国民民主党は「党首討論の15分」で株を上げた
党首討論で安倍晋三首相(右手前)に質問する国民民主党の玉木雄一郎共同代表=30日午後、国会(写真:共同通信)
2016年12月7日以来、約1年半ぶりの党首討論が5月30日に開かれた。立憲民主党の枝野幸男代表と国民民主党の玉木雄一郎共同代表にとっては最初の党首討論だったわけだが、臨む姿勢は対照的だった。そして、党首討論の意義と改善ポイントも浮き彫りになった。
党首討論は、45分のクエスチョンタイムのうち各党の持ち時間は、立憲民主党が19分、国民民主党は15分、日本共産党は6分で、日本維新の会は5分。いずれも与野党双方からの時間を含む「往復」であり、首相側からの質問も可能だ。
枝野氏は「森友・加計」の追及に終始
党首討論で議論されるのは、国の基本政策である。衆参両院の本会議のように議員が質問し、大臣がそれに答えるという形式ではなく、与野党の党首同士が議論しあうという形式で、相手方の言質を取るためのものではない。ところがトップバッターの枝野氏の質問は、森友学園問題・加計学園問題の追及に終始した。
だがわずか往復19分の質問で、新しい真相を見つけるのは無理がある。しかも質問する側に新しい材料の持ち合わせはなく、これまでの質問をなぞることで終始した。
「枝野党首とは25年前に共に当選を果たしたわけで、枝野さんは日本新党、私は自民党で野党だったが、枝野さんは与党だった。この25年間、さまざまな党ができて消えていき、離合集散があったわけだが、国民が求めているのは何かというと、国家のあるべき姿を見据えて政策を作り、それを示し、実際に実行し、結果を出していくことだろうと思う。今回、枝野さんからいただいた質問要旨は「国家の基本政策について」の一行で、枝野さんと骨太の政策論議ができると楽しみにしてきたのだが……」
枝野氏に対して、安倍晋三首相はまずこう述べている。長々しい陳述は時間稼ぎであるとともに、枝野氏が具体的な質問通告をしなかったことに対する嫌味とも受け取れる。質問内容も安倍首相にとって想定済みで、野党から飛んでくるヤジにも時折対応しながら、のらりくらりと答えて19分をやり過ごした。
その余裕ぶりは、安倍首相の側で麻生太郎財務相がニヤニヤと笑っていたことからもうかがえる。対峙する枝野氏は安倍首相が話す間、両手を組んで憤然とした様子だった。
「予想どおりだ。安倍首相は意味のないことをダラダラと述べるだけで、聞かれたことにまったく答えていない。党首討論は歴史的な意味を終えた」
終了直後に開かれたぶら下がりで、枝野氏は自身の質問が不発に終わった怒りをぶちまけた。しかし党首討論の制度自体が悪いわけではないだろう。枝野氏の運用にも問題があり、「歴史的な意味を終えた」と言い切れるものではない。
玉木氏は政策論争に専念
一方で株を上げたのは玉木氏だろう。民進党と希望の党が合流して5月7日にスタートしたばかりの国民民主党は、各メディアの調査では政党支持率が1%前後と極めて低い。
「これからだよ。支持率に一喜一憂せず、日本がよくなる政策を主張し、国民にわかってもらう努力をするのみだ」。玉木氏はこのように常々述べているが、国民民主党代表としての事実上のデビューの場である党首討論において、その片鱗を見せた。
「骨太の議論をしたいので、直球勝負でいくので、簡潔に答えてほしい」
最初に「出すべき資料や人は出して」と森友学園・加計学園問題関連と思われる要求を述べた玉木氏だが、その後は疑惑追及は行わず、もっぱら政策論争に専念した。まず取り上げたのは5月24日にドナルド・トランプ米大統領がウィルバー・ロス商務長官に命じたと報じられたアメリカによる自動車関税アップ問題で、現行の2.5%を10倍まで上げるというものだ。
「わが国はアメリカの重要な同盟国で、総理も『(アメリカと)100%共にある』と言っているが、事前通告なくしてこういうのをやられたら、(日本はアメリカから)同盟国と見なされていないのではないかと疑わざるをえない」と指摘した。
これに対して安倍首相は「玉木議員の質問は非常に重要だ」と述べ、枝野氏に対して見せた表情とはまったく違う真剣な表情で「鉄鋼・アルミの例」を引き合いにしてこれに回答した。
ちなみに「鉄鋼・アルミの例」とはトランプ大統領が3月23日に発動した輸入制限で、鉄鋼には25%、アルミには10%の課税を追加するもの。EUや韓国など“友好国”は課税対象の除外とされたが、日本は除外されていなかった。だがその多くは日本しか生産できないもので、影響は小さいと見なされている。
しかし玉木氏は、鉄鋼とアルミも事前通告はなかった点について問題を指摘した。また中国がWTOに基づく協議を申し入れており、WTOの盟主のようになりつつあるが、これは本来は日本こそがやるべきことだと主張。すでに実施された鉄鋼・アルミの輸入制限についてはWTOのセーフガード協定上の措置を講じるべきだと主張した。
「世界の自由貿易体制を守るのだ、そういう意識で行動すべきだと思うがいかがなものか」との玉木氏の主張は、安倍首相の目指す経済政策を一歩も二歩も先んじているもので、安倍首相としては反論のしようがなかった。
さらに日米貿易問題に日米安保第2条の「自由主義を護持し、日米両国が諸分野において協力することを規定する」を適用し、日米関係のさらなる強固さをアピールするとともに、領土交渉が難航する日ロ交渉について、北方領土に米軍の基地を置かないことを明確にすることでプーチン大統領の懸念を払拭させることを提案した。
久しぶりに政策論争をできたことに、安倍首相も満足したのだろう。15分の討論が終わった後に玉木氏に近づき、がっしりと握手した。
党首討論は「基本政策について討論する場」
玉木氏の後の日本共産党の志位和夫委員長は、森友学園問題・加計学園問題を列挙するだけで終わってしまった。しかし共産党は会計検査院の検査結果に関する財務省の理財局長と国土交通省の航空局長の密談メモなど、これらの問題について他党がとうてい及ばないほどの調査能力を発揮している。しかも持ち時間のわずか6分では、もともと十分な議論は望めない。
このように見ると今回の党首討論は、その原点に立ち戻った玉木氏が一番評価されるのではないだろうか。だが党首討論自体も、その開催時期、回数、あるいは開催時間など、まだまだ改善すべき点が存在することも浮き彫りになったといえる。
しかし、最も大切なことは、各党首が党首討論を「基本政策について討論する場」と考え、品位ある運用をすることだろう。多くの国民が望んでいることも、そうした実のある討論であろう。いまは支持率1%の政党でも、その小さな炎を正しい方向に燃やし続ければ、日本の政治は少しは変わるのかもしれない。