Amazonで自費出版した本が文学賞候補に選ばれたことにフランスの書店団体が抗議の声を上げる
By Arslan
既存の出版会社を通さず、Amazonのオンデマンド出版サービス「CreateSpace」で自己出版した書籍がフランスの文学賞「ルノードー賞」の候補に選ばれました。まさに新たな出版の形を予感させるできごとであるわけですが、これについてフランス全土にある独立系の書店を代表する団体が、賞を運営する団体とAmazonに対して抗議の声を上げています。
SLF : Syndicat de la librairie française | Le SLF alerte les jurés du Prix Renaudot sur les conséquences de la sélection d'un livre autoédité par Amazon |
French bookshops revolt after prize selects novel self-published on Amazon | Books | The Guardian
https://www.theguardian.com/books/2018/sep/15/french-bookshops-revolt-after-prize-selects-novel-self-published-on-amazon
抗議を行っているのは、フランスの書店を代表する団体「Syndicat de la librairie française」(フランスの書店の組織)で、ルノードー賞の候補者を選んだ審査員に対して「本に脅威を与えるものを守るのではなく、本を守るべきだ」と主張しています。
その「本に脅威を与えるもの」としてやり玉に挙げられているのが、Amazonです。小売業に革命を起こし続けているAmazonは、一方では既存の出版業界とその周辺のエコシステムを破壊しているとして批判を受けることもあります。そして今回の一件で特に問題とされているのが、CreateSpaceを通じて出版された本が著名な文学賞を受賞しようとしている点です。
2018年のルノードー賞の候補には17本の作品が選ばれており、その中の一冊、マルコ・コスカス氏著の「Bande deFrançais」が渦中の作品です。イスラエル系フランス人であるコスカス氏によると、この作品をCreateSpaceで発表しなければならなかったのにはある理由があるとのこと。コスカス氏が過去に発表した作品はいずれも既存の出版会社から出版され、従来通りの販路を経由して書店に並んできたのですが、こと「Bande deFrançais」に関してはどの出版会社からも出版したいという意向が得られませんでした。そこでコスカス氏は仕方なく、CreateSpaceを通じて作品を発表することを強いられたといいます。
CreateSpaceは、Kindleのような電子書籍の媒体で販売されている本をプリント・オン・デマンドで製本して販売するというサービス。元はBookSurgeとCustomFlixというスタートアップによって運営されていましたが、2005年にAmazonが両社を買収して自社のサービスに組み込んでいます。
CreateSpace: Sell Your Books, CD, DVD Through Self-Publishing Services
https://www.createspace.com/AboutUs.jsp
その結果、ルノードー賞の候補に選ばれるに至ったわけですが、もしCreateSpaceの仕組みがなければこの作品が世に出ることはなく、コスカス氏も作家としての活動を続けられなかったかもしれないほどの窮地に追いやられていました。しかし書店側からすれば、CreateSpaceを通じてAmazonが独占的に販売を行っているため、「著名な賞を獲得しようとする作品を店頭に置くことができない」という状況が生じてしまいます。その状況を看過できないと判断した書店団体は、従来の仕組みではない方法で出版された書籍を選んだルノードー賞と、既存の書店の脅威となっているAmazonに対して抗議の声を上げたというわけです。
書店団体はAmazonについて「書籍市場の主要な存在になりたいだけでなく、競合他社を排除し、不公正な競争を作り出し、税金を回避し、出版社や代理店、書店を全て入れ替えることで自らが市場そのものになろうとしている」と指摘。また、ルノードー賞の運営者に対しても、「Bande deFrançais」を候補リストに加えることについて「著者自身だけでなく、書店にも不利益を与えている。そしてそれは、書籍の出版と流通の未来に対する不吉な兆候である」と批判し、コスカス氏の作品を候補者リストから除外すべきだと主張しています。
By Claire
一方のコスカス氏は、候補者に選ばれたことについて「喜んで誇りに思う」と述べ、書店団体がコスカス氏の排除を求めていることについても「フェアプレー精神の欠如であり、もちろん脅迫でもある」と批判しています。またコスカス氏は、書店団体は作家に対して怒りを向けるべきではないとも主張。コスカス氏の著書の取り扱いについて「ミスを犯した」出版社こそが責められるべき存在だと指摘し、さらにその背景にはフランス国内に存在する「反イスラエル」的な風潮が存在していると述べています。
コスカス氏はまた、「私は、書店が出版社に対して逆らえない状況を理解しています。しかし、彼らが私の本を出版したAmazonに抗議することは意味をなしません。Amazonは、出版社よりもはるかに柔軟な契約を作家に提供しています。さらに、Amazonは作品に対する意見を示しません。これは重要なことです。彼らは、私が書いた内容について関与しません。彼らは私に出版のための金銭を要求せず、本が売れたときにマージンを受け取ります。私がこの状況について不平を言う必要がありますか?」と、既存の出版業界に対する意見を述べています。