230年間存在しなかった“ピアニスト専用シューズ”が、遂に誕生!

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いきなりだけども、ここで音楽談義を一つ。私は米国ミュージシャンのプリンスが好きなのですが、彼のバックバンドに参加したジョン・ブラックウェルなるドラマーは記者の中でフェイバリットです。異常に派手な叩き方をしつつ、そのグルーヴは唯一無二。
しかも彼、普通の革靴でドラムを叩くのが常なんです。識者によると革靴ってドラムに適しているらしいけど、それにしてもいやはや。そういや、確かに“ドラマー専用シューズ”って聞いたことがないもんなぁ。

話は変わって、ピアニストはどうなのか? いわゆる“専用シューズ”ってあるのかしら。……あるんです。いや、正確に言うと誕生しました。今月発売予定の『リトルピアニスト』が、まさにそれ。

「230年前に足でペダルを操作するピアノが開発されてから、ピアノ演奏用の靴は存在しませんでした。ピアノ演奏者は、普通のフォーマルシューズをピアノシューズとして代用しています。本製品は“世界初のピアノシューズ”です」
お答えいただいたのは、このシューズを開発した倉知真由美氏。

ところで230年間存在しなかったピアニスト専用シューズの開発に、なぜ着手したのか? そのきっかけは、“母の愛情”でした。
「演奏中にピアノペダルを踏みづらそうにしていた娘を見て『ペダルを踏みやすくして、良い演奏をさせてあげたい!』と考えた親心が、始まりでした。世の中に必要なものが『ない』ならば『自分で作る』と思い立ったんです」(倉知氏)
子を思う一心で製作してしまったのだから、これはドラマである。

ではまず、普通の靴で演奏する時の問題点を挙げていきましょう。
・つま先でペダルを踏んでも、踏んだ感覚が伝わらない
・ペダルを踏むつま先が滑る
・ヒールが円形状になっているので床を“点”で支えることになり、不安定

では、この『リトルピアニスト』の特徴を以下に列挙していきましょうか。

1 ヒール位置をつま先方向にずらすことで靴の後ろに空間ができ、ペダルを上げる時に足の甲とふくらはぎの筋肉を使わず操作できる。そのため、ペダリングによる足の筋肉疲労は軽減。
「下半身にハンディキャップがあるピアノ演奏家からも喜ばれる可能性がありそうです」(倉知氏)
2 特許取得のヒールがついているので今まで裸足や普通のフォーマルシューズではできなかったペダルテクニックが可能となり、音楽表現を広げる。

3 大ホールでの入退場に響く足音を消してくれる。ヒールのカツカツ音は雑音であり演奏者にとって気になるものだが、気にせず歩けるようになる。聴覚的にも視覚的にも品のある入退場が可能に。
4 ヒールと床が滑ったり、靴底とペダルが滑らなくなるので、安定したペダリングが可能となる。

なるほど、わかりました。しかし「つま先でペダルを踏んでも感覚がわからない」というフォーマルシューズの問題点は、どう解消するのか?
というわけで、ご覧ください。既存のフォーマルシューズとピアニスト専用シューズの違いを表したのが、以下の図です。

注目は「靴底の特徴」の欄。フォーマルシューズは「厚い・硬い」だけど、専用シューズは「薄い・柔らかい・滑らない」。1.8mmという超薄型にした事でペダルの感触がしっかり足に伝わり、材質を程良くやわらかくする事でペダルをグッと掴む感覚が得られるわけです。

その上、ペダルが踏みやすいようつま先が上がったフォルムになっているのもミソ。そして、ヒールの高さにもこだわっています。
「日本全国にある予選会場のピアノブランドとペダルの高さを調べ、ヒールは踏み切っても少し爪先が上がる程度の高さに設計したので、ヒールは安定したままです」(倉知氏)



……と、緻密な計算の元に完成した『リトルピアニスト』の価格は16,500〜19,500円(税別)。全国の楽器店23店舗(ヤマハ銀座・カワイ梅田など)ならびに公式サイトにて購入することができます。

ちなみに現在、このシューズは世界特許を出願中だそう。要するに、海外展開を見据えている。
「ピアノのペダルが踏みづらいことを“当たり前”だと思っていた歴史に終止符を打ち、『リトルピアニスト』を履いて演奏する事を常識にしたいと思っています。そして日本のピアノ文化発展だけでなく、世界のピアノ文化発展のために役立ちたいです」(倉知氏)
(寺西ジャジューカ)