2013年Jリーグ「王座奪還」
柏レイソル編(1)

 ディフェンディングチャンピオンとして臨みながら、無念のリーグ6位。柏レイソルにとって2012年は、悔いの残るシーズンだったに違いない。

 キャプテンの大谷秀和が語る。

「優勝した年(2011年シーズン)は知らぬ間に上位にいるという感じだったのが、(2012年シーズンは)まだそんなに気にする必要のないシーズン序盤から、みんなが勝手に上位のチームと『(勝ち点差が)何点差開いちゃった』とか、そういうことを意識してしまった。それは、連覇を目標としていたからこそ出てしまった焦りだと思う」

 そんな余計な意識は、試合運びにも影響したと大谷は言う。

「早く1点が欲しいという攻め急ぎだったり、そうした気持ちがやっぱりゲームにも表れていた」

 連覇を意識しながら、勝てないから焦り、焦るからますます勝てない。柏はそんな悪循環に陥っていたのだ。攻守におけるバランサーを務めるボランチの栗澤僚一が語る。

「試合中にも、『去年はできていたのに、今年はできてないな』と思うようになって、うまくいかないときにどう対応すればいいのか、わからなかった。その辺の切り替えがうまくできず、『何か違うよな……』と思っているうちに、結果的にズルズルいってしまったという感じだった」

 柏は、シーズン途中にネルシーニョ監督が就任した2009年こそJ2降格の憂き目にあったものの、その後は2010年にJ2で、2011年にはJ1で優勝を飾っている。その過程を振り返り、「勝っていることで全員がすごく自信を持ちながらゲームに入っていた」と大谷。だが、その一方で昨年は、「J2とJ1で連続して優勝してきて、あまり負けを知らないチームだったので、なかなか勝てない状態になったとき、“修正する”というところが足りなかった」とも話す。

 特に痛かったのは、大谷の言葉にもあった通り、シーズン序盤の躓(つまず)きである。結果的には、中盤から終盤にかけて徐々にではあるが順位を上げていっただけに、スタートの出遅れが大きく響いたことになる。

 そこには、初めてのAFCチャンピオンズリーグ(ACL)に出場したことも少なからず影響していた。大谷が振り返る。

「優勝した年というのは、しっかり試合の反省をして、それを繰り返さないようにと次の試合に臨んでいた結果、連敗もなかった。ところが、昨年は(ACLがあって)結構日程が詰まっていて、すぐに試合があるために、次に対戦するチームのスカウティングをしなければいけなかったりして、前の試合の反省を全員で共有できなかった。だから、チームとして今できていないことやダメな部分がそのまま次の試合でも出ちゃって、同じような失点を繰り返すことも多かった」

 連覇を意識したからこそ狂った歯車。だが、古今東西を問わず、何度も優勝を飾るような強豪クラブが常に無欲でそれを成し遂げてきたわけではない。

 つまり、狙って優勝できてこそ本物。柏が今後、勝ち慣れた常勝軍団を目指すのであれば、昨年というシーズンは避けて通ることのできない試練だったとも言える。実際、一度優勝を経験したことで、チーム内の意識は確実に変わったと大谷は語る。

「優勝すると、チームに対しても個人に対しても、評価がガラッと変わるっていうのは、全員が感じたことだと思うし、優勝に向けて何をしなきゃいけないか、勝つために何をしなきゃいけないかってことを、全員がすごく考えるようになった。かつてのように残留争いをしたり、J2降格したりしていた頃のレイソルとは、チームとしての意識はまったく変わったと思う」

 J1連覇は逃した。しかし、タイトルを狙うにふさわしい自覚は確実に芽生えている。それはすなわち、今年の巻き返しが十分に可能だということではないだろうか。

(つづく)

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