わずか17歳でiPhoneの脱獄(ジェイルブレイク)に成功し、PlayStation 3を世界で初めてジェイルブレイクした伝説的ハッカーのジョージ・ホッツ氏は、自動運転カーを開発する会社を立ち上げ、2016年内の製品リリースを目指しています。そのホッツ氏が「1000ドル(約11万円)で自動車を自動運転カーにアップグレードするキット」を開発していることを明らかにし、実際にキットでアップグレードした自動運転カーに試乗したムービーが公開されました。

On the road with George Hotz’s $1,000 self-driving car kit | The Verge

http://www.theverge.com/2016/6/6/11866868/comma-ai-george-hotz-interview-self-driving-cars

Transform your car into a self-driving car for $1,000 - YouTube

自動運転カーを開発するComma.aiのCEOであるホッツ氏。ホッツ氏は「運転は、驚くほど本能的なプロセスから導き出される動作です。例えば、教習所の本に『スクールバスが前方にいるときは、車間距離を通常よりあけなければいけない』と書かれていても、誰も守っている人はいません。運転者は、追い越し禁止の場所であろうと追い越します。運転は流体のように流れる本能のようなもの。だから、運転技術を上達させるには、他のドライバーがどのような運転をしているかを適切に予想できなければいけません」と語ります。



ホッツ氏が率いるComma.aiは、さまざまなドライバーの運転に関するありとあらゆるデータを集め、それを機械学習アルゴリズムに解析させ自動運転カーの開発を行っています。つまり、上手な運転や下手な運転のデータを集め、それを機械に学習させることで、人間がどのような運転をするのかを予測できるようにするというわけです。



Comma.aiは「どのような運転が良い運転とされているのか?」という部分に注力している他の企業とは違うアプローチで開発に取り組んでいるとのこと。「あなたの自動運転カーの長所は何でしょうか?」と聞かれたホッツ氏は「人間のように運転することです」と答えました。



ホッツ氏が乗り込んだのは、自動運転カーにアップグレードした2016年モデルのアキュラ「ILX」。ハンドルから手を離して自動運転モードが動作していることをアピールするホッツ氏。



通常の自動車を自動運転カーにアップグレードするには2つの必須条件があります。1つは多くの自動車に搭載されている、電気エネルギーでハンドルを回す力を補助する「電動パワーステアリング(EPS)」です。もう1つは、アクセルとブレーキを電動で制御する方法。ホッツ氏は詳細こそ明らかにしなかったものの、「アクセルは当然のこと、ブレーキも電動で動作させるすべはあります。2つの必須条件さえ整えば、我々のキットで自動運転カーにアップグレード可能です」と語りました。



自動車のバンパーの部分には謎のデバイス。さらに、フロントガラスの右上部にもデバイスが付けられています。



Comma.aiが開発しているのは、ユーザーが所有している自動車に取り付けるだけで自動運転カーにアップグレードできるキット。しかも、価格を1000ドル(約11万円)以下に抑える予定とのこと。



また、「Chffr」というアプリを新しくリリースし運転に関するデータ収集が進められています。Chffrは自動車のダッシュボードに設置しておくだけで、カメラを使ってドライバーの運転データをComma.aiに提供するというもの。



運転データだけを集めて機械学習させることは、世界中のあらゆる場所の道路のデータを集めることよりも簡単で、かつ低予算で行えます。しかし、ホッツ氏に取材を行ったThe Vergeは「Comma.aiの開発アプローチだと、例えば白線ではなく白いドットを使うラスベガスのように、異なる車線の道路では問題が起こるのではないか」と指摘しています。



また、Comma.aiの自動運転システムは周囲を走行する自動車の認識には優れていましたが、停車している自動車の認識はうまくいかないことがあったとのこと。さらに、自動運転モードで車線変更できない、道路標識や赤信号を認識しないなどといった大きな問題もありました。ホッツ氏は「こういった問題を解消する機能を製品に実装する予定です」と説明しています。



もし、本当にComma.aiが開発中の自動運転アップグレードキットが製品化され11万円以下の値段で販売されれば、高価な自動運転カーに手が届かない人でも購入できるため、大きな期待がかかります。