日本はゴールをこじ開けようと、あえて密集地帯に勝負を挑んでいったが、ゴールが生まれることはなかった。写真:佐藤 明(サッカーダイジェスト写真部)

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 シンガポールのゴール前はつねに人だらけだった。そんな密集地帯にあえて勝負を挑み続ける必要が果たしてあったのだろうか、というのが試合後の率直な感想だ。
 
 試合は、日本が前線に人数をかけ、攻めては撥ね返される展開だった。引かれた相手を力づくでこじ開けようとしていたけれど、両サイドをワイドに開かせて攻めたり、シンガポールに攻め込ませてから攻撃したら……などと、いろんなことを考えながら試合を観ていた。
 
 日本は1トップの後ろに3枚の攻撃的MFを置くシステムを採用していた。オランダサッカーのように両ワイドに大きく開かず、ボールサイドとは逆サイドにいる選手は中央寄りにポジションを絞ってカウンターにも素早く対応できるようにバランスを取る。それが日本のスタイルだが、3日前のイラク戦でハマっていたそのサッカーは、シンガポール戦に限っては裏目に出てしまった。その距離感の近さが、攻撃時の展開の小ささ、単調さを招いて、逆にシンガポールに守備対応しやすくさせたように感じた。
 
 この日のシンガポールはイラクとは違ってほとんどの選手がボックス付近まで下がって守ってきた。イラク戦では本田や宇佐美がカットインしてシュートを狙う形が作れていたけど、シンガポール戦では中央が混んでいて苦しまぎれのシュートが目立っていたし、コンビネーションで中央を突破する回数も少なかった。両ワイドのふたりが中へカットインしてドリブルすればするほど、中央は団子状態になり、ラグビーのスクラム攻撃を観ているようだった。
 
 いくら技術がある日本の攻撃陣であっても、数的不利の密集地帯ではシンガポールの守備に潰されてしまう。ならばサイドで起点を作った時、逆サイドをそれまで以上に大きく開かせれば、おのずと相手の守備もそれに対応せざるを得なくなる。そうしたスペースを生み出す“仕掛け”を作り出してから、中央を攻めてみたら面白かったかもしれないね。
 
 もっとも、シンガポールが自陣に引いてきたということは、まともに戦っても勝機がないと考えていた証拠。つまりシンガポールにしてみたら1対1の勝負を避けたいだろうから、あえてその1対1の状況を作り出すトライをもっとすべきだった。その状況を比較的作り出せるエリアがサイドなのだから、やはりもっとサイドを効果的に使って“個”で勝負する攻撃を見せてほしい。
 日本が密集地帯への突破を試みるほどに渋滞が渋滞を生んでいく――。
「こじ開ける」ことができなかった最大の要因は、まさにそこにあったと思う。
 
 渋滞のなかでまったく良さを出せずに苦しんでいた香川の寂しそうな後ろ姿がこのゲームを象徴していたけれど、ああいう渋滞のなかで邪魔されないでプレーできるのは、圧倒的な高さがあるマイク(・ハーフナー)ぐらいだろう。しかし、いまはパワープレーで勝負するサッカーをしないのだから、もっと状況に応じたサッカーを見せてほしかった。
 
 こうした苦しい展開に陥った時こそ問われてくるのが、ベテランの経験なんだ。その経験を持ち合わせているのが、このチームで言えば、本田と長谷部のふたりだろう。彼らがリーダーシップを取って、チームの舵を取りながら、難しい状況を打開していかなければいけない。
 
 セリエAやブンデスリーガで長年培ってきた経験はもちろん、日本代表でのキャリアも抜けている。苦しい状況だったからこそ、彼らがもっとゲームをコントロールしてほしかった。そして本田にはゴールを決めてほしかった。
 
 もちろんみずからゴールを狙うだけでなく、酒井宏や太田といったSBが敵陣深くまで入り込んでクロスやシュートを狙う状況をもっと引き出すことも、彼らの経験をもってすればできたはずだ。