U23日本代表が剣ヶ峰に立たされている。最終予選の組み合わせ抽選には、これ以上ないほど恵まれたわけだから、予想外の展開とも言える。
   
前回北京大会の頃と比べ、気になるのは2つの変化だ。1つは日本人選手の評価が高まり、海外進出のタイミングが早まっていることである。北京最終予選の時点では、海外でプレーをしていたのが森本貴幸一人だけだった。ところが今回は、宇佐美貴史、宮市亮、大津祐樹、指宿洋史らが召集出来ない状況にある。北京五輪代表組は、本大会では3戦全敗に終わったものの、その後の成長が著しく、現在では18人中過半数の10人が欧州クラブでプレーしている。皮肉にも、彼らが日本の評価を高めた結果が、苦戦を導いた側面もある。
 
もちろんこれはうれしい悲鳴だ。だがもう1つは、必ずしも喜ばしいとは言えない。北京五輪代表は長友佑都以外は、全員が18歳でプロになっていた。ところが今回は永井謙佑、山村和也、比嘉祐介と3人の大卒選手が含まれており、Jクラブは彼らが卒業する時点で争奪戦を繰り広げている。要するに23歳以下の日本で最も優秀な選手を育てているのが大学だという現実があり、むしろプロクラブは育成面では大学に寄りかかり、何ら策を持たずに手をこまねいている印象だ。
 
前回北京予選がスタートする時点で、反町康治監督が「代表選手たちが、所属クラブで出番を得られていない」ことを課題として挙げていた。だが4年前の課題は放置されたままで、今度はプロが大学生に追い越される状況が訪れている。
 
もちろん高校や大学の部活が、トップレベルを補完する日本独特のシステムには利点もある。欧州や南米なら、中村憲剛やチョン・テセのように無名の大学生がワールドカップで活躍するケースはありえないだろう。しかし裏返せば、本場では彼らのような素材が、隅々まで張り巡らされたスカウト網から外れるだろうか、という疑問もある。
 
現在Jリーグには、ドイツで義務づけられているようにU23のチームを保有したり、Bチームを下部リーグで戦わせていたりするクラブはごくわずかだし、J2に明確な提携先を持つJ1クラブも見当たらない。また予算の少ないJ2クラブでも、レンタルの受け入れを嫌う傾向もあり、育成が充実したクラブも、ユースからトップ昇格を逃した選手たちを、他のクラブに売るのではなく、大半を大学へと迂回させてしまう。
 
もちろん経営逼迫のJクラブが魅力的な就職先になれていないことも大きな要因だが、逆に予算の限られた地方クラブこそ、育成で活路を見出さなくては先細りするばかりだ。
 
いくらプロが出来ても、プロが最良の育成の場でなければ、明るい未来は見えてこない。