突然の「ベント設置」は電力各社のおためごかし

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「加圧水型炉にもベント設置へ 再稼働にらみ電力各社」という記事を、共同通信が2012年2月7日付で配信した。記事のリードだけ読むと、電力会社が安全対策に乗りだしたと感じる読者もいると思う。しかし、この「ベント設置」は、あたかも人のために何かやるフリをして自分の利益をはかる「おためごかし」なのではないか。

記事によれば、「東京電力福島第1原発事故で、原子炉格納容器の破損を防ぐために内部の蒸気を排出した『ベント』の設備について、福島第1原発と別の型の加圧水型軽水炉(PWR)を持つ関西電力など電力各社は6日、放射性物質の除去フィルターを付けた同様の設備を導入する方針を固めた」のだという。

これまで電力各社は、ベントが「加圧水型炉には必要ないとしてきた」。にもかかわらず、いきなり設置すると言いだした背景は何なのか。いくつか確認しておこう。まず、ベントとは原子炉の圧力容器に取り付けられる排気弁、または排気用のラインのことである。このベントは、1990年代になってから福島第1原発をはじめとする沸騰水型軽水炉へ設置されるようになった。

ところが福島第1原発の事故では、このベントがうまくいかなかったことが原因で建屋が吹っ飛び、広範囲に放射能を撒き散らすことにつながった。逆に、この事故がきっかけとなって、原発が非常時になった際にはベントが重要な役割を担うことが私たちにも認知された。とはいえ前述したようにこのベントは、電力各社が「加圧水型炉には必要ない」と言い続けてきたものなのである。

整理すると、電力各社が加圧水型炉にもベントを設置すると言いだしたことには二つの点で問題がある。第一は、天災であろうが人災であろうが、そもそもベントするような事態(原子炉の暴走)に原発を陥らせないような対策を提示することこそ、真っ先に電力各社がすべきことであろう。第二は、いままで必要ないといっていた施設にベントを設置することは、安全対策という建前でおこなわれる、ベントの役割を認知した私たちに対する喧伝なのではないか、という点である。

つまり、これまで電力各社が使用してきた「原子力発電所は安全です」というキャッチコピーを、「ベントを設置すれば原発は安全です」に変えるだけなのではないか。そして、加圧水型炉へのベント設置は根本的な原発の安全対策になっていないのではないか。もう一度言うが、電力各社はベントが「加圧水型炉には必要ない」と言っていたのだから。

案の定、電力各社の「突然の方針転換は、立地自治体などで『原発再稼働に向けた地ならし』とも受け止められ、困惑の声も聞かれる」ことや、立地自治体関係者の「『安全対策を進めている』とのアピールのような気もする」というコメントなどを東京新聞が報じている(2011年2月7日付)。

個人的には、火力発電所の依存度が高まることによる電力料金の値上げは甘んじて受け入れられるものの、無意味なベント設置によって値上げされた電力料金など全く払う気はない。

(谷川 茂)