山中慎介

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5日放送、NHK「プロフェッショナル」では、先日のタイトルマッチで因縁の相手に敗れた山中慎介を特集。最後の試合に懸けた想いを追った。

昨年8月、日本記録に並ぶ13回目の王座防衛を目指した山中は、ルイス・ネリに4回TKO負けを喫した。プロになって初の黒星だ。

試合直後、進退に関して留保した山中は、3日後のインタビューで、夜中に眠れず妻と話し合ったことや、翌日に子供から「負けちゃったけどさ、次やったらいけると思うよ」と言われ泣いたと明かした。だが、インタビュー中には冗談を飛ばし、笑顔も見せている。

もちろん、つらい胸中だったのは言うまでもない。沙也乃夫人は「ほぼ泣いていました」と明かした。「こんなに泣けるんだっていうぐらい。初めて見たかもしれないです。あんなに泣いたのを」。夫人は、笑顔がない山中が「小さく見えました、道で。縮こまっている感じに見えました」と涙ぐんだ。

だが、タオルが投げられたタイミングが議論を呼び、ネリに薬物疑惑が浮上するなど、試合結果には疑問符がついた。負ければ引退と公言していた山中は、「自分が思っているよりもあの負けを引きずってしまった」と、決断を下すのに2カ月を要したが、昨年11月に現役続行を発表した。

ネリのドーピング問題に、山中は「(無効試合には)ならないでくれと思いましたね、逆に」と話した。「ドーピングしていようが負けは負けということか」との質問にも「自分の中ではありますね」と返答。ネリともう一度対戦したいという「素直な思い」から、現役を続けることを決めた。

ネリを倒すため、これまでのスタイルと異なる練習もこなし、35歳にして新たな取り組みに挑んだ。「得たことのほうが多い」という山中は、「心が強くなっている」と、強さを証明できると意気込んだ。

初めて子供に練習姿を見せ、友人である先輩の長谷川穂積氏にも助力を求めた。長谷川氏は、ボクシングを「終わりのないトーナメント」と表現。自身は引退後に「結局強さって自分に勝つこと」という答えを出したとし、山中の答えも聞きたいと話した。

その山中は再戦の1カ月前、「もちろん勝つためにやっていますけど、自分自身がどれだけ納得して終われるかというのが一番大事なんで。本当に心から思えるようになっている」と述べている。

しかし、2月半ばに「過去最高の自分をつくった」と言い切っていた山中に対し、ネリのほうは前日計量でまさかのウェイトオーバー。数十グラムに神経をとがらす世界で、2.3キロのオーバーは確信犯と言われても仕方がない。前代未聞の事態に、山中は「ふざけるな」と怒りをあらわにした。

山中が再戦に懸けた想いは、踏みにじられた。何も言わずに臨んだ試合は、2回途中KO負け。直後に引退を表明した山中は、試合2日後の番組の最後のインタビューで、笑顔で冗談も飛ばしたうえで、「自分の気持ちとしては、今はすっきりとしていますかね」と語った。

「試合前にもいろいろあって、2ラウンドで終わってしまいましたけど、試合も含めて、負けてから、自分自身に勝てたっていう風に思えたんですよ。だからこそこう、すっきりした気持ちもありますし、結果は出なかったですけど、自分自身強いなと。本当にこれからも胸を張って、何事にもチャレンジできるような気分なんで、今は。あいつには負けましたけど、自分には勝てたかなと思いますね」

最後に、人生をやり直すとしたらボクシングをやるかと問われると、山中は「たぶんやりますね」と笑顔を見せた。