首都圏の大手私鉄で初乗り運賃が124円の京王、東急、小田急と、JR東日本を比較。距離によって順位がコロコロと変わりますが、定期運賃だとさらに事情が変わってきます。

距離によって順位は入れ替わる

 首都圏で運賃が一番安い鉄道会社というと、どこを思い浮かべますか。


首都圏大手私鉄の運賃を、ICカード使用時の金額で比較(2018年8月、乗りものニュース編集部撮影)。

 イメージしやすいのは初乗り運賃です。130円以下ならかなり安い気がしますし、160円を超えると割高に感じます。200円以上となると、できれば避けたい路線に分類されてしまうかもしれません。

 関東の大手私鉄とJR東日本(電車特定区間。以下同)の初乗り運賃(IC運賃)を比較すると、4つのグループに分類できます。京王電鉄、東急電鉄、小田急電鉄が124円、JR東日本、京成電鉄、京急電鉄が133円、東武鉄道、西武鉄道、相模鉄道が144円で、東京メトロは165円です。

 しかし、このまま乗車距離を延ばしていくと順位は入れ替わります。以降、初乗りがともに124円の3社とJR東日本を見ていきましょう。

 たとえば10km乗車したときの運賃を比較すると、JR東日本の165円が最も安く、京王は174円、東急は195円で、最も高いのは小田急の216円です。20kmの運賃を比較すると、最も安いのは東急の247円、続いて京王と小田急が278円、JRが302円となり、再び順位が大きく入れ替わります。

 日本のほとんどの鉄道は「対キロ区間制」という運賃制度を採用しています。これは「1km〜3kmは150円」「4km〜6kmは180円」「7km〜10kmは210円」などのように、乗車距離に対応する運賃をいくつかの区間に分けて設定する方法です。単純に「1kmあたり○○円」としていないのは、特に駅の間隔が短い都市部ではきっぷの種類が増えすぎて利用者に分かりにくくなり、事業者としても余計なコストが掛かるためです。

運賃の「味付け」は各社異なる

 区間ごとの運賃の上がり方は一定でなくても構いません。短距離を割安にしている鉄道会社もあれば、長距離を割安にしている会社もあります。この違いは距離ごとの運賃をグラフにしてみると一目瞭然です。


JR東日本の電車特定区間と京王、東急、小田急の、30kmまでの普通運賃比較(各社運賃表を参考に筆者作成)。

 運賃が一定のペースで上昇しているのは小田急です。路線が長く、遠距離利用者も多いため、偏りの少ない運賃体系になっています。

 京王も比較的一定のペースで上昇していきますが、15kmまでは運賃の上昇幅を抑えており、短距離利用者には特に割安になっています。

 東急は逆に15km以降は運賃の上昇幅が少なくなり、20km以降では京王よりも安くなります。東急で全長25kmを超える路線は田園都市線(31.5km)だけなので、沿線開発のための戦略的な運賃設定といえるでしょう。

 運賃に2面性があるのがJR東日本です。15kmまでは私鉄と渡り合えるよう割安の運賃設定になっていますが、15kmを超えると途端に上昇幅が大きくなり、私鉄との運賃格差が開いていきます。

会社をまたぐと損になる?

 JRと私鉄の運賃比較が難しいのは、その条件が必ずしも一定ではないことです。たとえば、首都圏の大手私鉄のほとんどはターミナルがJR山手線に接続しているため、私鉄だけでは都心にたどり着けず、JRや地下鉄に乗り換える必要があります。

 一般的に鉄道会社をまたいで利用すると、初乗り運賃を2度払わなければならないため合計の運賃は高くなります。余計な運賃を払わないように、できるだけ利用会社が少なくなるルートを選んでいる人も多いでしょう。単独では都心にたどり着けない私鉄の運賃は、結局は割高になってしまうのでしょうか。


JR東日本の電車特定区間と京王、小田急、東急の普通運賃比較。JR東京駅を出発して途中の新宿、渋谷で乗り換えた場合(各社運賃表を参考に筆者作成)。

 ところが、実際には必ずしもそうなるとは限りません。先ほどグラフで見たように、JRと私鉄の運賃格差は15km以上で広がっていきます。一方、JR東日本は、山手線内にさらに割安な「山手線内運賃」を設定しているため、私鉄のターミナルから都心までの単距離利用はさらに安くなります。そのため途中でJRから私鉄に乗り換えた方が、JRだけ使って同じ距離を移動するよりも安くなるという、逆転現象が生じることがあります。

 たとえばJR東京駅を出発して途中で私鉄に乗り換えた場合、どこまで乗れば同じ距離をJRだけで移動するよりも割安になるかを調べてみると、京王は新宿から14km超(国領)、小田急は新宿から19km超(読売ランド前)、東急は渋谷から10km超(東横線は新丸子、田園都市線は二子新地)の区間を乗るとJRだけ利用するよりも割安になります。

定期運賃はさらに逆転

 ここまで普通乗車券(IC運賃)の利用を前提に運賃を比較してきましたが、定期乗車券で比較するとこの関係は大きく変わります。定期運賃の区分や割引率が各社で異なるからです。

 たとえばJR東日本、東急、小田急にはそれぞれ普通運賃が216円の区間がありますが、定期運賃はJR東日本が6460円(割引率50%)、東急が8130円(37%)、小田急は7110円(45%)〜8150円(37%)です。

 JR東日本(30km超)と小田急は普通運賃とは違う区切りで定期券運賃が決められています。また、JRは私鉄と比べて定期券の割引率が高いことが分かります。


JR東日本の電車特定区間と京王、小田急、東急の定期運賃比較。JR東京駅を出発して途中の新宿、渋谷で乗り換えた場合(各社運賃表を参考に筆者作成)。

 この結果、JR東京駅発の定期運賃を比較すると、普通乗車券利用のときよりも遠くまで行かないと定期運賃は割安にはなりません。つまり、定期券を利用するならJRの方がおトクな区間が増えるということになるのです。

 鉄道の運賃制度は非常にややこしく、この他にも特定の区間を利用するときだけ適用される割引などもあります。つまり、ある路線の運賃が高いか、安いかという問題は、どの駅を利用しているのか、定期券を利用しているのかで、大きく変わってくることが分かります。

 いまは乗り換えアプリなどですぐに普通運賃と定期運賃を調べることも可能です。引っ越しを検討されている人は、意外とイメージとは違う「穴場」が見つかるかもしれません。

【写真】JR東京駅に掲出されている運賃案内


JR東京駅に掲出されている運賃案内(画像:写真AC)。