東京大学法学部の人気が凋落 入試は倍率低下、東大内部でも敬遠
日本の文系の最高峰、東京大学法学部の人気が凋落している。
ひとつは、法学部進学を前提に入学している文科一類(文一)からの進学希望者が減っていて、12年の進学振り分けでは「定員割れ」した。東大内部での法学部人気が下がっているのだ。
さらに、13年度入試では、文一の倍率が3倍を切り、13年ぶりにセンター試験での「足きり」が実施されなかった。
受験生にも、東大生にも敬遠されるようになったのは一体なぜなのか。
2008年度の制度改革以来始めての「定員割れ」
「進学振り分け」(進振り)とは東大独自の制度で、3年次からの進学先を、志望に応じて、入学後1年半の成績を基準に振り分けるものだ。東大では1・2年生は全員教養学部(前期課程)に属していて、3年次から法学部や理学部、工学部、経済学部などの専門課程に進む。
法学部には、文科一類(文一)の学生のための「指定科類枠」が設定されている。この指定科類枠は文一入学者数より若干少ないため、これまでは文一で法学部を志望していても、点数が足りずに進学できず、留年する人が一定数いた。
進振りは二段階に分かれていて、第一段階で約7割が内定し、残りが第二段階にかけられる。ところが、12年9月の13年度進振りでは、第二段階で文一の指定科類枠118人に対し、志望者は113人だった。つまり、法学部は文一生から敬遠されて「定員割れ」を起こしてしまったわけだ。2008年度の大規模な進振り制度改革以来、初めての事態だ。
さらに、13年度入試では文一自体が401人の募集人員に対し、出願者が1169人で倍率2.92倍となり、13年ぶりにセンター試験での「足きり」が実施されなかった。東大では応募倍率がおおむね3倍を超える場合は、センター試験の成績に応じて第一次選抜、通称「足きり」をおこなっている。
それにしても、偏差値、社会の評価ともに文系の「最高峰」である東大法学部が、いったいなぜ敬遠されているのか。
法学部は「割に合わない」?
「いろんなことをやりたくて」―――今年春から教養学部(後期課程)に進学することを決めた文一の2年生はこう話す。法学部だと法律一辺倒になってしまうが、もっと幅広く勉強や課外活動をしたいと思ったという。同じような考えを抱き、経済学部に進む学生もいる。東大法学部のカリキュラムが厳しいことは有名で、試験対策用の「講義録」が1科目で200ページから300ページにわたることもある。
もちろん、こうした背景には、就職事情も絡んでいる。これまで東大法学部の卒業後の進路としては、官僚や法曹が「花形」だった。ところが、法曹になるためにはロースクールに行かなければならず、合格後も就職難といわれる。国家公務員は給料が安い上、メディアでは「官僚批判」が続く。
そこで民間企業への就職を考えたとき、法学部の膨大なカリキュラムをこなすのは「割に合わない」というのだ。教養学部(後期課程)や経済学部であれば、就職活動で足を引っ張ることはない。むしろ自由な時間が増える分、課外活動に時間をさくことができ、就職戦線での評価が高まる可能性もある。
大学受験に詳しいベネッセの「高等教育研究所」大学進学アナリスト・村山和生氏も、文一入学志願者減の背景に、センター試験が難しくなって、「受け控え」傾向が出てきたのに加えて、ここ2〜3年続く法学そのものの不人気を指摘した。やはり難易度が高い割には司法試験制度改革のあおりで将来に不安があり、「お得感が下がっている」ためだという。ただ「法学という学問の価値自体が下がったわけではない。こういう時ほど学問内容を見定めて、希望するのなら進学して欲しい」と話していた。