銀行員はデジタルレイバーに置き換えられてしまうのか。(ロイター/アフロ=写真)

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日本の労働人口は今後、減少していく。人材確保に悩む企業が増えるなか、猫の手ならぬロボットの手を借りる会社も出てきた。ロボットの導入を積極的に進める金融の関係者からは「数年後には会社から今の形の総務部がなくなるのでは」との声も聞こえてくる――。

■AIで効率化し、10年間で3万人分の業務を削減

2017年、メガバンクは大規模な構造改革に踏み込んだ。主力3行は人工知能(AI)などを活用して効率化をはかり、今後10年間で合わせて3万人分を超える業務を削減する計画を掲げている。超低金利政策の長期化が利ざやを圧迫しているほか、人口減少という問題も立ちはだかっているためだ。

人数で一番踏み込んだのはみずほフィナンシャルグループだ。バブル期の大量採用世代をターゲットに、26年度までに従業員数の4分の1を減らす方針を打ち出している。実数だと1万9000人に及ぶ。

三菱UFJフィナンシャル・グループは7年程度で9500人分の業務をAIなどで自動化を目指す。三菱東京UFJ銀行の三毛兼承頭取は「簡単な事務などはシステム化し、これによって解放される人的資源は顧客と向き合う業務や全体のプランニングをする付加価値の高い職務に回す」と説明する。

三井住友フィナンシャルグループもITの活用を進め20年度までに4000人分の業務の削減をはかる。グループ内のインフラの共有化や業務改革で、3年間で500億円、中期的に1000億円のコスト削減効果を見込む。

■人事・経理・総務など「バックオフィス業務」の代行が得意

各行の業務改革の鍵を握るのは新技術RPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)だ。RPAとは人間の動きをロボットがコンピュータ上で再現する技術で、AIがロボットの頭であれば、RPAは手足にあたる。

日本RPA協会の笠井直人氏は「RPAとは言い換えればデジタルレイバー(仮想知的労働者)です。主に、人事・経理・総務といった“バックオフィス業務”の代行を得意とします。素早くロボットの動作を変えられるため、業務変化にも柔軟に応じることができるのが特徴です」と説明する。

銀行での活用法については「たとえば、口座開設の処理や各支店の実績の集計など人力でやっていたことをロボットに任せられる。メールでもらった数字をエクセルにコピー&ペーストしてまとめるような面倒くさい作業もRPAが担えます」と話す。

RPAを利用しているのは銀行だけではない。ある通販会社では、RPAの導入によって熟練スタッフ10名がしていた作業を新人スタッフ1名で処理できるようになったという。「ホワイトカラーの業務の半分はルーティンワークといわれています。RPAを使うことで、ビジネスパーソンは余った時間を別の仕事やプライベートにあてることができるようになります」。

■転職希望者続出「通常の2〜3倍」

そんな中、転職を希望するメガバンクの社員たちがここ半年ほどで急激に増えているという。採用コンサルタントの谷出正直氏は「感覚では、転職マーケット内のメガバンク社員は通常の2〜3倍ほどになっている」と話す。

「各行はRPAで業務を減らした分は定年退職や新卒採用の絞り込みで賄おうとしているが、本当にそれだけで3万人を削減できるのかは疑問が残ります。もちろん、長引く低金利や仮想通貨の台頭で銀行の先行きが不透明なのも大きな不安要素ですが、たとえ会社が生き残ったとしても今後は人間が担当できる業務は限られてくるので、将来自分がやりたい仕事を本当にできるのかなどを銀行員は考えています」

この動きに人手不足に悩む介護業界や流通業界などが敏感に反応している。手先を使う職種や付加価値の高い営業職はAIに置き換わる可能性が低いとされており、そのうえで「メガバンクというお墨付きは大きく、20代の行員は人気」なのだという。一方で「30代以降は給料が高すぎるため、人気が落ちる」と谷出氏は説明する。

(プレジデント編集部 鈴木 聖也 写真=ロイター/アフロ)