東大や早慶生が「ママ活」に殺到する事情
■なぜ高学歴の「男子大学生」は「中年女性」を求めるのか
「マッチング産業」に新たなトレンドが誕生した。それは「年上女性と年下男性」を結びつけるものだ。今秋、この組み合わせに特化したマッチングサイトが次々とオープンしている。
厚生労働省によると、2015年に婚姻したカップルのうち、その24%が「年上女性と年下男性」だった。それは30年前の1970年に比べ約2.5倍になる。年上女性を求める男性が増えているということだろうか。
「ママ活」という新語
最近は「ママ活」という言葉が取り沙汰されている。若い男性が経済的に援助してくれる年上女性を探す活動を指すものだ。定義は明確ではないが、女性が食事をごちそうしたり、仕事や学業に必要な品をプレゼントしたりするなど、若い男性を支援するというものだ。
今秋オープンのマッチングサイトは、誰でも登録できるわけではなく、年齢確認が厳格な点に特徴がある。たとえば「スイートメモリー2」は、女性は35歳から(年齢確認できる身分証の提出が必須)、「SILK(シルク)」は、男性は大学生のみ(大学メールアドレスでの登録が必須)となっている。条件はそれぞれ異なるが、どちらも年下の男性と年上の女性とのマッチングを目的としたサイトだ。
アラフォー女性の孤独に寄り添う
「スイートメモリー2」を運営する合同会社IOKの広報・金光弘嗣さんによれば、同社が、女性登録者に「35歳以上」という入会制限を設けたのは、この世代の女性たちがほかのマッチングサイトではあぶれてしまっているように感じたからだったという。肩身の狭い思いをしている彼女たちが優位に立てるサービスを作れないかと考え、年下男性とのマッチングに行き着いたそうだ。
主な対象は、世界一高いという日本人の中央年齢「46.3歳」の前後で、バツイチの女性だという。筆者は、「日本の中央年齢(女性)」で「バツイチ」という、このサイトのコンセプトにぴったり当てはまっている。実際の話、このサイトの存在を知った瞬間、「そういうのを待っていたのよ!」と膝を打った。本当に打った。
周囲の40〜50代の独身女性たちも「友達が結婚してしまって一緒に遊ぶ人が少なくなった」と嘆き「一緒に出かけてくれる人がいない」とぼやいている。本気でレンタル彼氏を検討している人もいるほどに寂しさを極めているのだ。登録しているマッチングサイトではリタイアした60〜70代の男性からのアプローチはあるが、若い世代からはほとんどノーリアクションという声もある。
この「スイートメモリー2」では8月下旬より登録を呼びかけたところ、男女比8:2で男性の登録者が圧倒的に多く、特に18歳から24歳くらいの男性の反応がよかったという。「多くのマッチングサイトは、女性は無料で男性には有料課金がありますが、こちらは、男性は基本的に無料。それが、登録件数が伸びている大きな理由です」(同・金光さん)。なお、女性会員には課金があり、月額3000円程度を検討しているという。
■ごちそうしてくれて、甘えさせてくれる「年上女性」
年上女性というメリット
では、どんな男性が登録しているのか。
「スイートメモリー2」では大学生や、20代のバーなど飲食店勤務、芸能人のタマゴなどの間でSNSを介してサイトの存在が知られ、登録者が増えているという。
「若い男性は同世代や年下の女性との交際に疲れています。最近は安定した収入を得ることが難しい時代なので、男性ばかりがデート費用をもつことに抵抗を感じる人もいる。ごちそうしてくれて、甘えさせてくれて、人生のアドバイスまでしてくれる年上女性との交際に強い憧れがあるのでしょう」(同・金光さん)
一方、「SILK」は大人の女性と男子大学生限定のマッチングサービスだ。男性の事前登録者は1万人を超え、限定公開もスタートした。大学生かどうかという身分チェックのために、その大学のメールアドレスでのみ登録を受け付けている。このため身分を偽装することはできない。
そしてふたを開けてみると、なんと東京大学からの登録が一番多いという驚くべき結果だった。次いで早稲田大学、慶應義塾大学と、私大トップ校が多くを占める。しかも理系男子がかなり多いという。
「当初はMARCHあたりの大学生の登録を予想していたのですが、彼らは現実をエンジョイしている人が多く、サイトに登録する必要を感じていないのかもしれません。東大や早慶の学生さんがこれほど出会いを求めているとは驚きました」(運営会社SPIKE代表・劉拓馬さん)
■東大、早慶生など若い男子殺到の「パーティ」に潜入
東大生と年上女性のマッチング
「SILK」ではオープンに先立ち、9月に東京・六本木のレストランで事前パーティーを開催した。限定30名という男性枠には数百人の申し込みが集まり、当日は1人のキャンセルも出なかったという。男性は参加費無料だったとはいえ、かなりの人気だといえよう。応募メールの多くには「ずっと勉強していて女性と出会う機会がない」「年上の女性にいろいろ教えてもらいたい」などと切実なアピールが添えられていたそうだ。
実は筆者も女性の会費1万円を自腹で払い、このパーティーに参加した。確かに有名大の学生ばかりで、なかには学生証を自ら見せてくれる人までいた。男性参加者はモデル風の長身イケメンや、体育会系、女性経験がほとんどなさそうな初々しい男子など多彩だった。
一方、女性の参加者は30代から50代くらいのキャリア風が多い印象だ。参加費を払ってでも有名大の年下男性と知り合いたいという女性は確かに存在するのだ。なかにはリクルーティングを兼ねて参加したという女性経営者もいた。
■「同年代や年下の女性は少しの粗相で怒り出すんです」
年下男性が求めるママ像
パーティー参加者の男子学生たちに聞いてみると、「年上の女性が好きで、なかなか知り合う機会がなかった」という人がたくさんいた。苦学生で生活支援を求めている、というよりは、年上との出会いを真摯に求めているという印象を受けた。
「なぜ年上が好きなのか?」と聞くと「甘えられるから」「失敗しても寛大だから」などという答え。「同年代や年下の女性は少し粗相をするだけで怒り出し、機嫌を取るのが面倒だけど、年上女性ならそんな自分も受け入れてくれるから」という。
少しの粗相とは、例えば「返信の遅れ」だ。
10〜20代の女性は、朝と夜に「おはよう」「おやすみ」のメッセージは当然で、しょっちゅうLINEでの連絡を要求し、即レスしないと「浮気したのではないか」と疑いだす。束縛欲求が強く、デート費用も男性持ちが多い。
一方、30〜40代の女性は忙しいから、もし親しい男性ができても毎日「おはよう」「おやすみ」のメッセージを交わす余裕はあまりない。相手からの返信が多少遅れても、特に気にしない。そういう相手のほうが気は楽だろう。しかもデート費用も持ってくれることが多い。
年上女性は人生のコーチ!?
話しているうちに、彼らはお小遣いやエッチな願望を果たす目的ではなく、人生のことを教えてくれるコーチのような存在を求めているのではないかということを強く感じた。女性とのコミュニケーション能力や社会人としてのスキルに自信がないので、間違いをやんわりと諭してくれる人を必要としているのだ。
「彼らは応援されたいんですよ」と前出の劉さんはいう。
「彼らは人一倍努力し、有名大に入学してきたわけだし、今後も彼らが日本の未来を支える存在になっていくわけです。そんな彼らは“支援”というより“応援”をされたいのではないでしょうか」
確かに同い年や年下の女性より、年上のキャリア女性のほうが彼らの頭脳の価値をよくわかっているだろう。女性たちは彼らよりも先に社会に出ているので、仕事面でも恋愛面でもアドバイスをすることができる。彼らはいろいろな経験を求めているので、好奇心旺盛な年上女性の趣味にも喜んで付き合う。若い男性と年上の女性というマッチングはお互いにとってかなり有益なものと言えるかもしれない。
■10代が女性に「小遣い要求」して補導されるケース続出
甘いばかりではない現実
年上女性とのマッチングは、年下男性にとって、いいことずくめのようにも見える。しかし、今回のマッチングサイトも本格稼働してからでないと全容は見えてこない。
私の周囲では、年下の男性から甘えられることについては賛否がある。「私好みに育てることができるから、頼られるのは楽しい」という女性と、「何もかも教えなくちゃならないのは面倒」という女性にわかれるのだ。
母性的な女性は年下男子を歓迎しやすいが、もちろん、誰でもいいというわけではない。「自分がデート代をおごるのなら相手は自分好みのルックスの人に厳選したい」と45歳女性は話してくれた。確実にいえるのは、今後、登録男性が多くなればなるほど、女性から選ばれるための工夫は必要になるということだ。
また、10代の場合、金銭目的の交際呼びかけは「不良行為」として警察に補導されることがある。警察庁によると、ネット上の書き込みを監視し、警察官が身分を伏せて接触する「サイバー補導」により、昨年は全国で1187人(少女1088人、少年99人)が補導されている。これは前年より325人多い。
今回取材した2社は「チェック機能を強化している」と話す。
「未成年者が援助交際と思われる書き込みをしていたら削除しています」(「スイートメモリー2」金光さん)
「援助交際に代表される金銭などの援助を求める行為は禁止しております。プロフィールは弊社スタッフにて全て目視による確認を行い、適切なもののみ公開される運用を行っており、またユーザー間でのやり取りにてそのような行為を行うユーザーがいると連絡を受けた場合は、即事実確認を行い利用停止などの対応を取っております」(「SILK」劉さん)
■年上女性はあっさりサヨナラしてくれるだろうか
男性利用者にはもうひとつ注意点がある。
登録した男性に話を聞いていると、年上女性との関係をあくまでも「人生のステップだ」と割り切った考えの人が多かった。おいしいお店やすてきな旅行に連れて行ってもらったり恋愛や人生のイロハを教えてもらったりして一人前の男に成長した後に、結婚相手を見つけていきたいと話す人もいた。
彼らはそれでもいいだろう。しかし、親しさが増せば、一筋縄ではいかなくなることもある。果たして年上女性はあっさりサヨナラしてくれるだろうか。あれこれ尽くした年下の男性に情が湧き、手放したがらず、修羅場となる可能性もある。何かトラブルが起きた際に、それを処理するスキルが年下男子に備わっているか、少し心配ではある。
(作家・脚本家・イケメン評論家 内藤 みか 写真=iStock.com)