アルベルト・ザッケローニ監督

かつてないほど動揺を隠せなかったザック


ブラジル・ワールドカップ前の国内トレーニングマッチもあと2試合。3月5日のニュージーランド戦は今年に入って初めて日本代表が集まる大切な試合だ。そのメンバーが2月27日、発表された。

この試合には負傷のため長谷部誠内田篤人が招集されていない。ワールドカップまで残りが少ない時期にあって、キャプテンと右SBのレギュラーが欠けるという非常事態に追い込まれている。

特に心配なのは長谷部。ザッケローニ監督がニュルンベルクを尋ねたときは「回復傾向にある」と直接聞かされたという。ところが状態が思わしくなく再度日本に帰ってくることになった。長谷部についてのコメントを求められると、今月で監督歴30年を迎える指揮官の表情が変わった。

それまで「岡崎の1トップはないのか」という質問に対して「私の記憶が正しければ、岡崎を1トップで使ったときに(記者の)みなさんから『どうして岡崎をFWに使ったのか』と聞かれたと思います」と笑いを誘っていた雰囲気は一変したのだ。

これまでの会見にないほど、ザッケローニ監督は動揺を隠せなかった。椅子に深く腰掛け、足を伸ばし台の下を覆っている布を蹴っている。記者席からは見えているのだが本人は気づいていないようだ。

「3月の試合のキャプテンはまだ決めていない。それは優先順位が高くない。長谷部は、今回は回復傾向であるということで招集を見送った」

そこまで言うと、姿勢は元に戻り足も動かなくなった。これまで絶大の信頼を寄せていた選手が離脱するという事態には監督もまだ対応できていないというのがよくわかる場面だった。

「あることが起こってしまってもそこから何かが起きる。今回のことが起きたので何かいいニュースがあるのかもしれない」

そう監督は言うものの、昨年11月から3カ月以上の時間が空いており、今後の試合数も少ないという現状では、負傷者の程度が軽いことを祈るのみだ。

ザックが対戦相手の分析と強気の展望を語る


ワールドカップまで残り4カ月。残された短い時間の中でザッケローニ監督はどのように戦略を練っていくのか。

この日、グループリーグの対戦相手について、ザッケローニ監督はこう分析した。

【コロンビア】 タレントが豊富にいる・身体能力も高い・クオリティ、精度とスピードをうまくかみ合わせられる。

【コートジボワール】 台風の眼になるポテンシャル・フィジカルも強い・暑さにも慣れている・好不調の波も激しい印象もあるけれど、ラムシ監督は細かいところまで詰めてくる。

【ギリシャ】 プレー面でイヤな相手だと思っている・特に相手の良さを消すサッカーをするのがやりにくい・EUROでも精度の高いカウンターと団結力のある守備でまとまっていた。

「グループリーグを相対的に見ると簡単ではないと思うし、バランスのあるリーグだ。現時点ではコロンビアが少し抜け出ている。南米の新勢力で海外で活躍している選手が多いし全体の力もある。ベンチにいる多くが試合の流れを変えられる選手がいて、戦い方を変えたりオプションを変えたりできる」

だが、決して日本の戦いを悲観してはいない。

「グループリーグの差はないと感じている。選手たちを信頼しているし、自分たちが出すべきパフォーマンスを出せばどことでも立ち向かっていける。自分たちのサッカーを出すことができればどことも差は感じていない」

そう胸を張った。

今回の選出ではサプライズはなかった。それだけ監督が積み上げてきたものに自信があるということなのだろう。だが、こんなメッセージも忘れていなかった。

「今回は昨年末のシリーズの延長。これ以降は選手たちの本当の競争を期待している。その競争が激しくなるといい。ワールドカップに行くメンバーはモチベーションが高く、チームの輪を乱さず、コンディションがいいことが大切。コンフェデレーションズカップのときは予選を戦い抜いたメンバーだったけれど、ここから本当のラストスパートが始まる」

■代表メンバー
GK 川島永嗣(スタンダード・リージュ/ベルギー)
西川周作(浦和)
権田修一(FC東京)
DF 駒野友一(磐田)
今野泰幸(FC東京)
伊野波雅彦(磐田)
長友佑都(インテル・ミラノ/イタリア)
森重真人(FC東京)
吉田麻也(サウサンプトン/イングランド)
酒井宏樹(ハノーファー96/ドイツ)
酒井高徳(VfBシュツットガルト/ドイツ)
MF 遠藤保仁(G大阪)
青山敏弘(広島)
細貝萌(ヘルタ・ベルリン/ドイツ)
本田圭佑(ACミラン/イタリア)
香川真司(マンチェスター・ユナイテッド/イングランド)
清武弘嗣(1FCニュルンベルク/ドイツ)
齋藤学(横浜FM)
山口螢(C大阪)
FW 岡崎慎司(1FSVマインツ05/ドイツ)
柿谷曜一朗(C大阪)
工藤壮人(柏)
大迫勇也(TSV1860ミュンヘン/ドイツ)

(取材・文責=日本蹴球合同会社 森雅史)