2017年のJ1に、小野伸二稲本潤一が戻ってくる。前者にとっては清水エスパルス時代の2012年以来、後者にとっては川崎フロンターレに所属していた2014年以来となる。


筋肉強化やストレッチを中心に調整を行なう小野 ただし、前回の記事で書いたように、ふたりとも現在はケガが完治しておらず(小野はそけい部、稲本はひざの重傷からの復帰途上)、1月下旬にコンサドーレ札幌の沖縄キャンプを訪れた際には、別メニューでの調整を続けていた。彼ら自身が「焦らずに」と語るように、完璧な状態で復帰して、それぞれの持ち味をピッチ上で十分に発揮してもらいたい。

 その一方で、37歳のベテラン選手をじっくりと治療に専念させる、コンサドーレ札幌というクラブの懐の深さを感じた。当然、これほどのネームバリューがある選手は、Jリーグ全体を見渡してもなかなかいないため、「集客力になる」ことは間違いない。札幌がキャンプを行なっていたのは、かのキャンプ・ハンセンにほど近い、のどかな場所にある金武町陸上競技場のグラウンド。そこにも、彼らの姿をひと目見ようと複数のファンが集まり、練習後には一緒に写真に収まろうと声をかけていた。

 もちろん戦力としても、ベストコンディションに戻った時の、ピッチ上でのパフォーマンスや存在感に期待が寄せられているだろう。本人たちも、新シーズンのJ1の舞台を楽しみにしている。小野は「自分の持ち味は楽しみながらプレーすること。完璧に治して、そんな姿を見てもらいたいですね」と言い、稲本は「レベルの高いところでやるほうが、サッカーを楽しめるんです。年齢を重ねても成長しているところを見せたい。体力が落ちるのは仕方ないけど、技術や駆け引きなどでそれを示せたらいい」と声を弾ませた。

 ふたりがピッチに立てる状態になるまではまだ時間がかかりそうだが、たとえ全体練習に参加できずとも、周囲への影響力は絶大のようだ。

 今オフにヴィッセル神戸から新加入した28歳の田中雄大は、「子どもの頃にW杯を観ていて、友達と『おい、稲本が点取ったで』とか言っていましたからね。雲の上の存在のような選手と、こうして一緒のチームでやれるだけでもすごく嬉しい」と、憧れの存在との共演を喜ぶ。そして、「稲本さんとは川崎でも一緒にやらせてもらいましたが、球際の強さなどを参考にさせてもらいました。小野さんは天才。キャンプの最初の頃に何人かでチームに分かれた時にご一緒して、すごく話しかけてもらいました。本当にいつも前向きだし、周りを明るくしてくれます」と語った。

 今季のJ1全18チームには、1970年代生まれの選手が12人いる。そのうち、札幌には小野と稲本に加え、河合竜二、増川隆洋の4人が在籍しており、実に3分の1をひとつのチームで抱えているのだ。

 札幌に10年以上在籍した初めての選手となり、「ミスター・コンサドーレ」と呼ばれた砂川誠氏(現在は札幌のアドバイザリースタッフ)は、クラブがベテランを重要視する理由をこう説明する。

「社長もGMも、彼らの豊富な経験に価値を見出しているんです。特にシンジとイナは、普通の選手ではまず味わえない経験をしているので、その価値は大きい。チームメイトへの影響はもちろん、下部組織の選手たちにとってもよき手本になってくれています」

 確かに、アカデミーに所属する少年たちが、日常的に世界を知る選手の近くにいることで得るものは大きく、明確な目標にもなる。ふたりの存在感について、21歳の生え抜きセントラルMFである前寛之は次のように語る。

「イナさんは、あまり自分から多くを語るほうではないと思うけど、プレーでチームにメリハリをつけてくれます。すごい経歴を持った選手なのに、話しかければ気軽に答えてくれる。僕は同じポジションなので、ポジショニングとか、ボールを取るタイミングとか、色々と参考にしています。

 シンジさんはとにかくうまいので、見ているだけで本当に勉強になります。アドバイスやいろんな要求もしてくれるんですが、このチームで一番サッカーをわかっている人なので、すんなりと腑に落ちますね。サッカー以外のこともよく話してくれるし、いつも明るい人なので、一緒にいて楽しいです(笑)」

 ポジティブな言動で周囲を盛り上げる小野と、サッカーに取り組む姿勢で仲間に然るべき道を示す稲本。2002年のW杯で日本中を沸かせた、「真のトッププレーヤーたち」の存在感はまだまだ健在だ。

 とはいえ、30代後半のフットボーラーにとっては、「引退」の二文字がちらついていてもおかしくはない。50歳を迎える今年も現役を続ける、三浦知良(横浜FC)の話を向けると、小野は「本当にすごいですよね。刺激というか、尊敬というか……。でもすごすぎて、そういう言葉だけでは片づけられません。自分も体が動くかぎり、何歳になっても選手を続けたい。カズさんの背中をしっかり見て、やっていきたいです」と答えた。

 一方の稲本も、「目標とか、そういう次元ではないかもしれないけど、フィジカルや技術をキープしていくのは見習うべきところ。もちろん自分もそこまでやりたいし、少なくともカズさんより先にやめたくはない。そこは間違いないです」と返してくれた。しばらくは、ふたりがユニフォームを脱ぐことはなさそうだ。

 25年目を迎えるJリーグに、彼らのような生けるレジェンドの存在があることを喜びたい。そして、チームを支えるだけでなく、ピッチ上で僕らサッカーファンを酔わせてくれることを大いに期待したい。

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