王者から第2セットを奪取し可能性が見えた井上"リトル"真弥(左)とブロック番長・長谷川徳海(右)。技術、メンタルはオーケイ。スピードのあるワイド攻撃を最後まで続けられれば…

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 「彼らの存在は大きい。海外を転戦できない僕らにとって、これだけの相手が国内にいることは…」長谷川徳海は、そうつぶやいた。

 ビーチバリヤー日本一を決めるビーチバレージャパンは15日、王者、朝日健太郎・白鳥勝浩組の5連覇で幕を閉じた。終わってみると予想通りの結果だが、無風、静かな水面だった男子ビーチバレー界に、さざ波が立ちはじめている。

 朝日・白鳥の存在を感謝さえしている長谷川と井上真弥のチームは、決勝で彼らと激突。1-2で負けたものの、初めて1セットを奪った。井上は話す。「第1セットは、朝日さんのブロックに捕まって全く通じなかった。それでワイドに幅のある攻撃に切り替えた」。言葉通り、第2セットは、井上のレシーブに長谷川が低く速い平行トスを上げる。コート幅を目一杯使った攻撃は、朝日を翻弄した。ブロックが付ききれないと強打し、目の前に朝日の大きな手が現れると、軟攻に切り替えショットでポイントを重ねた。調子づく井上・長谷川は、サーブでも朝日を狙い、スパイクは長谷川がブロック。第2セットを奪取する。「負けるのか?」会場がざわつく中の第3セット。しかし、ファーストポイントは朝日に強烈なスパイクを決められる。連続5ポイントを取られるなど、序盤に走られてしまう。第2セットの勢いは止められ、息を吹き返した王者から流れを呼び戻すことはできなかった。

 「最後まで自分達の形を崩さずプレイできなかった。技術ではなく、フィジカルの問題。やるべきことはわかっている」負け惜しみではなく、井上は冷静に敗因を分析した。長谷川も「昔は名前負けしていたが、今は違う。彼らとの差はない」と力強く答えた。

 朝日・白鳥は準決勝も容易には勝てなかった。スコアは2-0であったが、苦しめたのは仲矢靖央・西村晃一組。仲矢は話す。「JBVツアー大阪(朝日組は欠場)で優勝し、手応えはあった。相手のブロックなどに疲れが見えていた。チャンスボールが返って来ることもあり、ミスさえ出さなければ…」。次の対戦に向けても彼は言う。「僕らは、2人とも速いトスが上げられ、コンビ(バレー)ができる。ミスを減らし精度が上がれば勝つことはできる」。

 苦戦した王者も収穫がなかったわけではない。疲労性腰痛から1ヶ月休んでいた朝日。白鳥との練習を再開したのは1週間前。王者とはいえ簡単に勝てるとは思ってはいなかった。「正直、不安だった。決勝も心が折れそうになった」と朝日は話し、白鳥も「試合をしながら、チームを取り戻さなくてはいけなかった」と言う。サーブの狙い目、トスの高さ、ブロックの位置。4日間、プレイ中に話し合いながら、ひとつひとつ確認し、チームを元の状態に戻していった。練習量が足りずタイミングが合わなかった朝日のブロックも、試合の中で修正してきた。そんな工程を経ながら勝ち進み、「ようやく最後には間に合った」(朝日)。「こんな状態で大会に入るのは初めてだった。今回のジャパンは、いつもと違う気持ちでのぞんでいた」と話す王者は、またひとつ何かをつかんだのか。朝日は「これで白鳥との絆が一層深まった」と笑った。

 万全な状態ではなかったとはいえ、隙を見せた王者。長谷川は鼻息荒く、こう宣言した。「僕らの目標は年内1勝」つまり、朝日・白鳥を倒すこと。仲矢・西村も同様に手応えを感じている。立ちはだかる壁を破れるのか。また、苦境を乗り越えた王者が一蹴するのか。水面に立つさざ波は高くなりつつある。

(取材・文=小崎仁久、写真=胡多巻)

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