先日、中国の古い友人から下記のようなメールが届いた。「貴方もご存知のA先生が昨日をもってとうとう中国を捨てて、オーストラリアに行かれました(笑)。最近周りの友人たちがどんどん海外に行ってしまい、私だけが残されてとてもわびしく思います(涙)。」

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日本経営管理教育協会が見る中国 第264回−水野隆張(日本経営管理教育協会営業部長)

海外移住の増加を知らせる中国からのメール

 先日、中国の古い友人から下記のようなメールが届いた。

「貴方もご存知のA先生が昨日をもってとうとう中国を捨てて、オーストラリアに行かれました(笑)。最近周りの友人たちがどんどん海外に行ってしまい、私だけが残されてとてもわびしく思います(涙)。」

 私が知っているAさんは、日本語が堪能で日中貿易に多大な貢献をしていた企業家で、来日されたときには一緒に東京タワーに昇ったり富士山の五合目まで登山したりした仲であった。今後も大いに日中間の経済関係に貢献して貰いたいと思う有能な青年実業家だった。

 それにしても、汚職などで蓄財した富裕層が逮捕されるのを恐れて国外へ移住しているという噂は聞かされていたが、私が知っているこのような中産階級の優秀な企業家達までもが祖国を捨てて国外に移住しているという話を聞いて、中国で今何が起こっているのか興味深く思った次第である。

中国は今や世界最大の移民排出国に

 人民ネット日本語版によると「ここ数年移民ラッシュが続いており、その主役は富裕層で、その70%が移民したか移民を検討しており、中国は今や世界最大の移民排出国となっている」と報じている。

 中国富裕層は「違法に蓄えた私有財産が国から没収されるのでは」と心配し、個人資産保護制度が整った国家に自己資産を移す傾向が高く、「より高い生活水準」「より多くの子供」「より低い税率」を求めて移住を検討していると言われている。2011年に、あるメディアが、過去3年間で少なくとも170億元の資産が国外に流出したとも伝えている。

中国からの移住者の大半はアメリカを移住先に選んでいる

 移民ラッシュのもう一つの理由は「子供の教育のために移住」ということである。英国の大学評価機関が2012年〜2013年に発表した「世界大学ランキング」の順位を見ると、上位はアメリカの大学が圧倒的に多く、アメリカ以外では、イギリスのケンプリッジ大学が5位、オックスフォード大学が10位となっており、中国の大学では北京大学44位、清華大学48位、復旦大学90位、上海交通大学125位、南京大学168位となっている。因みに日本の東京大学は30位である。

 中国の移住申請者の8割以上は、移住の理由を「子供の教育」としているということで、その背景には中国の教育レベルが欧米先進国より低いこと、中国で教育を受けた学生は想像力や創造性に乏しいこと、世界の大学評価ランキングの上位に中国の大学がランクされていないことなどが挙げられており、移住先はその大半がアメリカを選んでいるようだ。

21世紀は中華世紀の到来か?

 1949年中華人民共和国建国以来、移民ラッシュは二回あった。一回目は1980年初頭の海外留学による移民ラッシュで、二回目は1990年代に始まった技術者の移民ラッシュである。

 今回の移民ラッシュは富裕層を代表格とした投資と子供の教育を通じての移民が中心で、第三次移民ラッシュとみなされている。

 改革開放政策がとられるようになってからは、香港やシンガポールの華僑による中国投資も活発化し、1987年に中国大陸との交流を一切禁止していた台湾が政策の大転換を行ない、中国大陸との交流を認めた結果、中国と台湾との経済交流が活発化した。

 その結果、香港と台湾と広州を中心とする華南地方沿岸部の発展は著しく、この3つの地域を中心とした大経済圏に発展している。アメリカではバンブーネットワークとよばれる華僑のネットワークを通じた事業展開が活発に行われており、政治的なロビー活動も盛んであり、年一回大規模な華僑世界大会も世界各地で開催されている。今後も中国からの潜在的な海外移民希望者は後を絶たないといわれており、21世紀は中華世紀の到来といえるかもしれない。

 写真は復旦大学正門前の筆者。(執筆者:水野隆張・日本経営管理教育協会営業部長 編集担当:水野陽子)