【三年生座談会】県立日立第一高等学校(茨城)【前編】

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夏準優勝の軌跡

 この夏の茨城を盛り上げたのは日立一高等学校であった。1985年に甲子園出場経験もある伝統校。グラウンドは他部活との共用という狭い環境で過ごす。その中で2012年の秋に茨城県大会でベスト8入りしたことなどが評価され、21世紀枠の最終候補9校まで残った。この最終候補に入ったことをきっかけに注目されるようになったが、2013年夏の茨城大会はベスト8入りしたものの、2014年夏は1回戦負け、その年の秋は県大会進出を果たすも1回戦負け。今春も地区予選敗退と苦しい時期を送っていた。

 しかしこの夏、水戸商、水城、東洋大牛久といった強豪を次々と破り、決勝まで進出。決勝では霞ヶ浦に敗れたが、夏の戦いぶりは多くの茨城の高校野球ファンを感動させた。そして夏が終わり、チームの中心選手であった3年生4人に話を伺った。

【座談会メンバーを紹介!】

 塙 拓大選手(主将・遊撃手)、赤津 健太郎選手(投手)、渡辺 文弥選手(捕手)、山舘 慧汰選手(二塁手)

左から塙 拓大主将、赤津 健太郎選手、渡辺 文弥選手、山舘 慧汰選手(日立第一高等学校)新チームは県大会1回戦負けからのスタートだった

塙 拓大主将(日立第一高等学校)

――新チームは県大会では1回戦負けでしたが、塙主将はこの時のチーム状態をどう見ていましたか?

塙 昨夏は1、2年生が多く出場していて、メンバーが多く残った中で、そういう意味で秋は良い結果を出せるんじゃないかと思ってスタートしましたが、その大会で打てなくて負けたのが悔しかったですね。

――そういった結果を受け入れた上で、冬はそれぞれどういうテーマで練習に臨んでいましたか?

塙 打撃力の向上、走塁のレベルアップに重きを置いてやっていました。

赤津 自分は投手なので、下半身と体幹の筋力アップに取り組み、重心を低くして体を動かして投げることを習慣づけました。

渡辺 バッテリーの力を高めていくことですね。下級生に良い投手がいたので、その投手の持ち味を引き出せるよう、キャッチング、ストッピングなど捕手の基本的な技術向上を目指してきました。

山舘 攻撃力をメインにして、守備を短い時間の中で、基本的なものをしっかりと高めていくことをやっていきました。

[page_break:攻撃のアプローチを変えてやっと掴んだ勝利]攻撃のアプローチを変えてやっと掴んだ勝利

――各自がテーマを掲げながら冬を過ごしていったようですが、課題とする打撃面はなかなか結果が出ず、春は地区予選で日立商に3対4で敗れ、ノーシードで夏を迎えました。この春の結果についてどう捉えて夏に向かっていったのですか?

塙 春の地区予選で1点差で負けて、なぜ打撃力強化をテーマに挙げたのに、打てずに負けたのかを中山 顕監督と選手みんなで考えていきました。これまで打つことだけの強化に終始していましたが、点を取るためには打つだけじゃない、他の戦略も考えていこうと中山監督と話をしていきました。それだけではなく、簡単に1点をやらない守備を強化することも大事にしていきました。

渡辺 冬の時からやっていた走塁、ヒットエンドランなど走塁を絡めた攻撃の練習の割合を増やしつつ、さらにスクイズを織り交ぜたりなど攻撃のバリエーションを増やす努力を積み重ねていきました。攻撃のバリエーションを増やすことは春が終わるまでそこまでの意識はなかったんです。

渡辺 文弥選手(日立第一高等学校)

 攻撃のバリエーションを増やしつつ、そして守備も磨いた中で臨んだ第97回茨城大会では、科学技術学園日立に6対1で快勝。そして2回戦では古豪・水戸商と対戦。この試合が、夏を勝ち進む上でヤマだと考えていた日立一ナイン。

 しかし試合は序盤から点を取られ、5回まで2対6の4点ビハインド。それでも、6回表に3点を取り返し、1点差に迫る。その裏に2点を取られ、5対8となるが、7回表に1点を取り返し、6対8のまま9回表を迎える。

――この時のベンチの様子はどうだったんでしょうか。

渡辺 これじゃ終われないという思いで全員で攻めていこうと決めました。

 攻めの気持ちを前面に出した日立一ナインは2点差を追いつき、延長戦に持ち込む。この時日立一ナインは「勝てる」と確信を持っていた。そして延長11回表に4点を勝ち越し、11対9で水戸商を破った。勝利の要因について渡辺はこう答える。

渡辺 延長11回で大きく変わったわけではなく、それまでの過程で粘り強く試合運びができたことで、チームは少しずつ変わっていったと思います。

 勝ちたいという思いで、春以降に取り組んだ攻撃のアプローチの変更、守備力を磨き上げたことがこの舞台で発揮されたのだ。

[page_break:いきなり変わったのではなく、これまでの積み重ねが結実した夏の準優勝]いきなり変わったのではなく、これまでの積み重ねが結実した夏の準優勝

赤津 健太郎選手(日立第一高等学校)

 粘り強い試合を展開できるようになった日立一。次の波崎柳川戦、2回表に4点を取られ先行を許したが、そういった試合運びができるという自信が生まれたナインに焦りはなかった。この試合の状況についてベンチにいた赤津はこう振り返る。

赤津 この4点はミスが絡んでいるのですが、後半盛り返していかないとズルズルいく感覚があるので、ベンチでは沈まずに声を出して盛り上げていこうと思いました。3回裏にすぐに2点を取り返したので逆転できる雰囲気でした。

 この試合、4回裏に1点を返し3対4の1点差に迫ると、5回裏に5点を取り逆転に成功し、8対6で快勝。そして4回戦は春4強の守谷との対戦。この試合は春から磨いてきた守備力が発揮された試合となった。守谷は機動力を仕掛けるチームで、それで日立一を崩しにいこうとしていた。しかし日立一は堅い守備で、盗塁を阻止するなど、決定打を打たせず、3対1で守り勝ちに成功したのだ。

 勢いに乗りベスト8まで勝ち進んだ日立一は準々決勝では優勝候補の水城と対戦。好投手・小林 奨吾を打ち崩すことができず、8回表まで0対2の2点ビハインド。しかし・・・

塙 残り2回しかなかったのですが、先頭打者が出塁してからベンチ全体が逆転できる雰囲気でした。

 その雰囲気の通り3点を取って逆転に成功し、準決勝に進出した日立一。準決勝の東洋大牛久戦では、2年生エースの鈴木 彩斗が好投を見せ、6安打完封勝利。ピンチは作っても粘り強く守ってついに決勝進出を決めたのだ。

 1985年以来、30年ぶりの甲子園出場がかかった決勝戦。相手は甲子園初出場を狙う霞ヶ浦だった。しかし、1回裏に2点を取られてしまい、その後、霞ヶ浦投手陣を打ち崩せず、完封負けで甲子園を逃した。

――この試合について捕手の渡辺選手が一番悔しがっている様子でしたが。

渡辺 初回にエラーを出してしまって、浮足立った感じがありました。僕も一球一球整理をつけられないまま配球を出してしまった。それで2失点したのですが、もう少し僕が整理して入ることができればと思います。

 だが、4人とも甲子園を逃した悔しさはあったものの、今までの積み重ねをしっかりと発揮できたことについては、満足していた。

 ここまでは新チームスタート時から夏の大会までを振り返っていただきました。後編では日立一で学んだことや、そして4人に自分にとって「高校野球とは?」という質問もしました。その回答はとても含蓄あるものでした。お楽しみに!