熊木杏里(撮影:野原誠治)
 昨年8月から放送開始となった資生堂企業広告が、2007年度47回「ACC CM FESTIVAL」のテレビCM部門でACCゴールドを受賞。特別賞「ベストサウンド」として同CM曲の「新しい私になって」が選ばれた熊木杏里。今年3月に全国公開された映画「バッテリー」の主題歌や、佐藤江梨子と松山ケンイチが恋人役を演じたユニクロ「Wide Leg Jeans」のCM曲など、各所で話題を呼んだ楽曲たちを収めたアルバム「私は私をあとにして」が、10月24日に発売。歌声から想像する物静かな印象とは異なり、実際の彼女は明るく活発な様子で、作品と自身について語った。

――今回の「私は私をあとにして」で4作目のアルバムとなりますが、前作「風の中の行進」を作り終えてから、次はどんな作品にしたいと考えていましたか?

熊木杏里(以降、熊木):一歩進んだ感じで、やっぱり「新しい私になって」という言葉が一番。前回のアルバムが終わってすぐ、自分の中でそういう気持ちになっていたので。3枚目のアルバムはまだ「こうしたい!」という理想の方が大きかったんですけど、それよりももう少し先に行った強いメッセージを、自分自身も強い自分でありつつ、言えるようなアルバムができればいいなと。

――前作のアルバムから今作までの間に、自分の中で変化を感じる部分はありますか?

熊木:それはものすごく!今年の始まりが去年、一昨年ぐらいの、記憶喪失的なぐらい遠い感じがあるので。喪失はしてないですけど(笑)。そのぐらい、自分を見渡せるぐらい、自分の残像がいて。言葉では上手く言えないんですけど、開いてきているというか。物事を色々と受け止めてから、入れてから自分なりに考えて、「どうしようかな?でも、自分はこうかも」と思える、心のドアが開いている気がしますね。

――熊木さんは、アルバム制作の際にコンセプトを決める方ですか?

熊木:いや、今までは特に。アルバムのコンセプトというよりかは、自分が次に「こういう自分でいたい!」という方が大きくて。それに伴って曲ができるので。前に比べてもっとキラキラ、もう少しパァーッと明るい感じ、というイメージだけです。

――「私は私をあとにして」というタイトルにした理由は?

熊木:なんでですかね?ひらめきなんです(笑)。アルバムが出来て、一通り聴いて。文字面を眺めながら、「このみんなをまとめあげる、暴走族で言うと総長的な役割のヤツは何だろう?」と考えて出てきたのが「私は私をあとにして」という。後光がパァーっと差して、「これだっ!」と。

――「新しい私になって」の頃から熊木さん自身にも変化が表れてきたと以前に話されていましたが、今回のアルバムタイトルの「私は私をあとにして」にも、自分の中での変化という意味が込められているのでしょうか?

熊木:もちろん、そういう気持ちがあったからそういう言葉が出てきたんです。色々な自分がいるけれど、常に自分を後にして、新しくというか。多分ものすごく変化をしてきている自分がいるので、私には変化していくことってすごく大事で。そんな自分もメッセージになったら面白いというか、いいかなと思って。だから、私はこれからもどんどん変化して。今回たくさんのタイアップを頂いて、たくさんの作品に出会っているので、そこでもらった気持ちもいっぱいあるけど、でもまた次に「自分はどうなんだ?」という所に立ち返ると、「私は私をあとにして」。忘れるわけではなく、ちゃんとメモリーにはあって次に行くという気持ちですね。

――歌詞を見ていて、自分自身と深く向き合っている部分と、他人と積極的に関わりを持とうとしている部分との両方の世界の広がりを感じていて、熊木さん自身もそういう心境なのかなと想像したのですが。

熊木:あぁ、もうまさにその通りですね。対・人が見える曲と、自分の中だけでぐるぐるしているのと両方確かにこのアルバムにはあるなぁ、詰め込めたなぁというのはありますね。でも、まだ対・人というのは具体的には見えていなくて(笑)。それまでは結構人と距離を置いていたので、どういう人がいるかとか、この人はどういう人生を歩いてきたとか一切興味が無かったし。余裕も無かったし、そういう風に付き合える自分でもなかったんですよ。でも今は、色々な人がいる、人を見るような気持ちになったし。とりあえず向き合って座ろうじゃないか。座ってみて、話をしてくれるなら聞きたいし、色んな人がいるのも知りたいし、色んな場所があるのも知りたい。それを一回自分で受け止めて、ぐるぐる循環。人を通って今度はまた自分に戻ってくる、みたいなのが少しずつ出来てきているのかな?とは思いますね。

――人と関わることによって、新たな自分の一面に気付かされることもありますしね。

熊木:それは、すごく思いますね。