「スマホで見るな」初ボーナスの新入社員に「高級腕時計」勧める上司、パワハラでは?
はじめてのボーナスは高級腕時計を購入すべきーー。そんな持論を展開する上司に悩む投稿が、ネット上の掲示板で話題となった。
投稿者はスマートフォンを時計代わりに使っているため腕時計を必要だと考えていない。しかし、上司は「いい加減スマホで時間確認やめろ」「俺は先輩にそう教わった」と言って、初めてのボーナスで高級腕時計を購入することを強く勧めてくる。
ボーナスが近づいてくると、「もうすぐだな」と高級腕時計のカタログを渡してきたそうだ。本人はかなり迷惑に感じているが、上司であるため、無碍にもできないようだ。
本人は親切心のつもりかもしれないが、上司がボーナスの使い道を部下に押し付ける行為は法的に問題ないのか。たとえば、パワハラには該当しないのだろうか。労働問題に詳しい大部博之弁護士に聞いた。
●「自己決定権の侵害」に当たる可能性「パワハラとは一般的に、職務上の地位や人間関係などの優位性を背景に、業務の範囲を超えて精神的・肉体的苦痛を与える行為と考えられています。パワハラに該当する行為は、民法上の不法行為(民法709条)として損害賠償の対象になります。
今回のケースでは、高級腕時計を購入するよう上司が部下に勧める行為が、自己決定権の侵害としてパワハラにあたるかどうかという問題だと考えられます」
大部弁護士はこのように述べる。具体的には、どう考えればいいのか。
「『腕時計を装着するかどうか』、ましてや『高級腕時計を身につけるかどうか』は、本人のプライべートに関する事項であり、本人が自由に決めることができる権利(人格権の一内容としての自己決定権)があります。
他方、初めてのボーナスでは高級腕時計を購入するのがよいと強く勧める上司は、あくまでも親切心なのかもしれません。
上司のこのような行為が部下の自己決定権を侵害するとして、不法行為による損害賠償請求が認められるか否かは、上司の強く勧める行為が、実際には強制といえる程度のものに至っているかを判断することになります」
強制に至っているかどうかは、どう判断するのか。
「上司の『行為態様』がポイントになります。
たとえば、上司の勧めに従わない場合には、人事考課上不利益な扱いをすることをほのめかす。また、単に高級腕時計のカタログを渡すだけではなく、高級腕時計のショップに連れて行き、購入を迫るといったことです。
こうした、時計の購入を拒否できないような状態をつくりだしたような場合には、もはや親切心からくるアドバイスという範ちゅうを超え、強制といえる程度に至り、自己決定権を侵害していると評価できるでしょう。
なお、単に、部下が主観的に『上司の勧めなので断れない』という心理状況であったというだけでは足りません。あくまでも上司の行為態様から客観的にみて、『断れない状況だった』と評価と必要があります」
大部弁護士はこのように述べていた。
(弁護士ドットコムニュース)
【取材協力弁護士】
大部 博之(おおべ・ひろゆき)弁護士
2006年弁護士登録。東京大学法学部卒。成城大学法学部講師。企業法務全般から事業再生、起業支援まで広く扱う。
事務所名:小笠原六川国際総合法律事務所
事務所URL:http://www.ogaso.com/