こんな日本に誰がした? シューカツ生は「クローン人間」か
駅に貼られたあるポスターの写真がネット上に投稿され、そこに並んだ就活生の画一的な姿に酷評が集まっている。このポスターは、日本最大級の就活情報サイト「マイナビ2013」のもの。新聞広告のほか、渋谷、恵比寿、青山一丁目、目白、高田馬場など都内の地下鉄の駅などに貼られている。
黒っぽいスーツに白いワイシャツやブラウスを着て、髪をきれいに整えた無表情の男女が、右手であごをつかんだポーズを取っている。添えられているのは「考えるすべての就活生に。」というコピーだ。
「そんな人生がお望みですか?」の呼びかけも
例年より2か月遅れで「解禁」される就活サイトをPRするポスターのようだ。被写体の若者たちは、いちおう「考える就活生」のポーズを取らされているのだが、あまりに同じような姿なので、逆に何も考えずに従っているだけのようにも見える。
これを見たネットユーザーからは、「気持ち悪い」「なんかの宗教みたい。背筋がゾゾゾってする」「こんな日本に誰がした?」といった批判があがっている。ある30代の男性社会人は「他人と違う行動を取れない就活生をバカにした趣味の悪いパロディだ」と憤っている。
クローン人間のように同じ服装をする就活生を、企業側から疑問視する声も上がっている。ライフネット生命の岩瀬大輔副社長(35歳)は12月1日未明、ツイッターで「就活生はもうリクルートスーツを脱ごうぜ」と呼びかけている。
「今だったらフロントランナーになれるよ。皆がやりはじめてからの後追いはカッコ悪いし。そういう服装を望む採用担当者はつまり、皆さんに没個性的な存在であることを求めているわけです。そんな人生がお望みですか?」
この投稿は180人以上にリツイートされた。ある大手テレビ局の部長は「僕は面接のとき、一度もスーツは着ませんでした。それでも入れてくれたいまの会社はなかなかのもんだと思いました」とコメントしている。
このような没個性的な服装をする「常識」は、日本企業の昔からの慣わしかと思いきや、実は意外と最近のことらしい。2010年9月16日付け日本経済新聞の記事「経済今昔物語」には、日本航空の入社式の様子が掲載されている。1986年時点の女性の服装は、紺スーツで決めている人もいるが、ブレザーにチェックのスカート、ワンピースなどの人もおり、まさに人それぞれだ。
「優等生タイプ」の要求は誰によるものか
それが2010年になると、紺のスーツに同じ長さのスカート、白いストッキングに黒いパンプスと、まるで制服のような格好をし、髪型まで似通っている。
記事では日航の採用担当者が、いまどきの新入社員に対し「能力は高いが、個性がなくなっている面もある」と嘆いている。
しかしその一方で、同じ記事で明治大学の就職キャリア支援部の担当者が、「最近は優等生タイプばかりに企業の目が向き、内定が集中する傾向がある」と反論のようなコメントを寄せている。
就職情報サイトも「優等生タイプ」の支援に余念がない。あるサイトの「恥をかかないための就活マナー」には、就活生が守るべき服装の決まりとして、
「(スーツは)黒・紺・グレーのような落ち着いた色のものが一般的」
「スカート丈は座った時、ひざにかかるくらい」
「(男性の)揉み上げが耳にかかるのも避ける」
「(女性は)厚化粧でもノーメイクでもなく健康的で自然なメイク」
といった注意書きが、公立中学校の校則なみの事細かで書かれている。
果たして、学生にこのような「仕様」を求めたのは誰なのか。企業なのか就職情報サイトなのか、それとも就職氷河期の空気を読んだ就活生自身なのか。