WBA世界バンタム級王者・井上尚弥【写真:荒川祐史】

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バンタム級転向後は2試合でもわずかに182秒

 ボクシングのWBA世界バンタム級王者・井上尚弥(大橋)は7日、ワールド・ボクシング・スーパー・シリーズ(WBSS)1回戦(横浜アリーナ)で元WBA同級スーパー王者フアン・カルロス・パヤノ(ドミニカ共和国)を、衝撃の1回70秒KOでマットに沈め、デビューからの連勝を17(15KO)に伸ばした。最強王者決定戦で衝撃的な強さを見せたモンスターだが、強すぎるが故に新たな悩みが浮上しているようだ。

 戦慄が走った。あまりに一瞬の出来事に、何が起きたのか事態を把握できない観客もいたかもしれない。それだけ鮮やかで衝撃的だった。開始1分過ぎ、井上は左ジャブからのワンツーの右ストレートをパヤノに浴びせた。崩れ落ち、仰向けに倒れた元スーパー王者は沈黙。すさまじいノックアウトシーンだった。

「手応えがあった。かなり効いていた。この一撃で終わったと思った」と振り返り、「入り際のストレート。ずっと練習してきたパンチです」と胸を張った。日本人の世界戦最速となる70秒で、プロでKO負けなしのパヤノをマットに沈めた。

「見切ったというか。体が先に反応しましたね。その前から距離感は探っていました。駆け引きはあった。踏み込みは練習していました。バックステップの速さとか、(パヤノは)かなりテクニックも技術もあるし、自分もそれ以上に踏み込まないと当たらないとわかっていましたし、それをチャンピオン級の選手にできたというのは自信にもなりましたし、パヤノにそういう形ができたのは良かった」

 試合後、一発も被弾していない、きれいな顔で試合を振り返った。井上の圧倒的優位こそ伝えられていたが、アマでは2度五輪に出場し、プロでの実績も十分。パヤノは決して弱い相手ではない。モンスターがあまりに強すぎたのだ。「集中はすごいしてましたよ。毎回(集中)していますけど、トーナメントの一回目ですし、自分の置かれている立場もわかっている」。渇望していた頂上決戦の初戦。感覚を研ぎ澄ませ、最高のパフォーマンスにつなげた。

「仕事は早ければ早いほうがいい。ダメージもないし」

 バンタム級昇級初戦の5月25日のジェイミー・マクドネル(英国)戦は112秒でKO勝ち。そしてこの日はわずか70秒。2戦合わせても182秒だ。井上のハードパンチャーぶりにますます磨きがかかっているが、一方で新たな悩みも持ち上がる。

「前回もそうでしたが……。(前回は)ラフになって大振りになったという課題はあったが、今回は課題を見極める前に終わった。まぁ一つ一つ集中して1日1日やっていけばいいのかなと。試合に関しては物足りなさは……。勝ち方は満足していますし」と少し歯切れが悪かった。バンタム級での2試合は井上があまりに強すぎるあまり、長い試合ができていないのは事実。「仕事は早ければ早いほうがいい。ダメージもないし」と振り返る通り、ぜいたくな悩みなのかもしれないが、課題らしい課題が見つからないまま、次の試合へ向けて調整するという状態が続いているのだ。

 スーパーフライ級時代は強すぎるあまり、相手が見つからなかったのもうなずける圧勝劇。伝統的に強豪がそろうバンタム級に転向後は、今度は強すぎて課題が見つからないという、また新たな悩みが生まれたようだ。

 準決勝の相手は、10月20日に米フロリダ州オーランドで行われる、18戦全勝のIBF王者のエマヌエル・ロドリゲス(プエルトリコ)と同級3位ジェイソン・マロニー(オーストラリア)の勝者。順当ならロドリゲスの勝ち上がりが有望視されている、このカードを、井上は大橋会長らと共に視察する予定。3月に米国内での開催が濃厚な次戦へ向けて、どんなイメージを描いていくのか。強すぎるモンスターはすぐに、次への一歩を踏み出していく。(THE ANSWER編集部)