【編集部的映画批評】今、観なければいけないウルトラマンがここにある
マスコミ試写会に参加した際、上映前におかひでき監督が登場し挨拶をしてくれた。「ウルトラマンシリーズですが、正直言って苦戦しています。」確かに仮面ライダーシリーズなどに比べて、視聴率や玩具の売上などで水を空けられている。ウルトラマンネクサスに至っては、番組打ち切りにもなってしまっている。苦しい状況を吐露した後に「震災があったこの時期に怪獣が街を壊す映画を上映することは、どうかと思いました。でも今だからこそ観てもらいたい映画になっています。」こんな力強い言葉が続いた。上映終了後にその言葉の意味がわかった。
人々の姿がほとんど消え、怪獣たちが叫び声をあげる惑星・地球。子どもたちを守るため「チームU」として戦いを続けるアンナたちは、時空を超えてやってきたウルトラマンダイナと出会う。やがて、彼を追うようにウルトラマンコスモスとゼロも駆けつけるが――。(作品情報へ)
元気を失っている日本が必要としているヒーロー映画
今回の映画は、直接的に東日本大震災に触れたものではないが、その要素がまざまざと見せつけられてしまう。まずは、壊れた街とガレキの山。地球は凶悪な宇宙人バット星人によって「実験場」とされていた。そのせいで人類のほとんどが消えてしまい、残された人々も暴れまわる怪獣におびえる日々を過ごしている。人の気配がないガレキの山は、震災を彷彿させてしまう。そして、失った信じる心。ウルトラマンゼロに変身するようになる今回の主人公タイガ・ノゾムは、過去の出来事から自分を、そして人を信じることができなくなっている。大きな傷跡を残した被災者の心情と似てはいないだろうか。最後に万能なものはないということ。頑張って積み上げてきたものが一瞬で消えたり、ウルトラマンが全てを救えるわけではないという事実。突然起こった天災と通じるものがあるだろう。では、これは絶望の映画なのだろうか。そうではない。どんなにつらいことがあっても、どん底に突き落とされようとも、登場人物たちは何度も立ち上がる。時には心が折れて立ち止まることがあるが、必ず最後には顔を上げて、ゆっくりだが未来へ歩みを進める。決して「頑張れ」とは言わない。だが、熱いメッセージが痛いほどに伝わってくる。AKB48の出演が色モノになっていない
「チームU」という女性だけの地球防衛隊としてAKB48のメンバーが出演していることでも話題を呼んでいる。ただ人気のアイドルが出演というと「客寄せパンダ」のことが多い。名前だけで登場シーンがほとんどなかったり、アニメ映画では声優の技術がないのに出て世界観を壊したり……そういうことがよくある。だが、この映画ではそんなことが全くなかった。物語の中で重要な鍵を握る役割として登場、かといって主役のウルトラマンを追いやってアイドル映画にしているわけではなく、あくまでサポート的なポジションも貫いている。元・暴走族やぬいぐるみ好きなどの設定はあるが、変に特出し過ぎた演出はなく、世界観にうまく溶け込んでいる。怪獣と戦うことで衣装もボロボロになり、一瞬、国民的アイドルのAKB48のメンバーだということを忘れさせてしまった。このチームUは、ある「重要な秘密」を持っている。それが、この映画の中での大きなメッセージとなっているので、本作は彼女たち抜きでは語れないものになっている。また、ウルトラマンにおける「科特隊」の役割を再確認させてくれることも初代マンのファンにとっては嬉しいことである。やはりゼットンは最強だった
強烈な火球を放ち、どんな技にもビクともしない。カラータイマーを破壊し、ウルトラマンを倒したゼットンの姿は今でも鮮明に覚えている。アルファベットの最後の文字「Z」と五十音の最後の文字「ん」を掛け合わせて「最後の怪獣」としてつくられたゼットンは、まさにラストを飾る最強最悪の怪獣だった。今回の敵・ハイパーゼットンも、公式サイトの予告編で公開されている通り、3人のウルトラマンを瞬間移動で手玉に取るなど、強大な力を持っている。最新CGの技術を使って完成した戦闘シーンは迫力満点に仕上がっている。巨大なスクリーンの前で「ウルトラマンが負ける」という悪夢のような出来事は、再び繰り返されるのだろうか。ゼットンを倒すには何が必要なのか。今回のウルトラマンとゼットンの戦いは何度もどんでん返しがあるので、目を離せない。歴代の中でも、かなりしぶといゼットンである。