コグニティブ・コンピューティングがIoTに与える圧倒的影響とは
コンピュータが自分で複雑な問題を解決できるようにすることがコグニティブ・コンピューティングだ。人間がそうであるように、コグニティブコンピュータは経験から学び、その都度よりよい方法を獲得していく。これまでのシステムでは解決不能な問題にあたった際には、将来それを解決できるよう知見を拡張していくのだ。
IoTにおいてコグニティブ・コンピューティングの必要性が持ち上がってきたのは、現在のビジネスにおけるデータの重要性からだ。IoTが一般的になる将来、スタートアップから大企業に至るまで、直感ではなくデータで判断を下すようになる。コグニティブ・コンピューティングではデータを使い、過去の経験に基づき、判断のルールと照らしあわせてよりよい判断を行う。
我々がデータをどのように定義するかは変わりつつある。しかし、そんなことを話している間にもデータそのものが自ら処理される技術を選ぶ時代がすぐにやってくるだろう。IoTにより増えたデータは、「ある事象についてコンピュータ自らが考え、学習し、自分なりの答えを導き出すシステム」であるコグニティブ・コンピューティングという新たな問題解決メソッドを、IoT開発にとってより価値あるものにするはずだ。
コグニティブ・コンピューティングとIoTの関わり
我々がOSとあたかも友達のように話せる日はまだまだ先だが、コグニティブ・コンピューティングはその通過点とも言うべきものを提供していると言える。さらに、企業はIoTデバイスを使ってそのポテンシャルを最大限に活用するようになるだろう。
さて、コグニティブ・コンピューティングが我々にもたらすものは様々だが、まずは目先の利益第一で考えてみたい。現在、まだ本物の人工知能と言えるシステムは現れていないが、解決すべき問題をある程度のところまで細分化すればコグニティブ・コンピューティングはうまくいく。プランニングや予測、理由付け、テキスト・画像認識などといった用途であれば、企業はこの技術をIoTと結びつけることですぐに利益に結び付けられる。
銀行業界では、IoTとコグニティブ・コンピューティングを結び付けた取り組みが、すでにいくつか存在している。この組み合わせの活躍が特に目立つのは、「不正取引の検知」においてである。かつては、不正取引をある一定のルールをベースにして見つけ出していた。たとえば、クレジットカードがいつもと違う場所で使われていないか? カードがおかしな時間帯に海外で使われてたりしないか? といった具合だ。
コグニティブ・コンピューティングにおいては、これらのルールはより大きな総合的判断基準の一部に過ぎなくなり、銀行は顧客の消費傾向や購入するであろうものを予測し、カードが不正利用されていると判断されればカードの利用を停止できるようになる。コグニティブ・コンピューティングとIoTは共に成長しており、企業はその大小を問わず、これらがもたらす自動性の恩恵に与ることとなる。
テクノロジーを通じて向上する生産性
近い将来、コグニティブ・コンピューティングを活用したIoTにより、生産性は革命的に向上する。そして、より多くの自律的なシステムがIoTに現れることで、企業はそれを使うための新たなスキルの習得を求められるようになるだろう。
コグニティブ・コンピューティングがもたらす正確な予測は、企業がより先のことを見越したアクションを取れることを可能にする。技術によって伝達能力が高まることから、ユーザはデバイスからのクエリにどう対応するかを学ぶ必要性も出てくるだろう。企業も判断をくだす人員により高度なデータモデルをどう扱うか訓練する必要が出てくる。
コグニティブ・コンピューティングにより、人の手を介さずに判断を即座に行う製品が生まれることになるだろう。顧客の扱いから設備の生産管理まで、かつては単なる予想でしかなかったり事後の対応が必要だったりした業務は、データに基づき事前に対応できるようになる。
データとコグニティブ・コンピューティングの未来とは
現在、企業は自分たちが集めているデータのポテンシャルを最大限に活用できる才能をもつ人を抱えてはいない。IoTにおけるコグニティブ・コンピューティングとは、データの集積から解析までをマシンが互いに迅速かつケアレスミスなくやりとりする、ということだ。マシンだけでデータに関するあれやこれやを完結できると言ってもいい。いつの日か現実となるこの事実は、新たなビジネス戦略の幕開けを約束するだろう。
幸いにもこの初期段階と言えるものがすでにある。Googleの『DeepMind』などはわかりやすい例だろう。人の思考を高速に再現し、データに基づく問いに意味のある解答を導き出すことができる。これらのデバイスがより高度化し、ビジネスにおいて重要な位置を占めるようになれば、企業は自身のアプリケーションを限界まで試すことができるようになる。データとスマートコンピューティングはビジネスを一変させることになる。
また、無数のセンサーやデバイスがIoTで繋がることによって得られる本当の価値は、「学習エンジン」と「センサー」が緊密に結びつくことで生まれる。これにより意思決定は個々のセンサーやノード毎に、それぞれから得られた経験に基づき行われることになる。たとえば、しきりに話題に上る健康管理に関して言えば、ある程度決まった値ではなく特定の個人のこれまでの傾向からさまざまな判断・決定が行われる。
デバイスとセンサーはすべて互いにつながっているため、情報交換および集合的ラーニングのために必要な膨大な量のデータや処理時間の問題は解決されるばかりか、動的なソリューションのニーズにも対応できるようになる。例を挙げると、あるノードが攻撃を受けた場合、それに関する知見を即座に横展開することで、残りのノードが自分を守るのに役立てることができるといった具合だ。
このように、IoTにおけるコグニティブ・コンピューティングは、いま現在企業が取り組みたいと思っている多くの問題の有効的な解決策を提示することができる。間もなく企業は自分たちがデータをどうにかするための人材やリソースがないと嘆くのではなく、手軽になったデータやアナリティクスを使って何をしようかということを考え出すようになるだろう。
著者は世界的な情報テクノロジーを扱うコンサルティング・アウトソーシング企業WiproのCTOを務めている。彼はエンタープライズITにおいてコンサル業、アプリ開発、多岐の産業にわたる技術開発などで25年以上の経験を持っている。
ReadWrite[日本版] 編集部
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