柿安本店がショッピングセンターなどのフードコートに出店する新業態「柿安Meat Express」。1号店は2017年4月に名古屋で開業した(写真:柿安本店)

精肉店の老舗で、百貨店を中心に精肉・総菜店を展開する柿安本店が、ショッピングセンター(SC)内のフードコートへの新業態店の出店を加速している。

同社は2月23日、フードコート型レストラン「柿安Meat Express」を「ららぽーと新三郷」(埼玉県三郷市)に開店した。この新業態店は今2018年2月期に始めたばかり。昨年4月に1号店となる「イオンモール大高店」(愛知県名古屋市)をオープン。その後も8月と11月に、東海圏で新店を相次いで開店した。今期だけですでに6店舗の開店と、当初計画を上回るペースで出店している。

フードコートのメリットとは

さらに、3月も2店舗のオープンを計画。「来2019年2月期も関東圏や東海圏で、今期以上の出店を見込んでいる」と、柿安本店の堀武彦執行役員は意気込む。

新業態店は肉を使った丼を中心に提供する。柿安本店の名物の佃煮「牛肉しぐれ煮」を使用した「牛肉しぐれ煮丼」は、新業態店の各店舗で売り上げトップ3に入るなど人気商品となっている。

厨房やレジカウンターのスペースとして30平方メートル程度の広さがあれば出店できる。加えて、フードコート内店舗であるため、スタッフが接客サービスをする必要はない。初期投資の負担が小さく、少人数のスタッフで運営できるため、事業利益率が高い点も特長の1つだ。

百貨店を中心に店舗展開してきた柿安本店だが、なぜこのタイミングでSCのフードコート向け新業態の展開にアクセルを踏み込むのだろうか。背景にあるのは、主戦場としてきた百貨店の先行きに対する不安だ。

1871年(明治4年)、現在の三重県桑名市で牛鍋店として創業した同社は、その後、料亭をはじめとするレストランと精肉販売が主力事業に成長した。そして、1972年に「牛肉しぐれ煮」の販売を開始。これらの精肉や贈答用佃煮の販路として、高級品を扱う百貨店を深耕していった。

2001年にはBSE(牛海綿状脳症)問題の余波を受け、精肉販売が急落。2002年9月期(当時は9月期決算)は創業後初の赤字に転落した。これを機に、家庭で食べるおかずやサラダなども扱う総菜店を軸にして百貨店への食い込みをさらに強めた。

百貨店の先行きに不安

ところが、昨今は百貨店が構造的な不況にあえいでいる。特に、地方では閉店する百貨店が続出。柿安本店が得意とする東海圏でも、名古屋市で「4M」と呼ばれた百貨店名門の一角、丸栄が今年6月に幕を閉じる。


新業態の看板商品である「牛肉しぐれ煮丼」は各店舗で売り上げトップ3に入る(写真:柿安本店)

今後の百貨店経営は、これまでのように順風満帆であるとは考えにくい。「勝ち組と負け組が明確になる可能性がある」と、堀執行役員は見通す。

不安定な百貨店に代わる新しい販路として、柿安本店が照準を定めたのがSC内のフードコートだった。ただ、家族層などから根強い支持を得ているフードコートは出店競争が厳しい。テナントの入れ替わりがほぼ皆無で、店舗の空きは簡単に見つからない。

激しい陣取り合戦の中で、同社は老舗店の”したたかさ”を発揮する。柿安本店は2005年から和菓子販売店「口福堂」を大型SC内中心に展開しているが、この和菓子販売店(現状200店弱)は大手総合スーパー(GMS)のイオンへの出店比率が高い。

背景には、イオン出身役員の存在がある。柿安本店の樋尾清明専務は当時のジャスコから1992年に転籍してきた。

その後、「イオン内店舗の開発は樋尾さんが担ってきた」(社内関係者)という。今回の新業態店もこのコネクションをフル活用し、激戦区のフードコート出店を勝ち取ってきたというわけだ。

路面の新業態開発にも着手

新業態の育成に注力する柿安本店は目下、業績好調を維持している。今2018年2月期は売上高440億円(前期比1.1%増)、当期純利益16億円(同27.7%増)と、過去最高益を更新する見込みだ。

昨年実施した精肉商品などのラインナップ拡充が奏功し、増加傾向の中食需要を取り込んでいる。高騰していた牛肉相場がここにきて落ち着いていることも、仕入れ面でプラスになっている。

柿安本店はフードコート型業態のほかにも、新業態の開発を進める。昨年10月には、路面総菜店の「パーシモンガーデン」を三重県桑名市の県道沿いに開業。総菜やサラダ、パンなどを提供し、イートインスペースも備える。実験店的な位置づけで、これまでは弱かった路面店を活発化できるか、その試金石となる。

外部環境の変化に柔軟に対応しながら、着実に成長路線を歩むことができるか。146年の歴史を持つ老舗精肉店の新たな挑戦は始まったばかりだ。