直後の記事で私は、「本田は勝利後、サポーターのもとに駆け寄り喜ぶチームメイトを尻目に、一人ロッカールームへと帰っていった」と紹介した。
 
 しかし、実はこの物語には続きがある。本田から遅れること数分して、ロッカールームに帰ったある選手に、彼はこんなことを言ったという。
 
「この勝利が喜ばしいのは、ここが我々の出発点になるからだ」
 おわかりだろうか? たとえプレータイムがかなり短くとも、本田はミラン復活の一端を担う選手としての発言をしている。彼は自分がミランを構成する一員であると感じているのだ。
 
 それならば、本田の契約が満了するまでミランに留まりたいという望みも理解できる。もちろん残りのメルカート期間中(1月31日まで)に、非常に魅力的なオファーが届けば、話は変わってくるだろう。移籍市場というものは、誰によっても一寸先は闇だ。99パーセント残留すると思われていた選手が、24時間後には移籍するというケースは、この世界にいくらでもある。
 
 さらにミランは現在、ジェラール・デウロフェウに関する獲得交渉がエバートンとの間で大詰めを迎えている。両ウイングで機能するこのスペイン代表ドリブラーが加入すれば、本田の影はますます薄くなるかもしれない。
 
 しかし、やはり現時点で一番可能性が高いのは残留だ。シーズン途中で移籍して危険を冒すのではなく、6月までじっくりと周囲を見回し、先のことを考えるというパターンだろう。
 
 ただ、ひとつだけ注意したいのは、ミランのクラブ株式取得で基本合意している中国コンソーソアムだ。現オーナーのシルビオ・ベルルスコーニとの正式調印が何度も先延ばしになっている彼らだが(次回の予定は3月3日)、事あるごとにミランの運営、さらにチーム編成に口を出してきている。
 
 チーム編成を預かるアドリアーノ・ガッリアーニ副会長も、「今はオーナーが2人いるようなものだ。選手売買には両者の承認が必要なんだ……」と嘆いている。
 
 中国人の考え如何では、早期の放出(つまり今冬)も考えられるし、逆にアジア市場を見越してのサプライズでの契約延長もありえるかもしれない。
 
 いずれにしても、シーズン後半が前半よりも多少なりとも良いものになるように、本田にエールを送ろう。文句ひとつ言わないとしても、彼が現状に満足していないのは明らかなのだから――。
 
文:マルコ・パソット(ガゼッタ・デッロ・スポルト紙)
翻訳:利根川晶子
 
【著者プロフィール】
Marco PASOTTO(マルコ・パソット)/1972年2月20日、トリノ生まれ。95年から『ガゼッタ・デッロ・スポルト』紙で執筆活動を始める。2002年から8年間ウディネーゼを追い、10年より番記者としてミランに密着。ミランとともにある人生を送っている。