(第1回の続き)3月28日のバーレーン戦からおよそ2か月後、日本代表は今後に影響をもたらす局面を迎える。舞台は大阪の長居スタジアム、対戦相手はチリだった。5月27日に開催されたキリンカップの初戦である。

 この試合で岡田監督は、中村憲剛をトップ下に配する4−2−3−1の布陣をテストする。ショートパスをテンポ良くつなぎながら相手ゴールへ迫っていくコンセプトに、ボランチの控えだった中村憲を当てはまるためのトライだった。「ケンゴのためにやったシステムという面はある」と、岡田監督も説明している。

 中村俊が合流した4日後のベルギー戦でも4−2−3−1は踏襲された。チリを4−0で撃破したチームは、ベルギーも4−0で退ける。中村憲はベルギー戦で約8か月ぶりのゴールを叩き出し、“ケンゴ・システム”の正当性を自ら証明してみせた。

 前述したキリンカップでは、約半年ぶりに招集された攻撃的タレントもいた。本田圭佑である。所属するVVVフェンロをエールディビジ1部昇格へ導いたレフティーは、決定力という新たな武器を搭載し、1月28日のアジアカップ予選以来となる代表復帰を果たした。先発出場したチリ戦ではパワフルなミドルシュートで岡崎の先制点を導き、後半ロスタイムにはダメ押しの4点目を突き刺した。

 オランダでのプレーをそのまま持ち込んだ本田は、周囲の期待を集める存在となっていく。しかし、6月6日に行なわれたウズベキスタン戦に臨む先発メンバーに、彼の名前はなかった。4−2−3−1の「3の右」には中村俊が入り、トップ下には最終予選初先発となる中村憲が指名された。本田はベンチスタートである。

 前半9分、中村憲のアシストから岡崎が先制点を奪う。シリア人主審は露骨なまでにホームチームを支持し、日本は後半終了間際に長谷部が退場となり、岡田監督も退席処分となってしまう。それでも1−0のスコアを保ち、敵地で4大会連続のW杯出場を決めた。

「難しい試合で勝ち点3にこぎつけて、新しい引き出しができたと思う」

 中村俊は敵地での勝利を素直に評価した。

「タフなゲームだったが、選手たちはひるむことなく戦ってくれた」と、岡田監督もチームのパフォーマンスを讃えた。

 4年前に続いて世界最速で予選突破を決めた歓喜は、「これでようやく、スタートラインに立てる」(岡田監督)という新たな目標の幕開けでもあった。同時に、並外れた決定力を持つ本田の生かし方という新たな課題に、指揮官は向き合うことになる。(以下次回へ)

戸塚啓コラム - サッカー日本代表を徹底解剖