三ツ沢はアクセスも悪い上に老朽化している。内部施設も貧しい。J1の試合を行う場としていかがなものかと一言いいたくなるが、そうした不満はひとたび試合が始まると、沈静化に向かった。

 プレイを近くで見られる上に、視角も上々。ピッチとスタンドの距離が短い専用スタジアムというわけで、眺望は上々。見かけは立派だが、眺望は最悪と言いたくなる横浜国際・日産スタジアムとは、真逆のような関係にある。

 その三ツ沢で土曜日に行われたJリーグ、横浜Fマリノス対コンサドーレ札幌戦。横浜が3-0で勝利した試合だが、そのサッカーと三ツ沢とはとても良好な関係にあった。横浜国際で観戦するより、よりよいモノに見えたと思う。華やいで見えたと言ってもいい。

 スタンドの目と鼻の先にあるタッチライン際で構える両ウイング(左・斎藤学と右・マルティノス)が存在し、かつ活躍するシーンが目立ったからだ。

 左の斎藤は、中村俊輔退団後のチームにあってはエース格だ。背番号も元エースをイメージさせる10番(ウイングには似つかわしい番号とは思えないが)だ。その選手がスタンドの目の前でプレイすれば、観戦にはお得な感じがついて回る。

 だが、この日、それ以上に観衆が目を凝らしたのは、右のマルティノスだろう。昨年加入したキュラソー島出身で元オランダU−17の経歴を持つ左利きのドリブラー。またぎフェイントをはじめとするボール操作術と、相手ディフェンダーに突っかかっていく様は訴求力の高い、この試合の見せ場のひとつになっていた。

 この両翼が高い位置で張るサッカー。欧州では普通に見かけるが、日本で遭遇する機会は少ない。そもそも4−3−3という布陣を採用するチームが少ない。欧州における使用率は、4−2−3−1と双璧だと言うのに、だ。この日の札幌がそうであったように、欧州では1割程度にしか過ぎない5バックで後ろを固める守備的サッカーが、幅を利かすJリーグにあって、そのサッカーはひときわ新鮮な存在に見える。

 モンバエルツ監督は、それまでベンチを温めていたウーゴ・ヴィエイラを後半25分、2人目の交代選手として投入。するとこのポルトガル人のストライカーは、その3分後には、サイドからの折り返しを、ゴール前で奇麗に合わせ存在を誇示した。試合はベンチの思惑通りに進んだ。

 外国人選手の話を続ければ、左足のアウトフロントで鮮やかな先制点をマークしたMFバブンスキーにも目が行く。なにより、軽やかなボール操作がいい。ふと、かつて在籍したビスコンティを彷彿とさせる、横浜らしい選手に見える。

 もう1人であるデゲネクは豪州代表の長身CB。まだ22歳だが、守りは堅そう。危なっかしさを感じないタイプだ。

 クーマン、ミカエル・ラウドルップ、ロマーリオ、ストイチコフのスーパースター4人を、外国人枠3人の時代に使い回したクライフ時代後期のバルセロナを想起する。

 思わずバルサを想起したのは、はやり、それだけ華を感じたからだ。三ツ沢という舞台にこちらが多少、煽られた面もあるだろうが、また見たいチームになったことは確かだ。

 昨季まで、横浜で華と言えば中村俊だった。そうした意味での主役がチームを去ったのに、サッカーそのものの華は増した。個人が咲かせる花と、チーム全体が咲かせる花と、どちらが美しく見えるかと言えば、僕の尺度では後者だ。サッカーそのものの美しさは、個人のそれを凌駕する。

 Jリーグで、サイド攻撃にこだわるサッカーと言えば、監督が「理想はバルサ」と言い切る鹿島が代表的な存在だ。個人的には、バルサと言うよりアトレティコ。華より厳しさの方が前面に出るサッカーに見えるが、いずれにせよ、鹿島と横浜はJリーグにあっては、欧州的というか、今日的なサッカーに属する。日本サッカー発展のためには、こうしたチームが好成績を収める必要がある。

 鹿島と横浜。両者の直接対決は来る10日。今度の金曜日に行われるこの一戦は面白そう。必見に値すると僕は思う。