調達購買改革を巡る誤解 その2/野町 直弘
その2.「サプライヤ評価」=「サプライヤマネジメント」の誤解
前回から調達購買改革を巡る誤解について取上げていますが、今回はその第二回です。
お客さんなどから良く聞かれる質問で「サプライヤ評価をやろうと検討しているが、どのような評価項目にすればよいですか?」ということがあります。しかしそういう企業に限って何のためにサプライヤ評価をやろうとしているか明確でないことがとても多いです。
サプライヤ評価はあくまでも手段であり目的ではありません。
つまり何かの目的を達成するために評価をする訳ですが、それが不明確なまま評価だけ先行するといわゆる評価疲れに陥りやすくなります。
それでは評価は何のためにやるのでしょうか。
大きく分けるとサプライヤ選定や決定のために行う評価と既に取引があるサプライヤに対する実績に基づく評価に分けられます。(後者は目的ではありませんが)前者はこれからサプライヤの選定を行う訳ですから基本的には限られた情報から多面的に評価を行い、安かろう悪かろうではない最適なサプライヤ選定を行うことが求められます。ですから評価項目としてもこのような購買取引に関するQCD等の条件が含まれます。ですから比較的評価の仕組みを構築するのも難しくはありません。
一方で実績に基づく定期的な評価ですが、これは多くの企業で年に一回とか半年に一回とか実施されるいわゆるパフォーマンス評価と言われるものです。
これは様々な目的が考えられますが、例えば品目別のサプライヤ戦略の策定、高い評価のサプライヤに対する表彰、低い評価のサプライヤに対する改善や改善支援、一社発注品などのクリティカルな購買品のサプライヤに対する囲い込みや関係性の構築などが上げられます。つまり簡単に言ってしまうとサプライヤマネジメントのツールとしてサプライヤ評価を行うのです。
具体的な事例を上げてみましょう。
例えばある品目群についてA社、B社、C社の三社との取引があるとしましょう。3社の評価についてはA社が一番高く、B社、C社は低い。一方でA社が独立系で自社との関係性は低い、B社は地場系であり自社に対する売上依存度も高く、こちらを向いて仕事をしてくれる。C社はやはり独立系である。
この場合どのようなサプライヤ戦略やサプライヤマネジメントが考えられるかというと、例えば評価も関係性も低いC社への発注を減少させA社、B社に振り分ける(サプライヤの集約)ということが考えられます。一方でA社、B社に対しては取引継続というサプライヤ戦略になります。
但しB社に対しては取引継続の条件として評価の改善をしてもらわなければなりません。またA社に対しては自社に対する関係性を高めるために、囲い込みを行う、具体的には定期的な情報共有や表彰、マネジメント同志での定例ミーティングを持つ、とか、場合によっては出資なども考えられるでしょう。
このようにサプライヤ評価はあくまでもツールであり、それを元にサプライヤ戦略を策定し、戦略に基づいて各施策に落とし込んでいくことがサプライヤマネジメントの全体像なのです。
これは品目群毎に考えていく必要があります。よくサプライヤ格付けということで評価が高いサプライヤから1軍、2軍、3軍、のように区分けをすることがありますが、このような総花的な格付け自体にはあまり意味がありません。サプライヤ戦略は品目群毎に策定するのですから、評価や戦略、戦略に基づきどのような差別化や施策を行うか、は品目群毎に変わってくるからです。
このようにサプライヤ評価を捉えるとどのような評価をすべきかは目的によって変わってくることが理解できます。例えばある企業のサプライヤ評価軸の事例ですが、品質(Q)に関する評価がありません。何故ならこの企業は品質が悪い企業とはそもそも取引をしていないので、現在取引をしているサプライヤの実績評価に品質評価を入れる必要がないからです。何を目的としてどのような企業を対象にした評価であるかにより評価項目は変わってくるのです。
昨年の4月まで約3年程「改革推進者勉強会」という会を私が発起人になって進めてきましたが、その会の1つのグループにサプライヤマネジメントグループがありました。
この勉強会で何社かのサプライヤマネジメントの事例を調べる機会がありました。
各企業ともとても興味深い事例です。ある1社は限定されたサプライヤのみの評価を行っています。全体で300社以上の取引サプライヤがいるものの評価対象は30社程度。つまり評価対象となっているサプライヤはバイヤー企業側が関係性を強めたいサプライヤです。取引金額が大きい、とか1社しか対応できない技術を持っている、などのサプライヤをあえて評価対象とすることでそれらのサプライヤと緊密な関係を築こうとしている訳です。この企業のもう一つの興味深い点は購買部門はサプライヤの評価を改善することが仕事であり、KPIとして管理しているという点。通常、評価はやるけど、評価の改善についてはサプライヤ任せ、という企業が多いわけですが、この企業はサプライヤ評価の改善を購買部門が会社に対して責任を持っているのです。
別のある企業はとてもシステマチックなサプライヤマネジメントの仕組みを持っていました。サプライヤ評価のための専任チームを持っており、そこが四半期の評価や評価項目のメンテナンスなどをしています。またサプライヤと自社のマネジメントのクォタリミーティングを実施したり、トップダウンでサプライヤマネジメントをシステマチックに推進しているのです。この企業はサプライヤマネジメント=購買業務と捉えているのです。多くの企業では競合見積をとったり、コスト削減交渉をしたり、それが調達購買業務と捉えていますが、この企業は選ばれたサプライヤと取引をしているのだから競合見積をとる必要すらないという考え方なんでしょう。つまりサプライヤ評価やサプライヤマネジメントが調達購買業務そのものであると捉えているのです。
これらの企業に共通しているのは、サプライヤ評価はあくまでもツールや手段であり、目的ではないということです。
前回集中購買やサプライヤ集約によるボリュームメリットについて、「購入するモノの種類や作り方によって、また個別企業の工場や設備の稼働状況によってもボリュームメリットが出て生産コストが下がるモノとそうでないモノがある」ということを書きましたがサプライヤマネジメントも同じです。
購入する品目群やサプライヤマネジメントの目的によって評価軸は変わってきます。
私が以前在籍したGEという会社ではCTQ(Critical To Quality)という言葉がよく使われていました。これはシックスシグマの用語ですが「経営成果に重大な影響を与える要因」という意味です。私は目的のない総花的なサプライヤ評価ではなく、その品目群でサプライヤや購入品に何を求めるのか、それがCTQであり、CTQを見極めてそれをサプライヤ評価項目にすべきと考えます。
多くの複雑で一般的な評価項目を設定するよりも少数でも重要なCTQとなり得る評価項目を設定すれば良いのです。(これは教科書には全く載っていないことです)
全てのサプライヤを同じ軸で評価しようとするからおかしなことになるのです。
次回は、誤解その3.「複社発注」=「リスクマネジメント」の誤解について述べていく予定です。