勝利か内容か…ザックジャパンをめぐる不毛な議論

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 日本代表の周囲が騒がしくなっている。

 16日にオランダ代表、19日にベルギー代表と対戦するが、強豪国との試合を控えて「結果」と「内容」という2つの課題をめぐり、報道が過熱気味だ。

 発端は、先月だろう。セルビア代表とベラルーシ代表相手に、2試合連続で0−1と敗戦したことから、勝利が欲しい選手と内容を追求したい選手のギャップを煽るような報道が目立つようになった。そこに、アルベルト・ザッケローニ監督が7日のメンバー発表の場で、「結果は自信を得るために大切なものだと思うが、時に結果がでなくて内容がいいときにも自信は増すものだと思う。特に自分たちの狙い、やりたいことが通用したときに自信は高まっていくものだと考えている」と語り、「指揮官は内容重視」という趣旨で報じられたことで、事はさらにややこしくなった。2つの課題が、あたかも対立するものかのように伝えられるまで発展している。

 既に言葉がひとり歩きしている感じもあるが、実際に「結果」と「内容」は決して二律背反するものではない。結果を求めるため、勝利するために内容のあるサッカーをするということを考えれば、むしろ比例するものである。

 前述したザッケローニ監督の言葉にも、続きがある。

「内容が悪くても結果が出ることはあるけれど、長い目でみるとやはりいいプレーをしているチームが継続して結果を残していけるチームだと思う。今回も内容を重視したいと思うし、クオリティとインテンシティを90分間出し続けるチームを作ることができれば、長いスパンで見ると、結果を残すチームが作れると考えている」

 指揮官の発言からもわかるように、結果の追求と内容の充実を対立構造として捉えられてしまうのは、全く意味がない。加えて、大前提として誰もが勝利を望んでいるはずだ。内容のために負けてもいいのかと問われ、首を縦に振るものは皆無だろう。

 当の指揮官も今年5月に行われたブルガリア代表との親善試合で敗れた際、「ときに負けは良いものだと言う意見もあるが、わたしはまったくそう考えていないし、負けるのは好きではない」と、勝利への執着心を隠そうともしなかった。当然ながら、選手達が勝利が欲しい、勝ちたいと語ったから監督の意向に反している、あるいは考えにギャップがあるということには断じて繋がらない。現実問題として可能性は低くなろうとも、オランダやどこの強豪国相手でも勝利を求めるのは当然である。

 もちろん、結果を追求するという戦い方もある。すぐに思いつくのは、2001年4月に行われたアウェーのスペイン代表戦だろうか。前月に当時の世界王者だったフランス代表に0−5と衝撃的な大敗を喫していたこともあり、フィリップ・トルシエ監督は5バックとも言える守備的布陣を敢行。終始劣勢で試合終了間際の失点により0−1の敗戦を喫したが、スコア上で強豪国との接戦を演じたことは、その後にコンフェデレーションズカップで準優勝を果たしたことを考えれば、大敗から自信を回復するためには一定の効果はあった。

 さすがに当時と今を同じ状況と捉えることはできない。南アフリカ・ワールドカップで証明されているように日本の守備力は世界トップクラスと対峙しても決壊はしない。来年のブラジル・ワールドカップでも再び守備に徹すると決めたならばまだしも、貴重な強豪国とのテストマッチでとにかく守備を固めるべきなのかは疑問である。本番でもないのに負けたら何も残らないような戦い方で臨むよりも、攻守において「理想とバランスを追求する」とザッケローニ監督の語った姿勢の方が、当然理にかなっている。ワールドカップの本大会では必ず強豪国と同組になる以上、少しでも勝機を見出す努力を続けることが意味のあるものであるはずだ。

 とは言え、「結果か、内容か」と騒いでいるのはあくまでも周囲である。自己防衛もあってか口が重くなっている選手も多いが、「結果と内容の両方を追求したい」という言葉が聞かれていることもあり、当事者達は案外冷静に物事を捉えているようだ。

 香川真司は、先月の2試合を踏まえて、「一人ひとり感じることは選手としてもありましたし、チームとしてもありました。ただ、それはいきなり上手くいくわけでもないので、全員が信じて同じ方向を向いてやらないといけない。戦い方や戦術は監督を中心に決めると思いますけど、基本的なことは変わらないので、その中で話し合いながらスタイルをしっかりともっともっと確立するために、まずこの2試合で成果を上げることが自信に繋がる」と語っている。

 ワールドカップに出場しない国に連敗を喫したことで、自信が揺らぐこともあるだろう。不安な気持ちが過熱する報道に煽られることもあるかもしれない。ただ、大きな飛躍には、かがむことも必要である。

 内田篤人が語る。

「クラブでも代表でもうまくいかない時はうまくいかないので、しっかり我慢したいです。その間、何もできないというわけではないので、もがきながら試行錯誤しながらという状態でもいいと思います」

 幸運にも、オランダという強豪国はチーム一丸にならずに勝てる程甘くない。7カ月後に迫るワールドカップに向けて、チームの方向性をまとめる上でも絶好の相手となる。周囲に影響されずに信念を貫いた結果として、自信を取り戻すのか。はたまた、忍耐の期間は続くのか。見守る側にも根気は必要である。

文●小谷紘友