月収に対して、どれぐらいの家賃が適正なのか。よく「家賃は月収の3分の1」と言われてきたが、それは払い過ぎかもしれない。長年、賃貸トラブル解決に携わってきた司法書士の太田垣章子氏は「スマホ代などかつてより出費が増えており、『月収の3分の1』では生活が行き詰まるリスクが高い」と警鐘を鳴らす――。

※本稿は、太田垣章子『家賃滞納という貧困』(ポプラ新書)の一部を再編集したものです。

■私たちの生活は「お金がかかるスタイル」になっている

家賃は月収の3分の1が相応と言われていたのは、もう過去の話です。今の世の中、理想は4分の1以下にまで抑えなければ、大きなリスクを背負いかねません。

※写真はイメージです(写真=iStock.com/OcusFocus)

外出先で喉が乾けば、コンビ二や自販機で飲み物を買えばいい。忙しくて夕飯が作れない時は冷凍食品や惣菜を買えばいい。そんな便利さに私たちはすっかり慣れてしまいましたが、水筒を持って出かけたり、自炊をするより、明らかに費用はかさみます。また、スマホや携帯代金の支払いなど、かつてはなかった必要経費も生まれました。

近年の夏の酷暑にはエアコンをつけなければ、とてもじゃないけど太刀打ちできません。だから、当然電気代も上がります。挙げだしたらキリがありませんが、私たちの生活は以前より、確実にお金がかかるスタイルに変化しているのです。

その状態で月収の3分の1に上る家賃を支払うとなれば、側から見れば豊かに見えても、生活はカツカツになって当然です。貯金をする余裕など残されていません。蓄えがなければ、何かの拍子に家賃が払えない月が出てきても何ら不思議ではありません。そういう人たちにとって家賃滞納とは、毎月直面するリアルなリスクなのです。

■お金をコントロールする意識がない

日本では、小さな頃からの「お金」に対する教育がなされていません。「お金のことをむやみに口にするのははしたない」というイメージが根強く、お金に関する知識を得る機会に恵まれません。

家賃を滞納する人たちを見ていて感じるのは、そもそもお金をコントロールするという意識がもてない人が圧倒的に多いと感じます。

今の生活を続けていれば家賃が払えなくなりそうな状況に陥っていても、じゃあ、生活レベルを落とそう、あるいはもっと安い部屋に移ろうといった逆算の発想がもてないのです。

■金銭トラブルに見舞われる人を量産する社会

また、最近は「お金を借りる」ことのハードルがかなり低くなっています。

かつては、お金を借りるためには誰かに頭を下げるか、もしくは人目を避けて裏路地にある質屋に行って自分の大切な物と引き換えにするか、つまり何らかの痛みを伴う必要がありました。

ところが1970年後半から消費者金融が急速に普及し始め、気がつけばゴールデンタイムに前向きなイメージのテレビCMが堂々と流されるようになっています。消費者金融=怖いというイメージはすでに払拭されていると言ってもいいでしょう。

さらに進化した消費者金融は大手メガバンクの傘下に入り、消費者はより気軽に無担保でお金を借りられてしまうようになりました。窓口に行かずとも、ATMでも簡単にお金が借りられる時代になり、銀行で自分の預金からお金を引き出すのと大して変わらない感覚で、気軽に借金ができるのです。

その結果、多くの人が安易な借り入れを積み重ね、金銭トラブルに見舞われる人が量産されたのです。

■お金関係の訴訟は東京簡易裁判所だけで1日100件

日本の裁判所で、一日に消費者金融を含めた金銭がらみの裁判が、いったい何件なされているのかご存じですか?

払われていないお金を請求するもの、逆に、払い過ぎた利息を取り戻す請求をするもの。どちらにしてもお金の貸し借りに起因する訴訟は、東京簡易裁判所だけでも1日100件以上が開廷されています。これを全国の裁判所で計算すると、気が遠くなるような数になるでしょう。

それでも「お金の教育」に注意を払う人は決して多くありません。きちんと「お金の教育」をしていけば、そのようなトラブルの数は減らせるはずです。でも現実には、元凶を放置したまま、増え続ける訴訟の対応に振り回されているだけなのです。

■家賃の金額が「上昇傾向」な理由

先に述べたように、毎月の最大固定支出となる家賃は、月収入の4分の1以下を目安にした方が安全です。その一方で、賃金もあまり上がっていないため、多くの人が問題なく支払える家賃は決して高くないのに、実際には家賃の金額は上昇傾向にあるのです。

その要因としては、建物の建て替えでしょう。昭和40年代に建った木造アパートが老朽化のため建て替えられ、高収益を生む建物に移行しています。空室となるのが怖い家主が、人気物件となることを目指して高スペックの建物を建築しているのです。その結果、安い部屋を探すのが難しくなってしまいました。

『家賃滞納という貧困』(太田垣章子著・ポプラ社刊)

6畳1間の共同便所の物件も、最近ではほとんど見かけません。新築される物件は、オートロック、宅配ボックス、温水洗浄便座、インターネット環境等が完備されているような物件ばかり。そうでないとネット検索にもかからないからです。その結果家賃は高騰し、やむなく身の丈以上の部屋を借りるしかない、という状況になっている可能性もあるのです。

身の丈を超えた家賃は当然ながら、家計を圧迫します。いざ生活を始めれば、「もう少し家賃が安ければ生活は楽なのに」と後悔するようになるでしょう。早い段階で安い部屋に移転できればいいのですが、引っ越しするとなればまた費用がかかりますし、ことはそう簡単にはいきません。そうなると、もはや生活レベルを落とす以外に方法はありませんが、それができなければ、家賃が払えなくなるのも時間の問題なのです。

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太田垣章子(おおたがき・あやこ)
章司法書士事務所代表、司法書士
30歳で、専業主婦から乳飲み子を抱えて離婚。シングルマザーとして6年にわたる極貧生活を経て、働きながら司法書士試験に合格。登記以外に家主側の訴訟代理人として、延べ2200件以上の家賃滞納者の明け渡し訴訟手続きを受託してきた賃貸トラブル解決のパイオニア的存在。

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(章司法書士事務所代表、司法書士 太田垣 章子 写真=iStock.com)