長谷部のゴールは、チームにとっても意義ある一発だった<br>(Photo by Kiminori SAWADA)

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 ホームの香港は伝統的に手ごわい。いまでこそ日本の優位は動かないものの、Jリーグ開幕前は勝利が保障される相手ではなかった。最終的に勝利をつかむことができても、試合の序盤は苦しむことが例外でなかったのだ。

11月18日に行われたアジアカップ予選の香港戦も、立ち上がりは落ち着きのないものだった。キックオフ早々にFKを献上し、そこからチャンスを拡げられると、香港の生き活きとしたプレーがピッチを支配していく。

日本がボールを持つとブーイングが響き、香港がボールを奪った途端に歓声があがる。南アフリカ戦よりアウェイらしい雰囲気にのまれたわけではないだろうが、リズムをつかみきれない時間が続いていた。

23分に相手選手が負傷すると、岡田監督は中村俊に指示を伝え、頷きながら聞き入っていた中村俊が松井に伝達した。悪くはないが良くもない。ワンチャンスを生かされて先制されるのは、こういった試合展開でしばしば見受けられるパターンである。

忍び寄る危機を払拭したのは、長谷部の右足だった。33分、ペナルティエリア手前で内田のパスを受けると、すばやくシュート態勢を整えてフィニッシュへ持ち込む。糸を引くような一撃が、ゴール左スミに突き刺さった。

すべてが公開された前日練習(久しぶりのことである)で、FWと攻撃的MFによるシュート練習が行われた。全体練習が終わったあとのひとコマで、アテネ&北京世代の選手たちがシュートを打ちこんでいたのだが、これがいまひとつ精度を欠いていた。

選手はそれぞれにテーマを持って取り組んでいたのだろうが、ペナルティエリア正面からフリーで狙うシチュエーションである。ズバズバと決めて欲しいものだが、聞こえてくるサウンドは、ズバ、カーン、ズバ、ビューン、ズバ、という感じだった。ポストに弾かれたり、バーを大きく超えるシュートも少なくなかった。

そんななかで目を引いたのが長谷部だった。

ポスト役の佐藤寿が落としたボールを、きっちりとワクに運んでいたのである。

「相手も気合が入っていて、なかなか点が取れないなかで、ああやってロング(シュート)で取れるようになると、チームとして少しは楽になるかなと思います」

2列目からのシュートが鋭くワクをとらえれば、相手守備陣は前に出てこざるを得ない。そうなれば、FWは最終ラインのウラを狙いやすくなる。攻撃の選択肢がひろがる。国際Aマッチ26試合目で決めた初ゴールは、長谷部個人だけでなくチームにとっても価値があるものだったのだ。

戸塚啓コラム - サッカー日本代表を徹底解剖