語る藤田氏(撮影:ヒダキトモコ)

それから、年俸のほかに、初年度の優勝賞金5000万円というのは、まあまあ大きいと思います。あと、Jリーグにおける明治安田生命のように、「Mリーグの冠スポンサーになってもいい」と言ってくれている企業がすでに現れておりまして。すごい大企業です。そういったスポンサーが入ってくれれば、賞金もまた増やせるかなと思っています。

川淵:それはすばらしいですね。そもそも、参加企業として、電通や博報堂、テレビ朝日といった一流企業が入っているというのは、もうそれだけですごく「格」が高い。この選択肢は本当にいいなと思っている。こんなことを言ったら失礼だけれど、ふつう、そんな企業が麻雀リーグに入るとは思わないからね(笑)。

藤田:参加企業にはこだわり、時間をかけて説得し続けました。参加企業にこだわらなければ、ずっと早く発足できていたのですが。

川淵:せっかくいいスタートを切っているので、だからこそ、「こんなに年俸がもらえるんだ」とか、「賭けることに対してこんなに厳しい姿勢を打ち出しているのか」といった、インパクトのあるアドバルーンを上げていくことが絶対に必要だよね。そのへんはもう藤田さんにしっかりと基礎固めをしてもらえればありがたいなと思うんだけど。

賭け麻雀をした選手は「永久追放」へ

藤田:そうですね。特に「賭け麻雀」に関しては、Mリーグにとって本当に最大のリスクというか、存亡にかかわる問題だと思っています。チームだけではなく、Mリーグ全体が立ち行かなくなる可能性があるので、一切認めない。発覚したら、選手については即時「除名処分」なのですが、そんなことが絶対に起きないよう、8月7日のドラフトでMリーガーが決まったら、改めてどれほど重大なことか伝えようと思っています。

川淵:そこなんだけれども、除名処分というだけじゃ、甘いなっていうか、弱いなって思った。除名じゃなくて、たとえば「永久追放」といった表現で、「やったら、もうこの世界にはいられないよ」ということをはっきりとさせたほうがより一層、清廉さが際立つなと。あの言葉は、もっと厳しく、強くしてほしいなというのが僕の希望です。

藤田:はい、わかりました。

川淵:そういうことをした選手は、ともかくこの業界とは関係がなくなるんだ、ということで。けれども、チームや監督の責任については、選手の生活を24時間すべてついて見ていられるわけでもないので、全部責任を負えと要求するのは、それは無理だね。「そういう人を選ぶほうがおかしい」と言われたって、そこまで人間の全部をわかりはしない。線引きだけしっかりとしておけばいいわけで。


対談後も「麻雀の魅力」をめぐる談笑が続いた(撮影:ヒダキトモコ)

Mリーグが始まれば、ほかにもいろんな間違いが起きるだろうし、世間に問題を引き起こすことだってあるだろうけど、「これはこうしたほうがいい」「次はこうしよう」と、都度修正して「トライ&エラー」でやっていけばいいわけであって、最初から完璧な制度なんかできやしないですよ。そこは、ある種ドライにいかないと。

だから僕が、Jリーグを発足させた時に「走りながら考える」と言ったのは、そういう意味です。とにかくスタートして、何か問題があったら都度変えていけばいいじゃないかと。完璧な制度は神様以外作れないんだもん。それに、時代に応じて必要な制度は変わっていくしね。だから、Mリーグも走りながら考えればいいと思いますよ。

藤田:まさに僕も、走りながら考えたいと思っていたので、そう言っていただけると助かります。想像するといろんなケースが思い浮かびますが、都度解決していきながらルールを作っていくしかないのかなと。定期的にお時間をいただいて、アドバイスをいただけたら幸いです。

川淵:経験からいろいろアドバイスできることも結構多いと思うんだけども、それもやってみなくちゃわからない。まあ、僕としてはいい加減な気持ちでお引き受けしたわけじゃないですし、一生懸命、相談役を務めさせていただけたら、と思っています。

関西や東北など全国への広がりも

藤田:よろしくお願いします。あと、これも難しい問題で、地方の開拓も進めていこうとは思っているんですけれど、参加企業が東京に集中しておりまして。

川淵:このMリーグに関しては、JリーグだとかBリーグだとか、そういう感覚で見なくてもいいんじゃないかなと思いますけどね。無理に全国区にする必要はない。東京は東京でリーグを組んで、新しく東京以外の企業が参加するのであれば、関西Mリーグとか、東北Mリーグのようなものを別途、作っていく。それで、最後に日本シリーズのような形で、各リーグの優勝チームが対決する。そういう感じのほうが僕はいいと思うね。

藤田:なるほど、それはいいですね。スケール感が出てくるというか、夢が広がりますね。そうなるよう、頑張りたいと思います。