「良い質問」には どのような価値があるのか?
日本で最も多く質問をし、思考を重ねてきた最高峰のエグゼクティブコーチが10年来の探求と実践の成果をまとめた書籍、『良い質問をする技術』が発売されました。雑談・商談・会議・打合せ・取材で役立ち、上司・部下・取引先・家族・友人に感謝される「良い質問」とはどのようなものなのか?
本連載では、そのエッセンスを抜粋し紹介していきます。
日本で一番、質問をする仕事
はじめまして。粟津恭一郎と申します。
私の仕事は、「エグゼクティブコーチ」です。
質問の相手は、主に大企業の経営者です。そうしたエグゼクティブに2〜3週間に一度、「コーチング・セッション」と呼ぶ時間をとってもらい、1対1で質問をし続けます。私は常時20人強のクライアントと契約していますので、ほぼ毎日、何時間も経営者に対して質問をすることになります。
セッション以外の時間には、次のセッションに向けて「クライアントの目標達成のために、さらにどんな質問が効果的だろうか?」「どんな質問が、経営者をより成功に導くだろうか?」と四六時中考えています。この仕事に就いて10年以上、そんな毎日を過ごしてきましたので、日本で一番「質問」について考え、そして実際に質問をしてきた人間の1人なのではないかと自負しています。
コーチング・セッションでの質問の内容は多岐にわたります。
喜んで答えてもらえる質問をすることもありますが、クライアントの目標達成のためには、相手が考えたくない、「痛いところをつく」質問をあえてすることもあります。セッションの結果、一時的に怒ってしまう方も珍しくありません。
しかしそれでも多くの方が、私に依頼をし続けてくださいます。「粟津さんに質問されると調子が良くなるんだよ」とおっしゃって、社長の任期が切れるまで、5年、6年と継続してエグゼクティブ・コーチングを受けてくださる方も多く、新規のご依頼はなかなかお受けできない状態が続いています。
超多忙なエグゼクティブに定期的に時間をとってもらい、ひたすら質問をし続けて報酬をいただく──どうしてこのような職業、関係性が成り立つのか。
その理由は、1つです。「良い質問には、自分と周囲の人々の人生を、より良い方向へ変える、大きな力がある」からです。
「質問の差」が「人生の差」になる
私がこれまでエグゼクティブ・コーチングをさせていただいた経営者は、累計で200人近くになります。会社も業種も、実にさまざまです。解決したい課題はすべての人で異なります。同じビジョンを描いている方は、1人もいません。
しかし、この方たちには大きな共通点があります。それは、「成功者」と呼ばれる人ほど、自分と他人に「良い質問」を投げかけている、ということです。つまり、皆さんが非常に高い「質問力」を備えているのです。
世の中で、周囲の人々から「あの人は優秀だ」と賞賛されている人。私自身、お会いしてみて「この方はすごいな」と心から感じる人。そうした人たちと長年接してきてわかったのは、「優秀な人と、そうでない人を分けるものは、質問の差だ」ということです。
ふだんはあまり意識していませんが、私たちの会話の多くは、「質問」とそれへの「回答」で成り立っています。
「おはよう。今日は何時に出かけるの?」
「7時頃に家を出るよ」
「先週依頼した資料はどうなった?」
「今日の午後にはできあがります」
「今晩、1杯どう?」
「いいね。鈴木も誘おうか」
皆さんも、最近の記憶を辿ってみていただきたいのですが、実は、質問でも回答でもない会話というのは、意外なほど少ないのではないでしょうか。
また、人は無意識のうちに四六時中、自分への質問も繰り返しています。
「今日は雨が降るのかなあ?」
「あの会議は何時からだっけ?」
「そういえば、昨日来ていたメールに返事したんだっけ?」
といった日常生活の中での質問もあれば、
「自分はなにがやりたくていまの会社に入ったんだっけ……?」
「死ぬまでに、これだけはやらないと後悔することって、なんだろう?」
のような、いままでの人生を振り返ったり、これからの未来を考えたりする質問もあります。
あまり知られていないことですが、私たちは、こうした心の中の質問をスイッチとして行動を起こしています。自分に質問を投げかけ、答えを出し、その結果として行動をしているのです。
これは、自分に毎日「同じ質問」だけを投げかけていれば、その人の人生は変化することなく過ぎていくことを意味します。これまでとは違う人生を手に入れるには、これまでとは違う質問を自分に投げかける必要があるのです。
実際、多くの成功者たちは、「同じ質問」の繰り返しに満足しません。毎日のように新たな質問を自分に投げかけようと、努力し続けています。新しい質問が新しい行動につながること、そしてそれが成功につながることを知っているからです。
世の中で「すごい」と言われる人は、「良い質問」を次々に作ることができるからこそ、ずば抜けた成果や実績を出せている。だとすれば、優秀な人がもつ「良い質問をする技術」を手に入れることができれば、誰もが優秀な人になれるはずです。
自分でどんどん「良い質問」を生み出せるようになれば、どんな人でも、いまより成功したり、もっと仕事ができるようになり、人生の質を高めることができる。「良い質問」を手に入れることは、イコール「良い人生」の切符を手にすることなのです。
それだけではありません。「良い質問」ができるようになることは、周囲の人々との関係を、間違いなく良好にします。それは他の人に質問をすることで、その人の人生をもより良いものにできるからです。
なにかの問題に悩む人が、あなたの質問をきっかけにして、明るい未来に向かえる可能性があります。あなたの質問が、友人や同僚の頭の中に、一生残り続けることもあります。「質問の質」を高めることは、自分自身のみならず、あなたに関わるすべての人々の人生を、豊かにしていくことにつながるのです。
しかし、質問は「良い質問」ばかりではありません。相手を萎縮させたり、関係を険悪にする「悪い質問」もあります。さらに相手との関係を作るのには役立つものの、気づきが少ない「軽い質問」や、答えにくいけれど気づきを促す「重い質問」もあります。本書では、そうした質問の種類と特性について、できる限り多くのパターンで解説するように努めました。
エグゼクティブコーチとしての守秘義務がありますので、事例については人物や状況の設定を変えていますが、そこで解説する「質問の本質」は、私が長年の経験から掴みとった、多くの場面で応用可能なものばかりです。
『良い質問をする技術』に記した「良い質問をする技術」が、日本中に広がり、たくさんの人々の人生をより良いものとすることに貢献できたら、「質問」を仕事とする筆者として、これほど嬉しいことはありません。